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波乱ぶくみの購入図書選び ①

「私も図書室になにか足跡を残したくなって」


 図書室に購入する新しい本選びが終わったあと、そう言った深津さん。

 普段はかわいいというより美人という言葉が似あうんだけど、はにかむ姿に「やっぱりこの子、かわいいなー」と思ってしまった。



 いよいよ三年生になったこの春、図書委員の顔ぶれには大きな変化はなく、新聞部と放送部から数名、図書委員が加わったぐらいだった。

 一学期の図書委員会の大仕事といえば、まずは新入生向けに図書カードを発行することと、図書室を利用するためのオリエンテーションだ。

 そして、新入生のオリエンが終わると、図書委員にとっての一大イベント、購入図書の選定作業が待っている!


【購入図書選定】

毎年、図書館で新しく購入する図書(本)を選ぶこと。高校の購入図書は、司書の先生や教員の先生が新刊案内や選定基準リストなどを参考に、生徒の学習や読書ニーズに合うものを選び、必要に応じて図書委員や生徒の希望も取り入れて決定・購入する


 学校によって違うらしいが、鶴谷城高校では、4月と10月の二回、図書室に新しく購入する本を選ぶことになる。

 基本的には「全国学校図書館協議会図書選定基準」とか言う長ったらしいルールに沿って、図書室にふさわしい本を司書教諭の本田先生と学校司書の山口先生が中心となって、ほかの先生たちと話し合って決めていく。

 予算は毎年数十万円で、数百冊選ぶことになるのだが、図書委員も各クラスで購入希望図書の要望を聞き、取りまとめたリストで提出することになっている。

 それで、購入図書の1~2割は、生徒が希望した本から選んでもらえることになっている。


 図書委員たちが提出する推薦図書は、表向きは図書室に並べるのにふさわしい本を、公正に選んでリストにすることになっているが、そんなのは建前で!

 みんな、自分が図書室に置きたい本を選んでもらえることを、虎視眈々と狙っている。


 図書委員会内では、ひそかに一番たくさんの本を採用された図書委員には、最優秀賞として文房具やしおりなどを賞品にして称えることになってる。

 さらに、選ばれた本の中で一番高額な本と、先生たちに一番評判の良かった本を選んだ図書員には、特別賞としてカウンター当番の免除券を賞品にしているのは、図書委員会だけの秘密なんだけど……。

 今回は、あることをきっかけに、さらに特別な選定会になってしまった。


「ねえねえ。ミナミ書店の店長さんから、『図書委員の皆さんにどうぞ』って、これをいただいたんだけど」

 と、山口先生が小さな段ボールを運んできて、図書準備室で話し合いをしてた私たち三人に中身を見せてくれた。


 それは、アニメやゲームになった作品のノベルティ、ステッカー、ミニポスター、クリアファイルなどだったんだけど。

 ミナミ書店の倉庫整理で出てきたもので、非売品らしく、いつもは書店員だけで分けるらしいんだけど。

 最近、書店でのイベントを増やしてるそうで量が多かったので、

「鶴谷城高校の図書委員さんでほしい方がいたらどうぞ」

という話になって、先生がもらってきたらしい。


「あなたたち、選定図書に推薦した本が一番多く採用された図書委員に賞をあげるのとか、まだやってるんでしょ? それの賞品に使ったらどう?」

と嬉しいお言葉。


「ありがとうございます!」

「田村君、津田さん、これさー、

・選ばれた冊数がもっとも多かった生徒が、最初に賞品を選べる

・もっとも高額な本が選ばれた生徒が、二番目に選べる

・先生たちにもっとも評判の良かった本を推薦した生徒が、三番目に選べる

というのはどうかな?」

と、二人に言ったんだけど。

 深津さんの視線は段ボールの中にある、1点のグッズに集中していた。


「あの、先生、これは本当に私たちがいただいていいものなのでしょうか?

