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文化祭のトラブルは図書室で解決します ①

「朝日さん、文芸部のこともちゃんと考えてね」

と、本の延滞・紛失キャンペーンのまっただ中だったある日、文芸部・新部長の江藤みゆきからチクっと、くぎを刺されたのはやや不本意だった。



 私が所属している文芸部は、二年生がたった5人しかいないんだけど、そのうち二人は幽霊部員でめったに顔を出さなくて、部長の江藤と副部長の小宮至の以外でまじめに部活に出ている二年生のは私ぐらいなのに。

 前・図書委員長と副委員長は文芸部の先輩だったので、なんとなく「朝日は図書委員会のほうをお願い」という雰囲気を感じてたから、イケメン生徒会長からの図書委員長就任へのオファーにも驚かず受けたんだけど……。

 オファーが偶然っぽかったのは驚きだったけど。


 確かに11月の文化祭直前にもかかわらず、新・図書委員会の仕事が忙しくて、文芸部にほとんど顔を出してなかったんだけど!

 そんな言い方しなくてもいいじゃん!


「文芸部・会誌『はとらく』の編集長は私が担当しているし、パネル展示は(副部長の)小宮が準備しているから、朝日さんは、『しおりづくり体験』コーナーを仕切ってね!」

と、図書室にまでわざわざ顔を出してきて、他の図書委員もいる前で、嫌みたらしく言われたので、

「あの、文化祭のときには図書室を一般の人に向けて休憩所として開放するんだけど……」

と反抗を試みるも、

「梨花が図書室にずっといなくてもいいでしょ!

 こっちも当日ずっと展示室にいてとは言わないから。しおりづくり体験の段取りと担当者を交代で決めてくれるだけでいいから、お願い!」

と、さらにくぎを刺されたのであった。


 なんかなー、江藤、文化祭前で部員から原稿が集まらなくてカリカリしてるのか、私にあたりが強くない?

 だいたい「しおりづくり体験」とか図書委員会でやってもいいのに、文芸部に遠慮してやらないようにしているって話なのにさー!

 あ、いけない、いけない。

 確かに部員として、図書委員会のことだけでなく、文芸部のことも考えないと……。



 文化祭では、3階の奥にある図書室を「読書週間」(10月27日から11月9日まで)の期間中ということもあって一般の人に開放している。ただ、本の貸出はやっていない。

 また、普段は飲食厳禁だけど、文化祭を見に来た人の休憩所がわりにもなるので、スペースを区切ってお茶を出したりしている。


 図書委員会でやることと言えば「読者週間」の案内と、おすすめ本コーナーの作成、文化祭を見に来た人への案内ぐらいで、それほど仕事はない。

 ちなみに、おすすめ図書コーナーは「読んでそうで読んでないベストセラー」ということで、ゼロ年代(2000年代)に刊行された、本のタイトルは聞いたことはあるけど読んだことがなさそうなベストセラーを選んで、推薦文をつけて並べてみた。


 各図書委員も、クラスの出し物や部活の活動を優先することになる。

 私は、図書委員長&文芸部ということが知られているからか、クラスでたいした役割はないが、副委員長の田村や書記の深津さんはクラスや部活がたいへん忙しいようで、延滞・紛失キャンペーンが終わってからは、用事があるとき以外、図書室に顔を出さなくなった。


 特に演劇部の脚本・演出を担当している田村は、部室だと脚本書きに集中できないとかでしょっちゅう図書室でスマホをいじっていたんだが、遅々として進まない脚本づくりを演劇部の生徒が頻繁に催促しに来るようになってからは、定例会以外はまったく姿を見せなくなった。


 私のほうは、文芸部の展示教室で行う「しおりづくり体験コーナー」の準備を進めながら、文化祭中の図書室のシフトづくりにいそしんでいた。

 文芸部の展示をする教室と図書室は、同じ3階の奥なので、融通が付きやすく助かった。


「しおりづくり体験」は文芸部が文化祭で行う定番コーナーであるものの、それだけじゃ物足りなくなって、書店の店頭に飾られているハガキサイズのPOP(point of purchase、本の宣伝カード)を作るコーナーを追加することにして、準備を進めていた。


 田村&深津さんの不在の代わりといってはなんだが、キャンペーンに協力してくれた生徒会のメンバー、特に生徒会長の佐久間君が図書室に来るようになって、いろいろと手伝ってくれている。


「佐久間君、最近、図書室によく居ない? 手伝ってくれるのはありがたいけど、生徒会室にいなくていいの?」

と私が聞くと、

「生徒会室にいると、ずっと誰かに話しかけられるから。時々、図書室の静かな空間でじっくりと考えごとをしたいときもあって」

と、答える佐久間君。

 へー、意外! 外見だけかと思ったら、生徒会のこととか学校のこととかちゃんと考えているんだ! それとも、なにか好きな本や作家がいるのかな?


