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本の下巻だけが紛失したんだけど? ①

大昔、図書委員をしていました。


最近、米澤穂信先生の作品にハマって、自分でも図書室を舞台にした小説を書いてみたくなりました。


千葉県のとある高校の図書室を舞台にした、プチ青春ミステリーです。

「朝日さん、生徒会で図書委員長をやってもらえないかな?」



 千葉県、西柏市にある鶴谷城高校で、二学期早々に行われた生徒会長選挙で、ぶっちぎりの投票数で当選したのが、イケメンで文武両道の佐久間悠君。


 この前の選挙で決まったのが、新・生徒会三役(会長・副会長・書記)で、それ以外の生徒会役員は、新・生徒会長に優先して任命する権利があるそうで。

 新・生徒会長のほうで適当な候補がいなければ、各委員会から推薦された人がなるらしい。

 別クラスの彼から、昼休み時間に呼び出されて言われたのが、新・生徒会で図書委員長をやってほしいって話だった。


 正直、文武両道とはいえ、イケメンで陸上部のエースで、新・副会長が彼女という、ザ・リア充の佐久間君が、文化系の人脈にそう明るいとは思えない。

 一年生のときに同じクラスで、図書委員で文芸部に所属する私、朝日梨花ぐらいしか候補者を思いつかなかったことは想像できます。

 そうじゃなきゃ、陰キャ眼鏡の、この私に声をかけるかな?


 まあ、文芸部で図書委員になっている人も多いし、委員長になれば私にとっても部にとってもなにかと都合がいいし、学校司書の山口香先生とは仲がいいし、図書委員の仕事は好きだから断る理由はないかなっと思いつつ。

 イケメン生徒会長を筆頭に、運動部のエリートたちが集まるリア充生徒会のことは正直言って苦手すぎるけど。

 なんと! 図書委員会は生徒会室に机自体がないそうで!

 基本的に活動は図書室で行うという話を聞いて、快く了解することにした。


「ありがとう! じゃあ早速で悪いけど、ひとつお願いがあって。

 副委員長と書記の候補者を二人選んでもらえないかな?」

と、さわやかな笑顔で人選を丸投げしてくるイケメン生徒会長……。

 やっぱり、私ぐらいしか図書委員を知らなかったんじゃないかなーと思いつつ、これも了解した。



 それで、さっそく。

「田村君、今度、私が図書委員長を引き受けることになったんだけど。

 田村君に副委員長をやってほしいんだけど」

と、隣のクラスで同じ図書員の田村秀徳に声をかけてみた。


「えっ、なんで俺? 文芸部のやつに頼めば?」

「それが、同じ部活や同じクラスの人は選べないルールになっているのよ。偏りを避けるとかどうとかで」

「えー、朝日さんは知っていると思うけど、俺、演劇部で結構忙しいんだけど」


と、神経質かつ面倒くさそうに答えた田村は、演劇部の副部長で、脚本・演出を担当していて、全国大会のコンクールにも出たことがあって、学校ではけっこう知られている人間だ。


「いいじゃない。いつも図書室に入り浸って、演劇関係の本を読んでいるか、スマホでなにか書いているかだし。忙しいときは、演劇部の人にカウンターの仕事を変わってもらえるんでしょ?」


 正式名称は学校図書館と言うのだが、普通は図書室と呼ばれる場所で、図書委員がやる仕事と言えば、交番制で図書カウンターでの本の貸出と返却がメインだ。

 基本的には週一ごとに二人体制でカウンター当番を交代していくが、都合がつかないときはほかの図書委員が代理を務めるか、一人で回したり、図書委員長か副委員長、書記の図書委員会三役がフォローすることが多い。

 で、図書委員会の仕事と言えば、カウンター当番のスケジュール決め、図書委員会、図書新聞の発行、朝活読書の補佐、読書会の開催、文化祭のときの図書室の一般への開放など、地味ながら意外とやることがある。


 他の学校のことはよく知らないが、鶴谷城高校の場合、文芸部の部員が図書委員をやっていることが多くて、演劇部の図書委員もいて、田村は演劇部の公演前などは図書室にいても部の後輩に仕事を押し付けてて、一心不乱にスマホをいじってなにか(脚本?)を書いている。


「ねー、演劇部のカリスマ(独裁者)、お願い!

