読書会きっかけで炎上したんだけど! ④
読書会でのPOPの盗作疑惑は、けっきょく生徒会長への取材が行われないまま、学校新聞で著作権を問題にした記事になってしまった。
職員会議でも話題になったらしく、佐久間会長には釈明するようにという、やんわりとしたプレッシャーがあったそうで、ついにはお昼の校内放送で生徒会長が全校生徒に説明するという異例の事態にまでなってしまった。
お昼の校内放送には生徒会長といっしょに、例の写真の解説を担当する役割で、トーク力に自信のある副委員長の田村と、ミナミ書店でバイトしていて状況に詳しい伊藤の二人が出演することになった。
放送自体はもちろん放送部が担当するんだけど、会長へのインタビューは取材を申し込んできた新聞部が担当して公平性を保つとかで、後日、学校新聞に追加記事を掲載することになった。
昼休み、学校全体がそわそわする雰囲気の中で校内放送がはじまり、まず会長から今回の件の説明が行われた。
佐久間君からは、個人的なことで校内を騒がせたことへのお詫びがあり、問題になっているPOPは文化祭の時にその場で自分が考えたもので、ネットに出回っている画像のような風景は見た記憶がないこと、だけどどこかで見たものが記憶に残っていた可能性は否定できない、もし誰かの権利を侵害しているのであれば謝罪したい、といった説明があった。
私は誠実に話しをしていると思ったんだけど、
「もっと具体的な証拠をください」
「不確かな話ばかりですが」
「そんなんじゃ誰も納得しませんよ」
など、新聞部からは厳しめの言葉が佐久間君に浴びせられた。
そして、さらに新聞部から、
「この写真は駅前のミナミ書店の風景だということが、新聞部の調べで分かりました。読読書好きな会長なら、当然書店に行ったことがありますよね?
その時にこのPOPを見ていて盗作したんじゃないですか?」
と、追及の声があがったところで、
「その画像についてですが、図書委員会から報告があります」
と、田村が横から割って入った。
「この画像はなにものかによって捏造されたもので、その証拠もあります。
写真に映っている本の中に、1冊だけ去年の秋の文化祭よりあとに発売された本が映っています。
つまり、この写真は文化祭の前の写真ではなく、あとから撮影されたもので、画像を加工して、文化祭の前の写真だということに捏造したものだと思われます」
と説明した。
すると写真部の一人から、
「そんなはずはない! 僕たちで調べて、すべての本が文化祭より前には発売されたことは確認済みだ!」
と、強い抗議の声があがった。
そこで、どちらの調査が正しいのか証明するために、同席していた伊藤がオズオズと手に持っていたタブレットの画面を、校内放送中のカメラに向けた。
「みなさん、この本に注目してください。
この本、『教養として学んでおきたい世界史』ですが。確かに、元の本は2015年に発売された本なんですが」
元の本? こいつはなにを言っているんだ? って顔の新聞部の面々。
「この本の表紙を拡大しますね。本のタイトルの下、ここにある文字をよく見てください」
そこには小さく「新版」と二文字が書かれていた。
【新版】
古い本の内容を新しく加筆修正して、新刊として出しなおした書籍のことを言う。内容がほとんど同じでも、前の本とは別の本という扱いで、あくまで新刊として発売日も別の日付が本の最後に掲載されることになる。
「今問題になっている画像ですが。映っている本は1冊だけ除いて、すべて文化祭より前の本になっています。
除かれた1冊はこの本、『教養として学んでおきたい世界史 新版』なんですが、この本は今年の1月に発売になったばかりなんです。
この画像を作った犯人は、写真に映った本の発売日を調べて、文化祭より後に発売された本は、画像を加工してそれより前の本と差し替えたんじゃないですかね?
画像を捏造した犯人は、タイトルの近くに小さく『新版』と書かれている文字を見落とのしたか、『新版』の意味がわからなくて、タイトルだけで発売日を検索して、文化祭の前に発売された本なんだと勘違いしたんじゃないかと思います」
それまで静かに放送を見ていたはずの校内の教室で、どよめきが起こっていることが放送室内にも伝わってきて、黙りこむ新聞部の人たち。
そこで田村から、
「1冊だけ文化祭の後に発売された本が写真に映っているということは、この写真は文化祭のあとのものだということになります。
図書委員会としては、この画像は捏造されたものだと考えますが、とにかく写真の信ぴょう性は疑わしく、生徒会長が画像に映っているPOPを盗作した証拠にはならないでしょう」
そして、佐久間君から、
「実はお話ししていなかったことが一つあります。
『盲導犬クイールの一生』という本と出合ったのは図書室で、去年の秋の『読者週間』期間中におすすめ図書コーナーで、『読んでそうで読んでないベストセラー』として紹介されていたんです。
それで、実際に読んでみると、読む前のイメージとは違う内容の本で、読むことができてよかったんですが。
もしなにかから影響を受けたといえばそのコーナーから影響を受けたといえるかもしれません」
そーなんだよねー。「クイール」も、「セカチュー」も、「いま会い」も全部去年の読書週間のおススメ図書として紹介した本なんだよねーー。
図書委員たち以外は誰も気が付かなかったので、言わなかったけど。
そのときのテーマは「読んでみると印象が変わる名著」だったので、パクったとかならこっちを指摘するべきで。
それを知っていた私たちは、最初から佐久間君を疑ってなかった。
去年の秋の「読者週間」の前に、佐久間君が「クイール」の本についてなにか知ってたと思えなかったから。
「私が作ったPOPはなにかから影響も受けたかもしれません。
もし、そうだったとしたら、本当にお詫びします。
ただ、『盲導犬クイールの一生』を読んだときの気持ちをPOPに込めたのは間違いのないことなんです!」
と、全校生徒に強く訴えたところで時間切れとなり、放送は終了した。
この放送で、佐久間君への疑いの目が完全に晴れたかどうかはわからない。
佐久間君が、おススメ図書コーナーからパクったと言えるかもしれない。
だけど、ネットにばらまかれた写真が信用できないものだということは伝わったんじゃないかな?
そして、本番はここからだ。