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朝読、なんて嫌い ②

「そのメモを書いたの、私です……」


とあっさり自供する二年生の図書委員、清水さん。

 えっ、犯人わかっちゃったよ! 田村、すごい!


 例によって図書準備室で、私と推理を言い出した田村と、人数が多すぎるので深津さんと伊藤には席を外してもらい、事件にかかわった畑中と、図書準備室で仕事中の山口先生にも参加してもらって、事情を清水さんから聞いたんだけど。

 メモを書いたのは、女子生徒と同じクラスで図書委員をしている二年生の清水さんで間違いなかった。


「すみません、メモは愚痴を書いただけで、

 朝読への批判とか図書委員会に苦情があるとか、そういうつもりは全然なくて……」

と、いつもは強気で明るい清水さんにしては、珍しく弱気な態度。


 清水さんは、私から見ても読書家で図書委員の仕事もとてもまじめにやってくれている。少しまじめすぎるぐらいだ。

 だからこそ、メモを書いたのが図書委員からもしれないという説については、そのクラスの図書委員が清水さんだったぶん、ピンときてなかったんだけど。


「朝読 嫌い」のメモが挟まれていた謎は、わかってしまえばたわいのない話だった。


 メモ用紙が本に挟まれた日、朝読の時間が終わり『夢をかなえるゾウ』を読んでいた関恵子さん(女子生徒の名前です)は、途中まで読んでいた本を持って、図書委員の清水に「ねー、麻衣、しおりをもってない?」と聞いたそうだ。


 そのとき、図書委員の清水さんはしおりを持っていなかったので、その代わりに手元のメモ帳からいらないページを1枚切り取って、縦に二つに折って「(しおりじゃないけど)これでいいー?」と言って、関さんに渡したんだそうだ。


 そのメモには例の「朝読 きらい」の一文が書かれていたんだけど、朝読中につい愚痴を殴り書きしたもので。

 深い考えはなく、無意識にメモ帳からそのページを切り取って、二つに折って渡したらしい。


 それでメモ用紙を受け取った関さんも、よく見ずに本に挟んだみたいで、あくまでしおりとして使った後、数日後にメモ用紙を本に挟んだまま返却したそうだ。

 つまり、関さんは、しおりのつもりで本を返していた。っていうか、挟んでいたことを覚えていたのかどうかも疑わしい。


 一方で、図書委員の清水さんは、メモに「朝読 きらい」と書いたけど、いらないメモ用紙として、しおりにして関さんに渡してしまった。


 ……以上、田村が、私が伊藤からしおりを一枚もらおうとしたのを見て思いついた推理だったわけだ。


 ちょっと無理があるんじゃないかと思ったんだけど、関さんと清水さんに話を聞いてみたところ、まさかの正解だった!

 マジで名探偵コナン! やるじゃん、田村!


 自分の推理が当たったことに興奮している田村は無視して、気になっていた「朝読書がきらいな理由」を清水さんに聞いてみることにした。


 すると、それまでうつむいていた清水さんが、顔を上げ、カッと目を見開き、


「(朝読が嫌いな理由は)時間が短すぎるからです!」


 と叫んだ。

 はい?


「私は、本はゆっくりじっくり落ち着いて長編の本を読みたいタイプなんです。

 朝読って時間が短すぎませんか?

 たった10分で読書を終わらないといけないなんて。

 あっという間に読書を中断しないといけないのがストレスで。

 本の続きが気になりすぎて、授業にも集中できません!

 それに、みんなが読む本が短編ばっかりで話が合わないし。

 なかには読んだ本の冊数を競い出す生徒もいて、朝読の本は自分で選んでいいことになっているからって、冊数を稼ぐために絵本を読んだり、速読の本を読んだり、くっだらない!

 おススメ本を紹介しても読まれるのは、すぐ簡単に読める本ばかりだし、中にはクロスワードパズルやナンプレ(数独)とかをやっている生徒もいるんです!

 あんなの本じゃない! 読書をなめんな! っていっつも思うんです!」


 あー、そういうことですか。深すぎる読書愛ゆえの朝読嫌いだったのね……。


 そこで、山口先生も深くうなづいて、

「わかるわー!

 朝読用に推薦図書のリストや紹介文を作らないといけないんだけれど、先生方からリクエストされるのは短編集や薄い本、読みやすそうな本ばっかり!

 内容もなにかに役立ちそうな本、なにかのメリットがある本ばっかり聞かれるし!

 生徒も生徒だけど、学校の先生のくせに、やたら意識が高くて、読書に速読とかコスパとかタイパとか求めるたがるヤツがいて。

『もっとたくさんの本を生徒に読ませたい』とか言って、量より質でしょ! 読書は! なんなのあいつら!」

 山口先生、実はストレスが溜まってたんですね……。


 本好きなら少しの時間でも読書タイムがあるとうれしいと思い込んでたんだけど……違った人もいたんだ。

 思いつかなかったなー。


 確かに、私たちは読書の時間をわざわざ作ってくれなくても、時間があったら本を読む。

 朝読は、日頃あまり本を読みたいと思ってない人たちに、本を読むことの面白さを伝えるためのもので、そのことは図書委員の大事な仕事なんだけど。

 それこそ、スマホの普及で「読者離れ」が進んだらしく、だからこそ朝読とかやっているんだろうし。

 でも本好きの私たちには、本を読むのが苦手とか、本に興味のない人の気持ちはわからないかも……。


 すると、我に返った様子の山口先生が、清水さんに、

「でもね、それでも朝の読書活動で読書の楽しさに気づいてくれた生徒はたくさんいるし、みんなの読書への可能性を広げているのは事実なの。

 自分の読書とは好みが合わないからといって、それを否定しちゃだめよ。

 本も図書室もみんなのために開かれていないといけないの。

 あなたにとって必要ない本でも、誰かにとっては必要な本かもしれないじゃない?」


「でも……」

と、納得のいかなそうな清水さんだったが。

 先生は続いて、鶴谷城高校は朝読に熱心だけど、朝読の誕生から数十年経ち、活動が形骸化されて縮小する学校もあったりしてて、その読書の時間もなくなる学校もあるらしい。

 図書委員としては由々しき事態だけど、読書を強要するのも違うし、朝読だけでも大切な時間として守っていかないといけないと、山口先生が熱く語る。


「わかりました……」

と、絶対納得してなさそうな表情の清水さんだったけど。

メモのこと自体は大ごとにするような話ではなかったので安心した。

 この件はこれでおしまい! 清水さんは、とくにおとがめなし!


 なお、後日わかったことがあって。

 メモ用紙のことを聞かれたときに、関さんはメモ用紙をしおり代わりとしてもらったことをなんとなく覚えていたようだ。

 ただ、なにか問題になると、清水さんに迷惑がかかるんじゃないかと思って畑中に聞かれても、しらばっくれていたらしい。


 畑中が本を盗んだときの伊藤といい、黙っているのは問題だけど、友だち思いな子たちなんだよなー。

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