朝読、なんて嫌い ①
「朝読 嫌い」
とだけ書かれたメモ用紙が挟まれた本が、図書室に返却された。
「それで、メモ用紙を挟み込んだのは、本を借りた生徒ではなかったんです」
と、説明してくれたのが。
二年生になって図書委員になった畑中(学校図書の器物破損の前科アリ)。
……どういうこと?
「どういうことって、話したまんまですが」
と、本日の図書カウンター当番だった畑中が、困惑した様子で答えた。
畑中が、昼休みに返却BOXに入っていた本を取り出して、いつものように返却作業を始めたところ。
ある本に「朝読 嫌い」と書かれて縦に折りたたまれたメモ用紙が挟み込まれていたそうだ。
それで、その本を借りた女子生徒のクラスに行って、メッセージの内容は伏せたまま、
「返却した本の中にメモ用紙が挟まっていたんだけど」
と、折りたたまれたメモ用紙を女子生徒に差し出した。
しかし、その女子生徒は、「そんなメモを挟んだ覚えはない」との返事だったので、戻ってきて図書委員長である私に報告したのだそうだ(イマココ)。
……はぁ。
【朝の読書活動】
毎朝、ホームルームや授業の始まる前の10分間、生徒と教師がそれぞれに、自分の読みたい本を読む活動。「みんなでやる」「毎日やる」「好きな本でよい」「ただ読むだけ」を原則とした感想文や評価のない自由な読書活動で、1988年に千葉県の高校教師の提唱で始められ、全国の学校に広がる。
「朝の読書活動」、略して朝読は千葉県発祥の活動ということもあって、鶴谷城高校でも毎日10分、朝のホームルームの時間に行われている。
朝読で読む本は生徒が自分で用意するんだけど、図書委員もおススメ本の紹介や図書室からの貸出・返却作業をサポートしている。
クラスの読書活動の促進につながるので、図書委員の大事な仕事になってる。
その女子生徒の話が本当なら、誰がこんなメモを本に挟み込んだんだろう?
とりあえず、放課後の図書準備室で、私と深津さん、田村の三人と、図書委員の畑中、畑中と仲がいい同じく図書委員の伊藤が同席して、この件を話し合ってみた。
「メモは、本の表紙と見返しの間に挟まってました」
「さすが、畑中は見返しには目がないな(笑)」
田村、茶化すな!
「借りられてた本は水野敬也先生の『夢をかなえるゾウ』か、なにか意味があるのかな?」
「たしか、インドの神様が人生についての教訓を教えてくれる本ですよね。
とくに『読書が嫌い』というメッセージがある本だとは思えません」
と伊藤。
「長編ですが、ゾウの神様、ガネーシャが出す課題を主人公がクリアしていく内容で、短いストーリーが区切りよく続いていて読みやすい本で、朝読でよくおすすめしている本ですね」
と、深津さんが内容を補足してくれた。
その内容だと、関係ないかな?
「じゃあ、誰かが『朝読』に抗議したくて、返却する本に挟み込んだってこと?
返却されたあとで本に挟み込むこともできなくはないとは思うけど……。
借りた人以外は難しくない?」と私。
「挟み込みやすいのは図書委員かなぁ?」と田村。
「まさか図書委員が『朝読が嫌い』って書いたメモを挟んだってこと?」
と私。
これは図書委員会へのメッセージ? 朝の読書への抗議活動とか?
「朝の読書は10分間、自分で選んだ本を読むだけですが。
嫌になることなんてあるんですかね?」と深津さん。
「どうだろう? 読書が嫌いな人が犯人なら、10分でも苦痛なのかもしれないけど。
もし図書委員だとしたら、おススメ本や本の貸出・返却などのサポートが大変ってことかな?」
と畑中に聞いてみる。
「さあ、僕に聞かれても……」
と困惑する畑中。
そりゃそうか。
本を借りていた女子生徒が嘘を言っていないのなら、誰かが貸出中の本にメモを挟み込んだことになる。
返却BOXには盗難防止用にカギがかかっているけど、図書委員なら入手は難しくはない。
返却BOXから本が取り出されたあとに、誰かが隙を見て本に挟んだのかもしれない。
なんて考えていると、田村が挟まれたメモを手にして、
「それにしても中途半端なメッセージだな。
『朝読 嫌い』って書いてあるだけで、ほかのメッセージがない。
これだど、こっちもどうすることもできないし。なにがどう嫌いなのかもさっぱりわからない」
そうそう。そもそも畑中が返却のときにチェックして気づかなかったら、それで終わってた話だし。
「どうしようか? 定例会でこういう意見があったってみんなに聞いてみる?」
とみんなに提案してみると、
「匿名で、メモを書いたのが生徒なのか図書委員なのか、あるいは先生たちかもわからないのにそこまでするー?
面倒だから捨てちゃえば?」
と、いつも通り無責任な発言の田村。
でも、たしかに図書委員会への苦情として取り上げるのは無理があるかな。
この前の捏造写真のときのように、差出人がわからない苦情にいちいち対応する必要はないかなぁ。
ただ、「朝読が嫌い」という人の気持ちが知りたいんだよなー。
もし図書委員の中にいるならなおさら。
なんて考えてみたものの、特にいいアイデアも出ないので、いったん保留にすることにした。
数日が過ぎ、メモ用紙はクリアファイルに入れて保管しているものの、特になにをするでもなく、新しい苦情のメモが見つかることもなかった。
なにも起こらないまま、ある日の放課後、図書室のカウンター横の机で買ったばかりの本を読んでいたところ、生徒会からの呼び出しを受けた。
「朝日さん〜、委員長会が始まるよー。
と、生徒会で数少ない、仲良しになった生徒会副委員長の田辺さんが図書室に顔出を出す。
しまった! 今日は各委員長だけの集まりがあったんだ! 忘れてた!
ありがとう! 田辺さん!
あわてて本の読んでいたページを指ではさみつつ、カウンターで貸出作業を担当していた伊藤に、
「あー、伊藤君、どれでもいいから『しおり』を一枚もらえない?」
と声をかける。
そして、カウンターに常備してある「しおり」を一枚受け取って、本に挟んで席を立ったそのとき。
私の横でスマホをいじってたはずの田村が、こっちを見て突然大声で、
「真実はいつも一つ!」
と私と指さして叫んできた!
なんだ? なんだ? 『名探偵コナン』の名セリフを大声で急に叫ぶなんて!
ここは図書室だよ! 図書副委員長のくせに騒ぐな!
「朝日さん、この前のメモの謎がわかったんだよ!
あれは『勘違い』だったんだよ!」
うん田村、図書室の中だから静かにしようか。
とりあえず、各委員長だけの連絡会議を済ませてから、速攻で図書室に戻ると、興奮している田村が待ってたので、図書準備室まで引っ張っていった。
それで、「メモの謎が解けた」と騒ぐ田村の推理を聞いてみたところ、かなりあてずっぽうなものだったんだけど。
田村が「絶対、そうだよ! これが真相だ!」とうるさい。
そこまで言うならと、田村が主張する容疑者の生徒、メモを挟まれた本を借りた女子生徒のクラスの図書委員である、清水さんに話を聞いてみることにしたんだけど……。