 図書委員会の役員なら、図書室で購入する本を選ぶときに口を挟めるのは知ってるでしょ」

「……それって、演劇関係の本を選んでいいってことかぁ」

「ザ・演劇って本はダメだけど、元ネタにしたい本や参考にしたい図鑑とか事典とか、作家志望や漫画家志望の人も読むような本ならありだと思う」

と適当なことを言って、しぶる田村からOKをもらった。


 イケメン生徒会長を筆頭に盛り上がる新・生生徒会だが、部活動自体は残念なことにどこも低調気味で、いろいろな作業を生徒に強制することも難しい昨今、田村のように部活動を牛耳ってて強権を発動させるタイプは珍しい。

 私に対しては普段からねじ曲がった性格を隠そうともしない田村だけど、これでも部内では人望もあるらしく、演劇部の俳優で美人の彼女もいるらしい。

 まあ、見ようによってはセンス系イケメンかもしれないだけど、性格がなー。


 私も文芸部内ではみんなと仲良くしているが、意外と重労働(本は重い……)の図書委員会で、人をこき使えるほどの人間関係を持つ田村を巻き込むのはいろいろと都合がいいと思って彼に頼んだことは内緒だ。



 副委員長が決まったので、もう一人、書記を隣のクラスでアニメーション部に所属している深津恵美さんにお願いしよう。

 アニメーション部は、毎クールごとに山のようにアニメを見ていて、アニメの制作までしててかなり忙しいようだが、彼女は制作にはかかわっていないようで、おっとりした性格だけど図書委員会の活動にも大変熱心で、一年のころから仲が良かったので、書記になることを快諾してもらった。


「ねえ、深津さん、書記をやってくれるのはうれしいんだけど、部活は大丈夫?」

「ええ、うちの部、活動熱心なのはいいんですけど、アニメの制作にかかわっていない部員を下に見たり、見ているアニメの本数や考察への評価で競い合う人がいて、ちょっとしんどくなっていて……」

と、前髪ぱっつんに黒髪ロングのザ・美少女は、愁いを浮かべた表情で答えてくれた。

 あー……いろいろ面倒くさそう。それなら、深津さんにとっても書記になるのはいいことかもしれない。

 しんどいと言ってるけど、新作アニメの情報をデータ管理したり分析したり、SNSなどで考察や批評を発信していることをひそかに知っていたので、書記だけでなく図書室の広報係としても期待したい。私と違って美人だし!


 こうして、図書委員会の新体制ができあがり、生徒会も月一で会議に出ればよくて、図書室のカウンターと裏にある準備室で、書籍の貸出や登録、修繕管理などを行う日々が始まったのであった。



 生徒会のほかのメンバーも決まり、3年生の前・生徒会の先輩との引継ぎ作業も行われた。そもそも、前・委員長と副委員長が文芸部の先輩だったので楽勝だったけど。

 さっそく、最初の図書委員会が開催されることになった。


 十数名の図書委員(委員は各組2名だが一人出席すればOK。正直、出席率は悪いので、後にメールで議事録を送る)を前に、挨拶。図書委員は私が所属している文芸部や知り合いのいる演劇部、アニメーション部が多い。あと意外と運動系の部活の生徒もいる。

