読書会きっかけで炎上したんだけど! ⑤
お昼の校内放送が終わり、写真が捏造されたものだとわかった放送部室内。
緊張が解けてくだけた雰囲気になったところで、写真の捏造を解説した伊藤が、ボソボソっと新聞部員の二人に話しかけた。
「新聞部のお二人、僕の顔を覚えていませんか?」
急に話しかけられて驚いた新聞部の二年生っぽい生徒が声を上げた。
「図書委員でしょ? 文化祭のときに図書室にいたかな? 確かに見覚えがあるけど……」
「いや、そのときじゃなくて、駅前のミナミ書店で見かけたんじゃないですか?
僕、伊藤って言うんですけど、ミナミ書店でバイトしているんです。
この前、新聞部の人が数人、インタビューしに、ミナミ書店の店長を訪ねて来てましたよね? そして、店内の様子も撮影してましたよね?」
さっと顔色が変わる新聞部の二人。
「例の画像に映っているのはミナミ書店西柏店の店内です。
皆さんにはわからないかもしれませんが、僕だけじゃなく西柏店の店員全員が見ればわかるはずです。店長にも確認しました。
うちの店って、デジタル万引き(本屋で本を購入せずにほしい箇所だけ盗撮すること。やっちゃダメです!)に厳しいので、許可を取らないとこんな写真は店の中で取れないんです。
ここ最近で、書店の様子を許可取って撮影したのって、新聞部の取材だけらしいんですけど……」
「そっそんなの! 誰かが勝手に店内を撮影したかもしれないし、書店側の勘違いかもしれないだろ!」
と急にうろたえ、大声を出す新聞部員の二人。
伊藤君の話を引き継いで私から、
「ええ、この写真を撮ったり、証拠の画像を捏造したのがあなたたちじゃないってことを証明してほしいとは言わないわ。私たちに罪を裁く権利はないだろうし。
でも、写真の持ち主もわからない、真偽不明の写真を盾に、無罪を証明するのが難しいことを証明しろって、さっき佐久間君に言ってなかった?」
と珍しく強めに言うと、図書委員会と新聞部、お互いがにらみ合う感じなった。
しかし、そこで青ざめた表情で新聞部部長の塚本由美さんが、
「金井君、里崎君、君たちがミナミ書店に取材に行ったときの写真は、新聞部のパソコンの中にまだ残っているよね?
加工した写真は削除したんだとしても、似た写真が残っていたら、誰が撮った写真かわかると思う。
君たち、免罪の証拠を捏造するなんて、新聞部の部員として、とんでもないことしたのわかっているの!?」
と、新聞部の金井、里崎の二人に向かって泣きそうになりながら話した。
そして、
「佐久間君、うちの部員がとんでもないことをしてしまったようで、お詫びのしようもありません」
と、佐久間君に謝罪した。
いやー、新聞部の部長がまともな人なようで良かった。
新聞部の二人はあわてて、
「すみません、部長の責任じゃないです! 軽いいたずらのつもりだったんです!」
「まさか、こんな大ごとになると思っていなくて、言い出せなくなってしまって……」
と、詫び出したんだが。
いやさっきまで、佐久間君を追い込むような発言してたよね?
いくら温厚でおとなしい私でも、納得いかないなー。
「ごめんで済めば警察はいらない」と、田村(同感)。
そこで、青ざめた表情のままの部長の塚本さんが再び、
「佐久間君、ごめんなさい! まさか新聞部の部員が記事の捏造をするなんて!