 生徒会長のファンらしい一年生の女子とかが遠巻きにこっちを見ているのに気づいて、これ幸いと「しおり&POPづくり体験コーナー」への参加を、佐久間君にお願いしたところ、

「文化的な活動で、文化祭にふさわしい活動だね。

 時間が合えば生徒会のみんなと参加させてもらうよ」

と、快諾をいただき、参加を事前に告知してもいいという約束も取り付けた。

 で、流石イケメン生徒会長。参加表明してもらう回の予約数は瞬殺で埋まった。


 しおりとPOP用の紙や印刷機、ラミネート(紙や写真を透明なフィルムで覆い、耐久性や美しさを向上させる)加工用の材料や機械の手配などをしつつ、そんな慌ただしい日々の中で、図書室で下巻だけ本が紛失した件を解決したりしていたのだけど、まさか新たな事件が起こるなんて……。



 文化祭が2日後に迫り、図書準備室で一人、コツコツと図書委員会のほうの雑務をこなしていたら、近くの教室から者が倒れるような音と複数の悲鳴のような声が聞こえてきた。

 文化祭直前で学校内全体がにぎやかなのはしたかないものの、さすがにうるさすぎないかと思っていたところ、「ピーポーピーポ―」と救急車の音まで聞こえてくる。


 なにが起こったのか様子を見ようと図書準備室を出たところで、

「梨花、大変なことになった!」

と、真っ青な顔をした江藤ほか文芸部の数人が、図書室に駆け込んできた。


「たいへんなことってなに? 江藤」

「文芸部の展示をする教室が使えなくなっちゃった!」

 え、どういうこと!?


 文芸部は今回、展示用として3階の教室を割り当てられてて、会誌『はとらく』31号を200冊無料で配布するのと、大河ドラマになった「蔦屋重三郎」をテーマにした「江戸の文化」の企画展示を準備中で、それ以外はしおり&POP体験コーナーを1日3回、2日で計6回行うことになっていた。


 で、さっき展示担当の小宮ほか数人が、教室で手配済みのパネルを設置していたところ、パネル数枚を転倒させて、窓ガラスを破損させてしまったんだって!


「えー! マジで! パネルが倒れたぐらいで窓ガラスが割れたの?」

「それが、パネルが窓側にドミノみたいにバタバタ倒れたんだけど、パニクった小宮君が倒れかけたパネルを支えようとしてコケてしまって。

 全体重をパネルに乗っけて、とどめを刺すような大惨事になってしまって(涙)」


 パネル数枚が真ん中から曲がって窓ガラスに突き刺さり、あの頑丈なガラスが数枚は逝ってしまったらしい……。

 ああ。小宮、デ……ふくよかだからなー。


 窓ガラスには数枚派手なヒビが入った上に、小宮が腕を負傷してしまって現場は大変なことになったらしい。

 さっき聞こえた救急車の音ってそれかー。命に別状はないらしいけど。

 それで、窓ガラスの修理が文化祭の後にならないと業者さんが来てくれなそうで、展示用に借りた教室が3年の学年主任、鬼沢先生のクラスだったこともあり、展示室の使用も危ぶまれているそうで……。


「なんか、鬼沢のヤツが窓ガラスの割れた部屋の使用は安全面から不安だとか言ってて。 (文芸部顧問の)相沢先生が掛け合ってくれているけど、無理っぽい。

 それで梨花にお願いがあって……。もう時間もないし、結論が出るのを待ってられないから……。

 文芸部の会誌の配布とパネルの展示、しおり&POP体験用コーナーのために、図書室を使わせてもらえないかな(涙)?」


 あー、青い顔をして江藤が駆け込んできたのって、そういうこと……。

 普段はヒスってることの多い江藤だけど、いまは気の毒なぐらいしおらしくて、不謹慎にもかわいいなー、とさえ思ってしまった。

 急転直下の話ではあるものの、文芸部の一員としても図書委員としても協力するは当たり前なので、もちろん協力するよ!


 当然、私の一存で決められる話ではなく、大至急、学校司書の山口先生に了解をとり、話し合いをしてた鬼沢先生と相沢先生のところに相談に行った。

 それで、もろもろの許可を取り、文化祭を取り仕切っている生徒会にも行って場所の変更届を出すなどの作業を行い、図書室を代理に使うことの了解を取り付けのだった(疲れたー)。


 で、図書室の使用の件なので各図書委員にも連絡して、深津さんからは「大変ですね。私も協力します」とありがたい返信があり、ほかの図書委員からも応援メッセージをもらったが、田村からはおちょくるような連絡すらなかった。

 さすがに、もう脚本はできあがっていると思うけど……。


 許可がとれたので、展示予定だった3階の教室から、配布予定の会誌が入った段ボールと破損していない展示用パネルや展示物などを、文芸部のみんなで図書室に移動することにした。



「あれ、会誌ってこれだけ?」

 教室に置かれていた小ぶりな段ボールには十数冊しか会誌が入ってなかった。いくら文芸部の会誌に人気がなくても、これは寂しいなー。


「ううん、これは部内の見本用、朝日さんも確認したでしょ。いったんテスト刷りして部員分を作ってみんなで回覧して問題なければ、200冊を作ることになってて。

 いまシマシマコンビを中心に刷ってるところ」


 シマシマコンビっていうのが、二年生の幽霊部員の島田と田嶋の二人。あいつらは会誌にもろくに原稿も書かなったから、せめてこれぐらいはやってもらおうということらしい。

 コピー誌でも刷って折ってホッチキスで閉じるのに一日かかり、かなり重労働になるから……。でもあの二人、おおおがらで体力はありそうだよね(笑)。


 なんて話をしていたら、完成した会誌が入った段ボールを台車でシマシマコンビが運んできたので、配布用の会誌の準備まで完了。

 そろそろ下校の時間で、みんなくたくたになったので、学校に残るための申請は行わずに、明日の午前中から展示物を設置することにして解散したんだけど……。



「梨花、大変なことになった!」

と、真っ青な顔をした江藤ほか文芸部数人が、クラスでの用事を済ませ、図書室に顔を出した私に駆け寄ってきた(デジャブ?)。


「昨日、ここに置いて帰った会誌が盗まれたみたいなの……」

えー!!!

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