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読書会きっかけで炎上したんだけど! ②

 校内の裏ネット掲示板を中心に生徒会三人の話が広まったためか、読書会の参加者は30人を超え、40人近くになり大盛況になった(うれしくない)。

 文化祭に続き、新聞部も取材に来ていたが、目的は三角関係じゃないよね?


 放課後、ゲストのミナミ書店の沖田店長が、忙しい中お店から駆けつけてくれて、図書委員の伊藤の案内で図書室に到着した。

 準備が整ったので、いよいよ読書会をはじめましょう!

 まず、ビブリオバトルの趣旨とルールを説明し、プレゼンする人たちを紹介したとところで、さっそく不穏な雰囲気が流れたけど、店長と山口先生には気づかれない(苦笑)。


 プレゼンの順番は挙手にしたけど、一番最初に手を上げる人はまずいないので、私が率先して手を上げて、最初の本のプレゼンを開始した。

 私が選んだ本は、最近ハマっている、うすいさえこ先生の本で、代表作の『コバルト』だと分厚いし本格ミステリーすぎるので。

 ラノベ出身のうすい先生が本格ミステリーの道に進むきっかけになった『異世界転生したら名探偵になって事件を解決しました』シリーズ第一作目をプレゼンする。


 この本は、ラノベ作家としてデビューしたうすい先生の5作目の作品で、私立探偵だった主人公が現実世界で何者かに殺されて異世界に転生して、最初はノースキルで勇者パーティーで役立たず扱いで荷物持ち兼、魔法からの盾替わりというひどい扱いを受けるものの、持ち前の推理力で冒険中のちょっとした事件を解決していき、だんだんハーレムを作っていく作品だ。


 うすい先生の作品の中ではライトなほうで、文体が軽くて謎解きも簡単なので、いかにも一昔前のラノベっぽいタイトルで敬遠する人がいたらもったいない!

 夭逝(ようせつ)の天才作家うすいワールドにハマるきっかけとして、幅広い人にぜひ読んでほしい。


 本のプレゼンが終わり、私が作ったPOPには、

「夭折の天才ミステリー作家の原点を堪能しよう」

と書き、探偵ものっぽい帽子とパイプタバコのイラストを添えた。

 プレゼンが終わって拍手をいただき、沖田店長と山口先生から無難な講評をいただいただけたので、トップバッターとしては役割を果たしたんじゃないかな?


 そこから、

・ここ数年大人気のホラージャンルから知る人ぞ知る作品を紹介する人

・王道文芸作品を現代的な視点から再評価する人

・Vチューバ―の成功体験本を紹介する人

・TikTokerが話題にしてる本を紹介する人

など、幅広いジャンルの本のプレゼンが、続いた。


 個人的には、どの本のプレゼンもとても面白かったんだけど、参加者たちの興味がそこにないのはあきらかで、生徒会三人の手がいつ上がるのかに注目が集まっていたのは、しかたなかったかもしれない。


 ついにプレゼンターが生徒会長、元カノ、今カノだけになってしまい、二人の様子を見ていた生徒会長の手が上がるかと思った瞬間、意を決したように元カノの田辺さんの手がすっとあがった。

 ふわふわなロングでかわいらしい雰囲気の彼女は、あまり読書好きには見えないけれど(偏見丸出し)、どんな本を紹介するのかな?


 注目が集まる中、彼女が取り出した本は『世界の中心で愛をさけぶ』!

 映画やドラマにもなったことがある、片山恭一先生の言わずと知れた名作で、俳優の柴咲コウが本の帯を書いたところから、爆発的なヒットになったことで有名な作品だ。

 いわゆる難病ものの代名詞と言っていい本じゃないかな。


「この本は、悠君から教えてもらって……」

 ゆゆゆゆゆゆ、悠君! 最初から生徒会長の名前を出しますか!

「悠君とは……」 

 あのー、二人の恋の思い出話ではなく、本の話をしてほしいんですけど!


 しかし、最初は会長との恋バナから始まったんだけど、倒れた少女を抱き抱えて少年が叫ぶ有名なシーンの影響で、難病ものとしての悲劇的な側面ばかり強調されがちな本だけど。

 実は初々しい恋愛に多くのページが割かれていて、その描写が大変素晴らしくて。

 登場人物の楽しかった思い出が自分の思い出と重なる部分があって、とても貴重な時間を過ごせたという、結局恋の思い出話だったプレゼンだったけど。

 特に女子生徒の心を打ったようで、泣いている子もいたぐらいで、意外と好印象で終わった。


 そして続いて、今カノの藤本さんが紹介する本だけど……。後輩だけど大人びた雰囲気の彼女が取り出した本は『いま、会いにゆきます』!

