おじいちゃんが最後に読んでいた本 ②
関さんのおじいさんが、写真の中で抱きしめていた本は、やっぱりナンプレの本だった。
それは、表紙にデカデカと「認知症予防」って書かれた、初心者向けの本だった。
おじいさんが、自分のためでなく、おばあさんのために買った本だったのだ。
昨日、おばあさんの部屋を探したときは本は見つからなかったんだけど。
おばあさんが病院に検診に行っている間に、再び関さんが調べてみたところ、ベットの枕の下にあったのが見つかったのだった。
それで、認知症が進んでいるおばあさんから、関さんがなんとか聞き出した話によると。
おじいさんが亡くなる前の日、つまり写真を撮った日に、「認知症が良くなる本だよ」と言って、プレゼントしてくれたらしい。
それを聞いたおばあさんは、ナンプレを解かずに枕の下に本を敷いて眠ったそうだ。
おじいさんが、最後に読んでいた本はわからないけど、最後に手にしていた本は、おばあさんのための本だったよようだ。
「枕の下に本を敷いて寝ているおばあちゃんもおばあちゃんだけど。
プレゼントしたおじいちゃんもおじいちゃんですよね。
認知症がかなり進んだ後に、ナンプレをやっても、もう効果なんかないですよねー?」
と関さんが、あきれたような、少しさびしそうな様子で教えてくれた。
おじいさんがどういう気持ちで、おばあさんにナンプレの本を渡したのかは、もう誰にもわからない。
読書好きな人だったようだけど、本当に認知症に効果があると思っていたのか、効果がないとわかってても読ませたいと思ったのだろうか。
週末には、つつがなくおじいさんの葬儀が行われて、関さんからは図書委員会へのお礼のメッセージをいただいたんだけど。
そのとき、たまたま文芸部の部室でいっしょだった清水さんに、
「おじいさんの買った最後の本がナンプレだったこと、どう思った?」
と声をかけると。
清水さんは、ちょっとムッとした表情で、
「なんでそんなこと聞くんですか!
今回のことがあったからって、私は朝読でナンプレをやる人を認めようとは思いませんけど!」
と、ぴしゃりと言う。
こわっ!
だけど、そのあとに、
「でも朝日先輩。
私にとって必要ない本でも、誰かにとっては必要な本かもしれない、とは思うようにはします!」
そーですかー(笑)。
おばあちゃんは本を敷いた枕の高さが気に入ったのか、そのままナンプレ本を枕の下に敷いて眠っているらしい。
週末は、真夏の暑すぎる日だったんだけど、雲ひとつない青空だったそうで、おじいさんが空に登っていくには、いい天気だったかもしれないな。
私は、まだおじいちゃんもおばあちゃんも元気なので、夏休みになったら、田舎に遊びに行って、ご先祖様のお墓参りに行こーっと。受験生だけど(笑)。




