波乱ぶくみの購入図書選び ③
深津さんが、図書室の新刊選びで三冠を達成して。
賞品として、あくまで非売品だけど、売れば高値を付けそうなアクリルスタンド、ポスター、クリアファイルをそれぞれ選んだ。
深津さんは、おそらく転売をもくろんでいた、放送部や写真部所属の図書委員たちの魔の手から大切なグッズたちを守ったんだ。
ちなみに、アニメーション部の図書委員からは深津さんが一位だからか、購入本としてアニメ関係の本がたくさん選ばれたからか、文句はでなかった(笑)。
それはそれでよかったんだけど、今回あまりにも熱心に本の推薦をした深津さんに、私は私で違和感があったので。
「……深津さん、そんなにノベルティグッズが欲しくて、図書選びをがんばったんだ?」
と聞いてみたんだけど。
「いえ。それもありますけど。
最近の図書委員会の活動の充実ぶりを見ていて、私も図書室になにか足跡を残したくなって」
と、かわいらしく笑顔で答えたのであった。
ふーん、そうなんだ……。深津さんにもそういう熱い面があったのね。
まあ深津さんのことを外見だけのおとなしい人だと思っててなめたことを言ってる人もいるらしいから、その実力を知ってもらえたのはうれしい。
それにアニメって日本の誇る文化で世界中で見られてるのに、そっち方面に進むためのヒントになる本が図書室に少なかったからなー。
今回は、良い購入図書選びになったんじゃないかな?
無事に図書委員会の定例会が終わり、山口先生に用事があるという深津さんを図書カウンター付近の机に座って待っていると、田村が寄ってきた、
「おいっ! 話が違うじゃないか!
購入図書選びでは、読みたい本を選びたい放題にできるんじゃなかったのかよ!」
と、腹いせにこっちにかみついてきた。
ちっ、図書副委員長をお願いしたときに言ったことを、まだ覚えていたか。
「うるさいな〜。
演劇関係の本がたくさん選ばれたんだからいいじゃん!」
山口先生が、田村やほかの図書委員に気を使ってなのか、演劇や放送、写真関係に興味を持ってもらえそうな本を選んでくれてた。
その多くが深津さんの推薦した本だったんだけど、気遣いしすぎじゃない? 深津さん!
「未来の演劇部員に役立ちそうな本が図書室に追加されたんだから妥協しなさいよ、これも田村君の功績だよ!」
「俺が読みたかったのは、初心者向けの脚本の書き方や演戯レッスン、メディア論の本とかじゃなくてさー。もっとこう……。
演劇のテーマがわきでてくる本とか、設定の資料に使える本とか、将来に役立つ本とか……」
「そんなことばっか、考えているから、一冊も選ばれないのよ!」
「これって貸しだからな!
覚えておけよ!」
えー! 田村に貸しを作るなんて冗談じゃないよ!
何とかしてごまかさないと!
それにしても、改めて選ばれた本のリストを見ていると、自分で読みたい本、みんなに読んでもらいたい本がたくさんあって、新刊の入荷がいまから待ち遠しくなる。
帰りに新刊を見に駅前の書店に寄ろうかなー。
深津さん、早く戻ってこないかなー。
田村、君は先に帰っても別にいいんだけど?
なんて、深津さんを待っている、もう蒸し暑くなり始めた、ある日の放課後だった。
「……山口先生、先ほどは本当にありがとうございました」
「あら、まだ残っていたの?
あ、ひょっとしてリストの件に気づいたの?
それなら、どういたしまして」
「私が推薦した本の選定理由に気づかれたのに、そのまま採用してくれたんですね?」
「そりゃあ選ばれた本に問題があるわけじゃないからね。
実際、今回はほかの候補がひどかったから(苦笑)、とても助かったわ」
「そういっていただけると、私の罪が少し軽くなったようです……」
「罪なんて(笑)」
と、にこやかな雰囲気の山口先生。
「子供じみた行為だと、自分でも思っているんですが。
……私、お二人といるとホッとできるんです。
それで、図書室になにか足跡を残したくなってしまっって。
あの、すみません。
この件は私と先生だけの秘密にしてもらってもよいでしょうか」
そうつぶやいた私に、山口先生はなにも言わず、マスクの下で微笑んで、うなずいてくれた。