「この本は、悠君から教えてもらって……」

 おい! ヤバいなー。藤本さん、その入り方は確信犯だろ!


 こっちもだいぶ前の有名なベストセラー小説で、映画にもなっているのでタイトルだけは聞いたことがある人もいるかもしれない。

 市川拓司先生が描いた物語は、死んだ奥さんが旦那さんと小さい子供のもとに生き返って戻ってくる話だけど、ホラーではなく……。

 限られた時間の中で、お互いに思い合う気持ちが切なくて感動を与える作品で、藤本さんは、

「複雑なストーリーで私にはちょっと難しいところもあったんですけど、やさしさと愛情に溢れた作品で、いつかこんな気持ちになれるといいなと思いました」

 それで、好きな人が紹介する本が素敵な本でよかった、とこれからの恋愛の進展に期待しているというウキウキの話で。

 これはこれで、キュンキュンしながら聞いている生徒たちが多かったように思う。


 思いがけず、二人とも素敵なプレゼンになったものだから、この状況を作り出した諸悪の根源である生徒会長、というどアウェーの雰囲気な中、最後に佐久間君のプレゼンが始まった。


 佐久間君が選んだ本は、『盲導犬クイールの一生』だった。この本が、文化祭で佐久間君がPOPを作った本だ。

「文化祭で、図書室でやってたPOPづくりに参加することになって。

 どうせなら読んだことのない本にしようと思って、なにかいい本はないかと図書室で本を探したんだけど。

 読書週間のおススメ本コーナーにこの本があって、書名は聞いたことがあったけど、読んだことがなかったので借りてみました。

 それで、驚いたのが、この本がモノクロの写真集だったことです」


 そうそう、そうなの。

 図書委員会でおススメ本に選んだので、もちろん本のことは知っていたものの、私もタイトルを知ってただけで読んだことがなかったので、読書週間で紹介するまではどういう内容か知らかなったな。

 作者は石黒謙吾先生で、カメラマンが秋元良平先生。


「モノクロの写真で、クイールと交流のあった人たちの写真がたくさん載っていて、それとクイールの生涯を解説した文章の二つで構成されていて、本当にあった話だったことも読むまで知りませんでした」


 ここで、ひと呼吸を入れる佐久間君。


「実話だからか、感動させよう、感動させよう、と熱く本の中で語ってくるんじゃなくて、盲導犬という仕事、盲導犬を育てる過程、盲導犬に対する誤解や偏見との戦いといった事実を積み上げていく内容で、知らない世界をページをめくって体験するような面白さがありました。

 そして読み進むと、目の見えない人とクイールの交流や盲導犬になるための訓練の大変さに、自然に涙ぐんでいました。

 実話だから、都合よく話が進んだりせずに、それでも前を向いて社会を良くしようとクイールに愛情を注ぐ人たちのお話で、タイトルやイメージで読んだ気になっていたんだけど。

 名作と言われるものは、やっぱりいいものだなと思ったので、みなさんに一度手に取ってほしいです。

 写真を眺めるだけでも素晴らしいし、ページをめくるだけで温かい気持ちになれます」


 そして、会長が手にしたPOPはモノクロのシンプルな手書き文字で、


「You still don't know the truth.

あなたは、まだ(この物語の)真実を知らない。」


と書かれていた。


 なんというか……清々しいプレゼン二つの後に行われた、会長の真剣で熱のこもったプレゼンはみんなの心を掴んだようで、図書室の中は深い感動に包まれた。


 その後に行われたディスカッションでも『盲導犬クイールの一生』への感想や質問が一番多くて、読書会の優勝は、佐久間会長がかっさらっていった。


 読書会が終わっても、紹介された本やプレゼンのよかったところなどをみんなで話してて、それは図書室の閉館時間まで続いた。

 寸評をお願いした沖田店長からも、「いやー、面白かったよ! お店でもイベントとして開催できないか考えてみるよ!」と大好評だった。

 沖田店長には文化祭でもお世話になって、こんなに協力してくれるのは、仲の良さそうな山口先生のおかげかな?

 あとなぜか伊藤のことを知っている感じだったんだけど。

 伊藤ってミナミ書店の常連なのかな? 私だって結構通ってるんだけどな!


 こうして読書会は、無事に終了し、みんなが気にしていた三角関係の件はうやむやなまま、成功のうちに幕が下りたのだが……。

 後日、事件が起こった。


 読書会の様子と、優勝した生徒会長のPOPを「図書だより」と学校新聞に載せたんだけど。

 学校内の裏ネット掲示板に「あのPOPは盗作だ」というコメントと、証拠の画像が貼り付けられたのだった。

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