 このアクリルスタンドの作品は、私たちの世代で知らない人はいない深夜アニメ作品のものですが」

と、段ボールの中のアクリルスタンドを指さしして山口先生に聞く、深津さん。


「へーそうなの? ごめんね、私も店長さんもあまり詳しくなくて。

 非売品だから、売ったりしちゃだめだけど。

 賞品にするなり、みんなに配るなり、自由にしてね」

とおっしゃった。


 さて、購入図書の推薦方法は、各々がクラスでアンケートした結果をリストにして会議で提出するんだけど。十数人が何十冊と提出すると、ものすごい数になる。

 ただでさえ自分の推す本を選んでほしい図書委員たちの群れに、非売品のアニメ・漫画・小説・ゲーム関連グッズというエサが投入されたことによって、エキサイトする図書委員が続出することになった。


 どうやら、アクリルスタンド以外にもネットで売ればそれなりのお金になりそうなノベルティグッズがいくつかあるらしい。

 4月から図書委員になった放送部や新聞部、転売で荒稼ぎしているらしい悪い噂のあるアニメーション部の図書委員たちがそれを狙ってるらしいという噂まで聞こえてきた。


 先生たちが購入図書を選ぶのに使える時間にも限りがあって、大量な候補を一冊ずつ検証していてはきりがないので。

 本のタイトルと著者の名前、本体価格、推薦理由などをつけたリストを図書委員たちに提出してもらい、特におすすめの本を1冊、会議で紹介するという、ビブリオバトルっぽい感じでプレゼンすることになった。

 プレゼンに対する意見出しや質問タイムも設定しているので、長い会議になりそうだ。


 で、会議が始まって早々、新しく図書委員になって選定がはじめての生徒が多いからか、トリッキーな本の推薦が続出して、山口先生の顔が引きつっていくことになりました(苦笑)。


 まずは、とにかく筋トレ本を勧めてくる野球部の図書委員から、プレゼンがスタート!

 おすすめ本は俳優でボディービルダーだった、アーノルド・シュワルツネッガーの本で『王者の筋トレ』とかいう、いかついタイトルの本だった。

 内容だけでなく物理的に大判で分厚い本で、重さが1キロ超えるそうで、実際の筋トレにおすすめらしい(笑)。

 面白そうな本だったけど、価格が7000円を超える高額本だ。


 そうそう、元・陸上部の伊藤に、図書委員になぜか運動部の生徒が多いのか理由を聞いたことがあるんだけど。

 陸上部の先輩から「図書委員は、いつも図書室にいるの生徒が当番を変わってくれるので、部活への融通が利きやすいし、部活をサボりたいときは逆に当番だからと言えばサボれる」と聞いて図書委員になったそうだ。

 そういうわけで、運動部員も意外と図書委員になっているらしい。


 続いてのプレゼンは、新聞部の図書委員がいま人気の男性アイドルグループの写真集を推してくるけど。こういうのは山口先生の判断を聞くまでもなく却下だろうなぁ、ファンの生徒以外にニーズがなさすぎ。


 さらに放送部の図書委員が声優のフォトエッセイ、そして文芸部の図書委員が最近ブームの都市伝説系ホラー小説を候補として紹介して熱く語ったり、とプレゼンが続き、お互い選んだっ本の図書室にふさわしくない点など上げ足を取ったりして、激論が続いた。


 十数人分のおすすめ本リストを確認して、最後に議論を尽くしてしぼった(といっても山ほどある)候補の本を、深津さんが一覧にまとめ上げ、各々が用意した資料といっしょに山口先生に渡しすことにして、長時間に及んだ会議が終わった(ヘトヘト)。

 疲れたけど、みんな本気で自分が推薦する本を選んで欲しくて、熱を帯びた本の話ができて、楽しかったなー!



 数週間後、職員室のほうで選定会議が行われて選定図書のリストが完成したとのことで、後日リストをいただいたんだけど……。

 図書委員たちが推薦した本のうちで採用された本は、なんと!ほぼ初期の深津さんが推薦した本ばっかり! という結果になりました(パチパチ)。

 同じく、もっとも高額な図書として選ばれた本も深津さんが推薦した本で、さらに最も先生たちに評判の良かった本も深津さんが推薦した本だったので、三冠を達成!


 ということで、今回の購入図書の選定は、深津さん一人が圧勝して終わったんだけど。

 この結果に怒ったのが、自分の推した本がすべて落選した田村と、おなじく推した本が採用されなかった放送部、新聞部の一部の図書委員たちで。

「なっとくいかなーい!」

「これは不正だ、えこひいきだ」

「やりなおしを要求する!」

「そんなに、深津さんがかわいいんですか!」

と、山口先生に詰め寄った。


 正直、私はこの結果になった理由はなんとなくわかっていたものの、今後、山口先生と深津さん、他の図書委員との関係がよくないことになるとまずいな、と思ったので。

 図書委員会の定例会議の最初に、深津さんへの賞品の授与と、山口先生にお願いして、図書委員たちが推薦した本がどのように選ばれたのか、選ばれなかったのか、説明してもらうことにした。

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