謎解きは高校最後の夏休みに ④
私は、積読した本のメッセージ事件の犯人たちを前に、頭の中で推理を整理しながら、話しはじめた。
「まず、犯人が複数犯で組織ぐるみなのは、本に込められた『メッセージ』の置かれ方から予測できたの。
そして、図書室に増えた本は、図書ラベルやフィルムの感じから、市の図書館のような他の図書館から持ち込まれたものではないはず。
最近、購入されて整理した本だということは見ればわかるから、過去に鶴谷城高校の図書室から紛失したた本でもない。
こんな手の込んだことは、図書委員が犯人に協力していないと無理。ううん、山口先生が協力していないと無理かな。
積読本のメッセージが警告していたことが、この『本が増える』ということなら、私たちが喜ぶだけだから、図書委員会に恨みのある人の犯行とも思えない。
夏休み前、図書室が開いているときに本が増えたんだったら、その本を借りようとする人がいて、本が紛れ込んでいることがばれるかもしれない。
そのことを考えると、犯行日は夏休み中、っていうか、たぶん今日だよね。
複数犯で、図書委員が共犯者で、棚卸しを犯行日として狙えて、私たちに気づかれずに仕込みができるってことは?
犯人はこの中にいるんじゃない? で、気づいたの」
そこで、一呼吸を入れて、謎解きの最後のピースを埋める。
「これはミステリー小説の定番の一つ。
探偵以外の全員が犯人のパターンなんだって!」
その瞬間、田村が、
「うわー、また気づけなかった!
ベタベタなトリックじゃん」
と大声をあげる。
「あー! そういうことなんですか!」
と、安心した様子でにっこりと笑う深津さん。
「この結末を仕組んだのは誰? 江藤かな(怒)?」
と私の怒りの矛先を江藤に向けると、
「梨花、さえてるね!」
とうれしそうな江藤。
江藤~! おまえー!!!
「正直、図書室や図書委員会に恨みがあるとかじゃ、まったくなくて偶然が重なったことがきっかけなんだけど」
と、みんなを代表して話をはじめたのは、やっぱり江藤で。
「はじまりは、いま私が書いているミステリー小説のトリックを考えるのに煮詰まってしまったことで。
生成AIとかに相談するのは負けた気がするので嫌だったんで。
なにかのヒントにならないかなーと思って、後輩の佐々木に、
『なんでもいいから本のタイトルの頭文字を読むとメッセージになるようにして、何冊か本を借りてきて』
って頼んでみたことなんだ。
そういう自分が予測できない行動の中から、思いがけないトリックのヒントとかが、生まれてこないかな? と思ってさ」
「そうなんです。朝日先輩。
僕が江藤先輩に頼まれました」
と、文芸部で後輩の佐々木君が話を引き継ぐ。
「あの日、図書室で本のタイトルを見ながらメッセージもを考えて、タイトルの一文字目を並べると『ねらわれてる』になる本を選んで借りようとしたら、カウンターで朝日先輩が寝てて……。
どうしようかと思って、とりあえずカウンターにそっと本を置いたタイミングで、親からLINEにメッセージが来て。
いったん図書室を出て、少し離れたところでやり取りしていたらケンカになっちゃって……。
で、親とのやりとりが終わったころには、もう図書室の閉館時間を過ぎていたので、あわてて戻ったら朝日先輩と深津さんが話をしているのが廊下にまで聞こえてきて。
時間も過ぎていたので、どうしようかなと思っていたら『どなたですか?』って声がして、『盗み聞きしてたと思われるっ!』ってあわてて逃げちゃって……」
佐々木君、いくらなんでもあわてすぎじゃない?
その話を、江藤が引き継ぐ。
「それで、佐々木から、『借りられませんでした』って報告を受けて。
じゃあ、別の日に借りてきてもらおうと思ったら……。
なぜか、図書委員会で『メッセージ』のことが話題になっているって話を聞いて、
『面白いことになった! なにか小説のヒントにできるかも!』
って思って」
面白いとか思うなよ!
