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文化祭のトラブルは図書室で解決します ②

 昨日の夕方、置きっぱなしにして帰宅した図書室の机の上から、文芸部の会誌を入れていた段ボールごと紛失したことが判明したのだった(がーん!)。


 私たちは大いに動揺しつつ、図書準備室で緊急ミーティングを開催した。

 連日のトラブルで部長の江藤はお通夜みたいな顔をしてて、副部長の小宮はケガと精神的なショックで自宅療養中で今日は登校していない。

 文芸部のトラブルに図書委員会を巻き込むわけにもいかないので、メンバーは集まれた文芸部の数人で、私が話を進めるしかないようだ。


 消えたのは会誌『はとらく』31号で、図書室のカウンター横の大きなテーブルの上に200冊、段ボールの中に入った状態で、確かに置かれていた。部員用として刷った見本分は別の場所に保管していて無事だった。

 昨日、私たちが帰ったすぐ後に用務員室に行って、「図書室に忘れ物をした」と言って、図書室のカギを借りた生徒がいたらしい。

 カギの貸出ノートには、クラスと名前の記載はあったものの偽名で借りられていて、そんな名前の生徒は鶴谷城高校にはいなかった(セキュリティ、ざる過ぎない!?)。


 しかし、正直、人気のない文芸部の開始を盗むなんて、誰のイタズラ?

 文芸部に恨みをもつ人間の犯行? そんな人いったけ?

 みんな犯人にこころあたりがなくて、困った私たちは、何かヒントがないかと、残っていた会誌の見本を、最初から最後まで時間をかけて目を通してみた。


 うーん、こうして改めて読み直すと、ああすればよかった、こうするべきだったって反省点が山ほど出てくるなー。

 盗まれた原因を探るために読んでいるはずが、ついついほかの部員の短編や書評、作品紹介などを読みふけってしまう。

 配布するのに毎回苦労する不人気な会誌だけど、うちの文芸部の原稿、かなりレベル高くない?


「朝日さん、いま『うすいさえこ』にハマっているんですねー」

「部長の短編小説、やっぱ面白いです。私、こういうホラーっぽいミステリーって好きです」

「小宮さん、会誌のテーマも『蔦屋重三郎』なんですね。いろいろ調べてがんばってたのに、文化祭には参加できないんですかね(涙)」

 

 わいわいいいながら、みんなで最初から読んでみて、文字の間違いは多数見つかったんだが(涙)。


・誰かへの誹謗中傷

・なにかの告発

・隠された暗号


といった、内容になにか問題があって、それを隠すために盗まれたとか、そういった理由で盗まれたような形跡は見つからなかった。


 とにかくもう時間がない。明日から文化祭が始まる。展示物の準備もまだだし、会誌を刷りなおすなら今から始めないと間に合わない。

 いつもは配布用に200冊は作っていたけど、予算や時間的な問題を話し合って、今回は涙を飲んで100冊だけ刷りなおすことに決めた。


 それで、まさに刷り直しの作業をはじめようとした、その時!

 会誌『はとらく』31号が、1階階段下のデッドスペースに置き去りにされているのが見つかったとの知らせが、用務員の村井さんから図書室にもたされたのであった……。


 マジでー! いや、うれしんだけど! ほんっと、疲れる!

 慌ててみんなで1階階段下に駆け付けたところ、昨日見たまんま、段ボールに200冊収まった会誌が、そこにはあったのだった。



「へー、俺がいない間にそんな面白い事件が」

と数日ぶりに、疲れ切った顔をした田村が図書室に顔を出したのは、遅れに遅れた脚本書きから解放され、しっかり演出も行い、明日の本番前のリハーサル準備の合間を縫って、文化祭前日の夕方のことだった。


 津田さんも、気苦労の多いアニメーション部の冊子づくりやイラスト展示の作業から解放されて、溜まりに溜まった図書委員会の雑務をこなしつつ、私たち二人の会話に耳を傾けている。


「面白いって(苦笑)! 大変だったんだから!

 会誌200冊が見つかって、刷りなおす必要はなくなって。

 念のために残された見本と盗まれた本と比べたんだけど、なんの違いも見つかったの」


 そう、見つかった会誌に問題がないか、盗まれたヒントがないかと、手分けして確認したものの、違いはなにも見当たらず、顧問の相沢先生や学校司書の山口先生にも見てもらったけど、問題らしきものは発見できなかったのだった。


 すると、うつろな目をしながら栄養ドリンクを飲みながら聞いていた田村が、

「見本と盗まれた会誌に違いがなかったんなら、簡単な話じゃん。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、見本と同じ内容になったんだよ」

 と、頭が回っていないはずなのに、冴えたことを言ってくる。


「それは私たちも思ったんだー。

 見本にはなかった、なにか問題になる原稿とか混ざっていて、そのページだけを抜きとるために盗んだんじゃないかって。

 だけど、会誌をバラバラにしてホッチキスで再度止めたとか、それらしい形跡はなかったのよ」

 その時、一心不乱にパソコンに入力作業をしていた津田さんが手を止めて、

「それなら、盗まれたのは会誌をバラバラにしなくても抜き取れたものとかですかね?

 会誌には、なにか大事なものが挟まっていたんじゃないですか?」


 えー、なにかの間違いで、お札でも挟まってたのかな?

 待てよ。

 本に挟まっていて、簡単に抜き取れるものっていったら……。


 し・お・り…?

 しおり?

 しおり!!!???

 頭のなかで、会誌『はとらく』に「しおり」が挟まった様子を思い浮かべたその時、なにかを手に持って江藤が図書準備室に入ってきた。


「ねー、朝日さん。

 会誌を入れていた段ボールの底に、こんなしおりが一枚挟まっていたんだけど。

 文芸部でこんなしおりを配る予定なんてあったっけ?」


 それは、西柏市にある大人気ファミリーレストランのクーポン券を使ってて、ご丁寧にラミネート加工して、丸い穴を空けてかわいいリボンを通して結んである「しおり」だった。


 私と江藤には見覚えのあるクーポン券だった。

 そのクーポン券は、島田がまだよく部室に来てた頃に、お父さんが店長だからとかで、部員によく配られていたものだったから。

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