おじいちゃんが最後に読んでいた本 ①
本に挟まれたメモ用紙の件が無事に解決した数日後。
二年生の関さんが、相談ごとがあるといって、図書委員の清水さんといっしょに訪図書室に訪れた。
「実は一昨日、おじいちゃんが急に亡くなって……」
「え、ええ! そ、それはご愁傷様です」
「急だったんで驚いたんだけど、だいぶ年だったし……。
家も葬儀の準備でバタバタしていて、悲しいとか思っている暇もなくて、私は大丈夫です」
よく見ると、関さんはたくさん泣いたんじゃないかなっていう腫れぼったい目をしてた。
「それで、ちょっとダメもとで相談したいことがあって……」
と、話を続ける関さん。
この前のメモ用紙の件で関さんには迷惑をちょっとかけたし、開かれた図書室を目指す私たちとしては断る理由はりません。お話を聞きましょう!
すると、関さんが、スマホを取り出して写真を見せてきた。
そこには、関さんといっしょに高齢な男性が写っていた。
笑顔でピースしている関さんの隣で、笑顔のご老人。胸の前で両腕を組んでいて、なにかを持っているようだ。
「うちは二世帯住宅で。
おじいちゃんとおばあちゃんと、私の家族でそれぞれ住んでるんです。
これ、たまたまおじいちゃんが亡くなる前日に撮った写真なんですが。
この写真を撮った次の日に、おじいちゃんが脳梗塞で倒れて、そのまま亡くなってしまって。
今度の週末に葬儀が行われるんだけど」
ふむふむ、それで?
関さんが写真を拡大する。
「ここを見てほしいんだけど」
そこには、おじいさんが両腕で抱えているのなにかの本が写っていた。本は両腕にすっぽり収まっている。なんの本かは不明だ。
「この写真に映っている本がなんの本か知りたいんです。
これ、おじいちゃんが最後に読んでいた本だと思うから、できればお棺に入れてあげたくて……」
つまり、この写真に映っている本がなにか、葬儀までに知りたいという相談でした。
それで、今は図書室に私しかいなかったので、図書委員会のSNSに、今聞いたことを写真といっしょに投稿して、みんなの意見を募ることにした。
手がかりはいまのところ写真一枚だけで、おじいさんが両手で抱えているのが、かろうじて本だとわかるぐらいの状態だ。
するとSNSに、図書委員たちの意見がバシバシと飛び交った。
「映っているのは本の裏側ですね。バーコードの一部が左下に映っている」
「バーコードがあるなら、どの本かすぐわかるんじゃないの?」
「いや、本のバーコードって二つあって下側のバーコードだと価格しかわからないから、これだとわからないなー」
「これ、バーコードの位置や背表紙の位置からすると横書きの本だね」
「なんかそんな小説があったよな?」
「米澤穂信の推理小説じゃない?」
「いまは関係ない話はするなよ」
「推理小説をヒントにしてなにが悪いんだよ」
「手に収まっている感じからすると、本の大きさは、単行本ぐらいかな?」
「これ、カバーはしてないよね? カバーをとっちゃったのかな?」
「それならバーコードがないでしょ。カバーを取って表紙だけならバーコードは載ってない」
「横書きでカバーのない本ってことは、小説やマンガじゃなさそう」
「教科書や参考書かな?」
「いま解いてる、問題集がそーでーす(笑)」
「さっきのバーコードで価格だけはわかった。税込600円!」
「安っ! 新書か文庫かな?」
「いや、いまどきの本はもっと高いって!」
「昔の本じゃない?」
「カバーがないし安いんだから、コンビニで売っている本じゃない?」
「コンビニの雑誌コーナーにあるような本ってなんだ?」
「裏表紙も白だし、両手でがっしりかかえているから絶妙になんの本かわらないねーこれ」
みんな、ここぞとばかりに、知っている本の知識を出し合って競ってくるなー。ありがたいけど(笑)。
他にもいろいろ意見が出たが、いつものように、深津さんが整理してくれた。
・映っているのは本の裏側で、全体の色は白で、左下にバーコードがあるが、隠れていてほとんど写っていない
・本の大きさは単行本サイズ? 価格は税込600円? いまどき、かなり安いほうの本になる
・本の閉じ方からすると横書きの本のようだ
・カバーもないので、縦書きの小説やマンガなどではなさそう?(例外アリ)
・横書きでカバーもない本だとすると、教科書や参考書かなにか?
うーん、だいぶ絞れた気がするけど、これだけの情報ではまだ何の本かはわからない。
いったん、私たちの考察を関さんに伝えると、
「やっぱりわからないですよね……」
とあきらめムードの関さん。
関さんも、おじいちゃんの部屋を探してみたそうだが、写真に映っているような本は見当たらなかったらしい。
「おばあちゃんにも聞いてみたんですけど、最近、認知症が進んでいるみたいで、わからないって……。
実はおじいちゃんが死んじゃったことも、まだよくわかってないみたいで(涙)」
そ、そうですか……。
それで書店でバイトしている伊藤が、集まった情報と写真をミナミ書店の沖田店長に送って相談してくれることになったので、その返事を待ちつつ。
さらなる証拠集めのために、関さんの家に行ってみることにしたんだけど。
おじいさんが亡くなった家に、大勢でぞろぞろ行くのも微妙なタイミングなので、ひとまず関さんと清水さんの二人だけでヒントがないか、調べてもらって明日報告してもらうことにした。
次の日、清水さんから昨日の調査結果を報告してもらった。
おじいさんの部屋をあらためて二人で調べてみたけど、それらしい本は見つからなかったそうだ。
念のため、おばあちゃんの部屋も探してみたけど、何も見つからなかったらしい。
清水さんが、おじいさんの本棚の様子を写真にとってきてくれたんだけど、難しそうなハードカバーの本がたくさん並んでいて、読書が好きな感じがする本棚だったけど、ヒントは見つからず。
正直、数百円のカバーをしていない本が並ぶような雰囲気の本棚ではなく、なにかの参考書か資料のために購入したのかな? あるいは健康本とか? 終活本とか?
捜査が行き詰まったけど、伊藤がミナミ書店の沖田店長から聞いてきた情報で、本の正体はほぼほぼ解明することになる。
「店長から聞いた話をまとめると、
・四六判 ・カバーがない ・横書き ・価格が600円 ・購入者が高齢者
という特徴から、数独、ナンプレ系の本ではないかということです」
「数独、ナンプレって……」
「僕も知らなかったんですが、オセロとリバーシのように商標の関係で名前が違うそうですが、基本的には同じものです。
1から9までの数字を虫食いになったマス目に埋めていくパズル系ゲームの本です。
書店にある本で、カバーがない本は雑誌やムックが多くて、赤本なんかは横書きでカバーなしですが。値段は安くないです。
地図の本とか、ほかの分野でもカバーなしの横書き本はなくはないけど。こんな安い本は少なくて店長でもナンプレ(数独)のほかには思いつかないそうです。
こういったパズル本は、認知症予防にも利くと言われていい高齢者に人気だそうです」
そうなんだ! すごいな、沖田店長!
あっさり、そこまでわかるんだ!
でも、認知症の予防ってことは……。
ハッとした私は関さんに連絡をとって、おばあさんの部屋をもう一度調べてもらうことにした。
そして、次の日、すべてのパズルが解けることになる(数独だけに)。




