表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/21

読書会きっかけで炎上したんだけど! ①

「朝日先輩、今度の読書会って大丈夫なんですか?」


と、図書室で不安そうな顔をした一年生の図書委員、まじめでかわいい清水麻衣さんから、深刻そうな顔でそう言われたとき、最初は意味が分からなかった。

 ちなみに、清水さんは文芸部の後輩だったりする。



 いろいろあった文化祭も終わり、そのあとは「図書館だより」を発行したぐらいで、二学期の終業日に少し事件があったものの、年末年始は平穏に過ごした。

 そして、年が明けた1月からは、2月に行う「読書会」の準備にとりかかっていたんだけど。


 読書会と言えば、図書委員にとって定番の仕事のひとつではないだろうか。

 最近は、朝読書用の本の紹介とかも図書委員の大事な仕事だけど、何十年も定期的に行われてきた読書会は、図書委員会にとって、とても大切な仕事だ。


 以前は、課題図書を決めて図書室で本の感想を話したり議論したりして、作品への理解を深めることをしていたんだけど、「ビブリオバトル」が流行ったおかげで、鶴谷城校では最近はもっぱらビブリオバトル風の読書会を行っている。


《ビブリオバトル公式ルール》

① 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる

②順番に1人5分間で本を紹介する

③それぞれの発表の後に,参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分間行う

④全ての発表が終了した後に,「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員が1人1票で行い,最多票を集めた本をチャンプ本とする


 鶴谷城高校で行っているビブリオバトル風の読書会では、プレゼンテーターが数人いて、プレゼンを聞くだけの人たちがいて、プレゼンのあとに、みんなでディスカッションする。

 そして、ゲストのミナミ書店の沖田店長と、学校司書の山口先生に寸評をいただいて、最優秀にみんなの投票で最優秀プレゼンを決める。


 最優秀プレゼンターには賞金はでないけど、シャープペンや消しゴムなどの文房具、文化祭で作ったしおり、沖田店長から提供していただいた作家先生のサイン本などを、ささやかながら賞品にしている。

 まあ、プレゼンテーター数人(だいたい図書委員か文芸部員、図書室の常連の人)以外の参加者を入れても20人も集まれば成功だといえる。


 図書委員といて過去の読書会に参加しているけど、残念ながら盛り上がっていると言いがたいので、今回はなんとかして盛り上げたい! 

 なので、文化祭のときに「しおり&POPづくり体験」に参加してくれた佐久間君に、「POPを作った本で、読書会に、それもプレゼンテーターとして参加してほしい」とお願いして、快諾をいただいてました!


 図書委員長で文芸部でもある私は、プレゼンテーター側で参加するし、副委員長の田村にも強制的に出場させる。

 書記の深津さんはこういった勝負ごとは苦手なので、彼女の深い作品考察は聞いてみたいんだけど、またの機会にすることにした。

 図書委員の数人には出るようにお願いするつもりだったけど、意外にプレゼンしたい人が多くて、参加者はすぐに集まった。


 ビブリオバトルのプレゼン方法はいろいろなやり方があるけど、今回は文化祭でヒントを得て、紹介したい本とそのPOPを作ってきて、本の紹介をしてから、最後にPOPを見せてプレゼンを終えることにした。

 生徒会長が参加を表明してくれたおかげか、プレゼンを聞くだけの参加者も多くて、すでに30人を超えそうな勢いなんだけど?



 そういう状況なので、

「読書会のなにが不安なの?」

と、私に不安そうに聞いてきた清水さんに聞き返すと。


 今度は信じらないといった顔で清水さんが、

「まさか! 知らないんですか? 委員長? 深津先輩も!?」

と、私と横にいる深津さんの顔をまじまじと見てくるが。

 私だけじゃなく深津さんも話にピンときてない感じで首をかしげてる(かわいい)。


「二人とも生徒会役員ですよね! 本当に知らないんですか?」

と、さらに言われるので、お互いに顔を見合わせてクエスチョンを浮かべて、

「ねー、なんの話よぉ」

と再び清水さんに聞くと、

「生徒会長が、副会長の田辺先輩と別れたって話ですけど?

 二人とも生徒会役員なのに、なんで知らないんですか!?」


「えー! あの二人が別れたの!」

「初耳です!」

「じゃあ、今は一年生で書記をやっている藤本さんと付き合っているのも知らないんですよね」

「はぁ! 田辺さんと別れて、いまは藤本さんと付き合っているのー!」

「初耳です!」

と驚きを隠せない私たち二人に、

「二人がこういったことに疎いのは知ってるんですけど……ここまでとは!

