読書会きっかけで炎上したんだけど! ③
「委員長、これを見てください!」
一年生の図書委員の清水さんが血相を変えて、図書準備室に入ってきたと思ったら、学校内の裏ネット掲示板に掲載された画像を見せてきた。
それは、どこかの書店の店頭を撮影した写真で、書店の平台には『盲導犬クイールの一生』が積まれていた。
積まれた本のすぐ上には、読書会で佐久間君が紹介したものとそっくりなPOPが設置されていた。
そして、「写真の撮影日は去年の夏」なのだと、だから読書会で生徒会長が使った「あのPOPは盗作だ」と投稿には書かれていたのだった。
裏ネット掲示板に掲載されたこの画像はあっという間に校内に広がり、生徒会長の二股疑惑もあったので、佐久間君の人気と評判は地に落ちていくことになったのだった……。
読書会と「図書だより」の記事が、今回の騒ぎのきっかけになったことで、図書委員会として対応すべきではないか? と定例会でも議題になった。
ただ、そもそも著作権侵害は親告罪だから、いまのところ生徒会長はなんの罪も起こしていない。
証拠と言われてる写真だって匿名のもので、捏造された画像の可能性もある。
もし本当にPOPが盗作されたものだったとしても、佐久間君が謝罪して読書会の優勝を取り消せば済む話なんだけど……。
それに、そもそも、あのPOPが盗作のはずないんだけどな……。
学校の裏ネット掲示板の一部では、生徒会長に辞任を求める過激な書き込みもあるらしい。
さらに、新聞部から会長に対して今回の件へのインタビューの依頼があったらしく、騒動はネットを中心にさらに広がっているようだ。
図書委員会では、ひとまず生徒会側の対応を待つことにして、今後の対応は私たち三人に任されたので、定例会の終了後に、私たちと残った図書委員で写真の真偽について検証することにしたんだけど。
またしても、大多数の図書委員がそのまま残ったのであった(みんな好きだね)。
「まず、この証拠の写真だけど、去年の夏に撮影されたものだと言われてて。
こういうの私はあまり詳しくないんだけど、確かにその時期に撮影されたものなんだよね?」
「そのとおり。
画像に付いてる日付の情報を見る限り、その時期に撮影されたものらしい。ただ、日付自体は捏造する方法があるんだよね?」
と、残った図書委員たちに話を振る田村。
それにうなずく委員たち。
そして、この写真には『盲導犬クイールの一生』以外の本もたくさん映っているんだけど。
新聞部の調査によると、すべて去年の夏より前に発売された本なのだそうだ。
となると、写真に映っているPOPは、佐久間君が文化祭でPOPを作る前に存在したことになる。
それで、もし写真が加工して捏造されたものだったとすると、ネット上に加工する前の画像があるのではないかと、みんなで探してみたそうだけど、似たような写真は見つからなかったらしい。
「あのー、ちょっといいですか」
「なに、伊藤君」
「僕、去年の夏休みから、駅前のミナミ書店でバイトしているんですが」
「えっ、そうなの? 初耳なんだけど?」
「一年のとき、一学期で陸上部を辞めちゃって……。夏休み、暇になったんで書店でバイトを始めたんですけど……。
この写真に映っているのは、ミナミ書店の店内で間違いないです。本棚のレイアウトを見ればわかります。うちのの店員なら、みんなわかるはずです。
で、店長に聞いてみたんですけど、過去に『盲導犬クイールの一生』の本をこんなにたくさん仕入れて販売したことはないそうです」
「なんだー! それなら問題解決じゃん!」
と喜んだ私に、
「いや、もともと真偽不明な情報で、これだけ騒いでいる連中がいるんだ。
それぐらいの情報だと、店長が嘘を言っているとかになるんじゃないかな」
と、田村が口をはさむ。
そんなの、説得するの無理じゃん!! どうすればいいのよ?
すると、静かにパソコンを操作していた深津さんが、顔を上げた。
「あの、写真に映っている本はすべて去年の夏より前に発売されたというのは本当でしょうか?」
「新聞部が映っている本の発行時期をすべて調べたて言ってたけど。
会長への取材の依頼時にそう言ってたってのが生徒会からの情報で、画像に載ってる本を全部調べたらしいよ」
と、深津さんの質問に田村が答える。
「おかしいですね……。私もいま、気になって本の発売日を調べてみたんですが。
1冊だけ、今年の最初に発売された本があります」
と、首をかしげる深津さん。
え、どういうこと!
「それって写真はやっぱり捏造されたもので、犯人は1冊だけ画像加工をミスしたってこと?」
「それなら、生徒会長に掛けられた疑いを晴らすことはできそうだな」
「新聞部の調査が間違っていたってこと?」
「犯人もなんで1冊だけミスったんだろ……?」
「そうなると、誰が店の写真を撮影し、捏造したのかってことだけど」
「ネットで拾った写真を使って証拠を作ったんじゃないなら、お店で誰かが写真を撮影したのかな?」
と、がぜん図書委員会での検証が熱を帯びてきたところで、
「そのことなんですけど……」
と、ボソボソと伊藤が話はじめたことによって、一気に事件は解決に向かったのであった。