とても許されないことをしてしまいました。
二人にはなにかの罰を受けてしてもらい、私も新聞部の部長を辞任します!」
と、謝罪を始めた。
いやいや、正義感が強いのはいいけど、先走りすぎだから! 困ったなー。
そこで私が佐久間君に「どうしたいの?」と話を振ると、
「僕は、誤解が解ければそれ構わないよ。
さっきも言ったように、読書週間の特集をヒントにしたのは間違いないし。
誰かを責めたいとは思わない」
と、いつものようにさわやかな笑顔で答えたのだった。
そこで、いろいろと納得がいかない雰囲気はあったものの、「被害者である佐久間君がそう言うなら」ということで、この件は詳細を伏せて終わらせることにした。
このあと、学校新聞と「図書だより」に校内放送で話した分だけの、微妙に真相を伏せた記事を掲載して、後のことは不問にすることになった。
すべてが終わった放送室で、新聞部からの謝罪を受け入れた佐久間君が、伊藤に声をかけてお礼を言っているけど。
そういえば、伊藤って元・陸上部だったな。
今回、伊藤が大活躍したのも、辞めちゃった部活の先輩を助けたかったのかもしれない。
学校新聞でも捏造画像の投稿者が誰なのかは明かにされなかったものの、写真の捏造を見抜けず記事にしたことの謝罪文と、責任をとって部長が辞任することが載せられた。
校内放送の後、佐久間会長へのバッシングの波はおさまったかに見えたけど、一部では「やっぱり盗作だったんだ」とか、「証拠写真のほうが捏造だった」とか騒ぐアンチが残り、会長への誹謗中傷はくすぶり続けることになったのだった。
「新聞部のあいつら……金井と里崎でしたっけ? 二人とも、新聞部を辞めたそうですよ」
後日、今週当番の図書委員が休みなんで代わりにカウンターの業務を担当していると、借りた本を返しにきた伊藤が、いつものようにボソボソって言ってきた。
「どうも、文化祭のときからアニメーション部の深津先輩のことが気になってたみたいで。二股を掛けたうえに深津先輩にもちょっかい出している(と思いこんで)生徒会長のことが許せなかったっぽいですね」
「えー、それはない、ない! 深津さんはアニメ愛、一直線だし!
会長も深津さんもモテる人は、いろいろ疑われて大変だねー!」
「(噂はそれだけじゃないですけどね……)」
伊藤がなにかボソボソっと言っていたが、よく聞こえなかった。まーいいや。
今回は少し苦い経験になってしまった。生徒会長への疑いを晴らすのには貢献できたけど。
読書会を盛り上げたいからって、佐久間君の人気を利用しようとして迷惑をかけてしまったことへ反省しないといけない。
なんて思いながら、放課後、文芸部の部室に向かっていると、新聞部の部室から塚本さんが出てきた。
う、気まずい!
下を向いて歩いていると「朝日さん」って塚本さんから声をかけてきた!
「この前は、ありがとう」
えっえっ、どういうこと? お礼を言われるようなことしてないけど!
むしろ恨まれてもしょうがないかと……。
「あやうく新聞部の記事で免罪を生み出すところだった。それも、新聞部が証拠を捏造するなんて!
学校新聞って人気がなくて、あまり読まれてなくて。そのせいで、一部に話題性重視して、スクープ狙いで暴走する部員とかいて。
生徒会長を糾弾するような記事なんて慎重に調べて掲載すべきなので、私が掲載を止められなかったの……。
最近、ずっと紙面が暴走気味だったんけど、問題の多い部員が辞めちゃったから、これからは読んでくれる人の役立つ記事づくりを頑張るわ」
「でも、部長を辞めさせられたって……」
「あー、表向きは責任をとったってなってるけど、部員も減ったし、私自身が取材や記事を書くために動きやすくなりたくて辞めただけ。
問題だけ起こすだけで、こっちに後始末を押し付けてくる部員たちに、うんざりしてたし(笑)」
そーなんだー。ならよかった。
「調べものとかで図書室に行くし、お礼じゃないけど図書委員会や生徒会の活動もバックアップしたいから、これからも仲良くしてね!」
という言葉までもらってしまった(笑)。
図書委員でも「図書だより」を出してるけど、こっちも人気ないからなー。
なにかコラボして盛り上げられるといいな!
あと少しで二年生の三学期が終わる。4月からは三年生かー。
図書委員会の活動も大事だけど、将来のこと、大学受験のことも考えないと!