 いま、そのせいで生徒会のなかが大変なことになっているって噂なんですけど。

 本当に知らなかったんですか……。

 校内の裏ネット掲示板でもけっこう話題になっていますよ……」

と、あからさまに呆れた顔をする清水さん。


 自然と押し黙る、私たち。

 しかたなく、清水さんがさらに口を開いて、

「それで……。

 いま話題の生徒会のその三人が、なぜかそろって今度の読書会のプレゼンターにエントリーしてるじゃないですか。これって大丈夫なんですか!?」

と、さらに衝撃の発言を!


 えっ、あれ、待って待って!

 あわてて、読書会の参加者リストでプレゼンを行うメンバーの名前を確認する。

 げっ、生徒会長の佐久間君はもちろん、副会長の田辺さん、書記の藤本さんもプレゼンのメンバーに入っているじゃない!

 大丈夫じゃないかも! どういうことよー! 佐久間君!



 それで、最近は普通に図書室に顔を出すようになってた佐久間君を、図書準備室で問い詰めたところ。


「朝日さん、本当にごめんね。

 実は生徒会役員になってから(田辺)アヤとはすれ違いになることが多くなって、ずっと別れるかどうかの話をしていて、けっきょく年末に別れたんだけど。

 そのことを(藤本)ユイに相談していたら、年明けから付き合うことになって(笑)」


 つ、付き合うことになって、じゃねー!!!


「聞きたいのは、そういう話じゃなくて!

 なんで! その三人で今度の読書会にエントリーしてるのよ!

 それもプレゼンする側で!」


「朝日さんは覚えてないかな?

 文化祭のときに朝日さんから『読書会に参加してほしい』って頼まれたじゃない? 

 その時『しおり&POPづくり体験』にアヤとミキもいっしょに参加してて、それなら読書会もいっしょに参加しようって話になったじゃない?」

 じゃない? じゃない!


「そのときはそのときでしょ!

 なんで、そのあとに別れたり、くっついたりしたのに、

 まだエントリーしたままなのよ!」


「それは、僕にもわからなくて。

 アヤとは生徒会の仕事のこと以外は、ずっと話をしていないし。

 ユイは普通に『楽しみだ』って言っているし。

 ……なんだったら、僕が読書会への参加を辞退してもいいんだけど」


 いや、それはそれで困る!

 文化祭と同じように佐久間君が参加することをエサにして、参加者を募集しちゃったし!

 えっ、でも、どうしよう。辞退してもらったほうがいいのかな……。

 でも、生徒会長の推薦図書って、文化祭でPOPを作ってたあの本なんでしょ?

 それは、みんなにも聞いてもらいたいしなぁ……。



 生徒会長が去った図書準備室で一人呆然としていると、副委員長の田村と後輩の伊藤がやってきた。

「ああ、その話? 俺は知ってたよ」

「はい、僕も知ってました」

「えぇ! なんで二人とも言わなかったのよ!」

「えー、面白いと思って。

 今回の読書会の件、学校の裏ネット掲示板とかで話題になっているよ。よかったじゃん」

「そうですよね。僕もてっきり客寄せに利用しているものかと思ってました」

 いや、二人とも危機感がなさすぎるでしょー!

 そんなの炎上するに決まってるじゃん!


 どうしようかと図書室でオロオロしていると、事情を何も知らない山口先生から声を掛けられる。

「今度の読書会、事前登録者の数がすごいね!

 私がこの学校の司書になってから10年ぐらいだけど、一番参加者が多いんじゃないかな! 当日参加は断らないといけないんじゃない?」

と言われて、

「そ、そーなんですねー。文化祭から告知を頑張ったからですかね?」

と、あせって適当なことを答えてしまう。


「最近、図書室がにぎやかでうれしいわ。

 ……数年前のコロナ禍のときは図書室を一時的に封鎖したり、利用時間や利用者の人数を制限したりって大変だったんだけど。

 そうそう。

 文化祭のときは学校全体でコロナウイルスやインフルエンザへの対策してたからいいけど、2月は特の寒い時期だから、注意喚起を忘れないでね!」

とコロナ対策をしっかりやるように、釘を刺された。


 確かに、まだお店の店員さんや書店員さんはマスクをしている人が多いな。

 山口先生もいつもマスクをしている。美人さんだから、もったいないんだけど。


 あー、生徒会長には辞退しないでもらいつつ、他の二人に辞退してもらえる方法はないかなー。

 だいたいなんで二人とも辞退しないのよ!


 なにか良い策はないかと思案したものの、とくに見つけられることはないまま数日が経ってしまった。

 なぜか生徒会長の三角関係・二股疑惑について、図書委員会が裏で暗躍しているという噂も出ているらしく、裏ネット掲示板では尾ひれはひれがついて、ひどい話になっているそうだ(見てない)。

 諸事情による開催中止にするべきなのかともやもやしつつ、毎年恒例の読書会をこんな理由で中止にする勇気がでないまま……。


 読書会の日を迎えることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