あと誰だよ、図書委員会の内部情報をリークしているの? 畑中かぁ?
「それで、もう一回メッセージを図書館に置いてみようって思って。
佐々木に指示を出したら……」
「僕たちがその現場を見つけて」
とそこで、元・新聞部で元・迷惑系炎上ユーチューバーの金井、里崎の二人が話し始めた。
「なんか、図書室で変なメッセージを残すのが流行っているって話が伝わってきて。
それで、俺たちが犯人だって疑われてるって聞いたから。
ムカついたんで図書室に様子を見に行ったら、たまたま隅のほうでこそこそと本を積みあげてる、こいつがいてさ」
と、佐々木君を指す。
「その場で捕まえて、『なにしているんだ』って問い詰めたんだ」
「図書室だから、ちゃんと静かに聞いたんだよ」
ほんとかよ。また動画を回してたんじゃないの〜?
「そしたら、なんか面白そうなことやってるから、俺たちも混ぜてもらって、メッセージを置くことに協力することにしたんだ」
「一人がおとりで図書委員の注意を引いている間に、もう一人が本のメッセージを机の上に残したりしたんだ」
じゃあ、あながち最初の推理がはずれていたわけじゃなかったのか。
「でも俺たち、新聞部は辞めちゃったけど、ジャーナリズムとか難しいことはわからないから辞めただけで、恨みとかないから!
面白いことをしたいだけだから! ユーチューバーも、怒られたて辞めたし!
生徒会長にも、サイン会のことも、悪いことしたって今は反省してます」
本当かなー。あと、江藤の秘密は絶対に話すなよ!
そこから江藤から説明が続いて、しばらくは図書室に積読メッセージを置いて遊んでいたんだけど、図書委員会のほうで話が大事になってきたので。
最後に「サプライズをしかけてネタバラシをしよう」という話になったそうで。
「私が伊藤君に、『図書委員会が喜ぶことってなにかな?』って聞いたら、
『そりゃ図書室に本が増えることじゃないですか』って言われたんで」
伊藤、お前までグルなのかー!
と、にらみつけた私の視線に、あわてて目をそらす、伊藤。
後で覚えてなさいよ!
「みんなで図書室に寄贈したい本を持ち寄って。
三人が図書室に来ない日に、図書委員の二年生を中心に、図書室でラベルとフィルムを貼って、本を持ち帰ったの。用意した本が万一見つからないようにって。
それで今日、棚卸しをしながら本を置いていったんだ」
それは、それは、わざわざ、ご丁寧なことで……。
「なんかごめんねー。
メッセージ自体には意味はなくて、それぞれ、その場で適当に考えたものなんだけど。
そこまで深刻に受け止められるとは思ってなくてさー、ごめんなさい」
と、深津さんを見ながら、あやまる江藤。
で、話を続ける。
「できればサプライズにしたかったんだけど……。一つ目は失敗(苦笑)。
それで、まだ二学期の任期が残っているんだけど……」
と、どこに隠されていたのか、三人分の花束が登場した!
「朝日さん、田村君、深津さん、図書室と図書委員会を一年間、こんなに盛り上げてくれて、ありがとう!」
と、江藤と、佐藤君、伊藤から、私たち三人に大きな花束が手渡された。
そして、みんなに囲まれて、拍手を浴びまくる三人。
ちっくしょー、こんなのされたら、泣いちゃうじゃん!
読書の秋はこれからなのに、夏休み中に図書室が盛り上がっちゃったじゃん!
まだまだ暑すぎる夏の日、冷房の利きの悪い図書室で、みんなの感謝の言葉を浴びながら、照れまくる私たち三人。
一年前に、こんなに感動する日が来るとは思ってなかったな。
ありがとう、みんな!!!