 1年のときからいっしょのメンバーも多いので、なじみのメンバーなんだけど、委員長をするのなんて初めてで緊張する。


「新・図書委員長になった朝日梨花です。これからよろしくお願いします。

 新・生徒会のスローガンは、

『みんなが楽しい学校。毎日行きたくなる学校。だれも嫌な思いをしない学校』

ですが、図書委員会は、

『学校のみんな全員に必要とされる学校図書館』

になります。

 みんなに合ってよかったと思ってもらえる図書室にしましょう」


 今後の計画(カウンター当番のスケジュールや書棚の整理整頓、修繕、新刊図書の購入計画や定期的な読書会など、以外とやることは多い)について説明し、やや緊張しながらも滞りなく進んだ。


 あれこれ確認して最後に、

「1回目の委員会としてはこんなものかな? なにか他に報告・相談のある人はいますか? なければ、これで会議を終了します」

と告げると、

「すみません、ひとつ相談があります」

 と一年生の図書委員から手が上がった。


「えーっと、1年2組の伊藤君ですね。どういった相談かな?」

「実は……」

 ボソボソっと語る伊藤和也君の話によると、同じクラスの畑中進という生徒からの相談で、ある小説の上巻を借りて読んだのだけど、

「上巻を読み終えたあと、しばらくしても下巻が図書室で見当たらないので、気になって眠れないので、借りている人に催促してほしい」

とのお願いがあったとのだった。


 こういったことはよくあるんだけど、伊藤君が図書室の貸出履歴を調べても、下巻は貸出中にはなってなかったそうで、最後に借りられた履歴を見ても、上・下巻ともちゃんと返却されていたのだそうだ。

 それで、上巻の置かれている場所近くの棚を重点的に調べてみたそうだが、下巻は見つからなかったそうで……ということは、


「それは、盗まれた可能性があるかもね」


と、山口先生が私の考えを代弁してくれた。

 残念ながら、延滞されっぱなしで戻ってこない本や貸出された後に紛失された本ではなく、貸出履歴のないまま図書室から姿を消す本も少なくない。


 図書室の本は、カバーの上から透明の保護用のフィルム(図書フィルムとかブックコートフィルムとか言うらしい)が貼られていて、背表紙には本の分類が掲載されたシール(図書ラベル)が貼られているので、古本屋などでの転売を目的とした窃盗は考えにくい。


 それでも、図書室の本を貸出の作業をせずに盗んでいく、不心得者は後を絶たない。

 しっかし、あきらかにほかの本とは違う、図書フィルムと図書ラベルが貼られた本を、自分の家の本棚に置いていて良心は痛まないのだろうか?


「図書委員なら、盗みたい放題だしなー」


と、不謹慎なことを隣で言う田村を睨みつけつつ、

「では、次回の書棚整理の際に、手分けして探してみましょう。

 先生、紛失した本が見つからない場合はどうするんでしたっけ?」

「基本的には、年に1回選書して購入している新刊図書の候補に入れて、購入するかどうかを決めるわね。その本は、いつごろ刊行された本なの?」


 山口先生からの質問に、書記の深津さんが伊藤君から書名を聞いて図書室のパソコンで調べたところ、

「ええっと、15年ぐらい前のようです」

「だいぶ前の本なのね。出版社に在庫があるといいけど、貸出利用はどんな感じ?」

「この1年で上・下巻合わせて8回です。最近はあまり借りられていませんね」

「えー、新刊購入の予算をそっちに回すんですかー。もったいないなー」

「でも、借りたい人がいるんだし、上巻だけしかないってのは、もやもやするよ」

「盗んだやつを捕まえられないかなー」

と口々に騒ぎ出す図書委員たちを制して、本日の委員会を終了させた。



 下巻だけ紛失した書籍は、『コバルト』というタイトルのミステリー小説で、「うすいさえこ」という作家の本だった。

 興味本位で上巻を借りて読んでみたところ、美術の世界を舞台にしたどろどろのミステリーで思いのほか面白く、劇中の連続殺人事件の結末が気になり、なんだったら下巻を買って読み終えたら図書室に寄贈しようかと思ったんだけど。


 あいにく、図書室に残っていた上巻はハードカバーで、最近文庫版が発売されたようで、ネット書店でも文庫版しか売ってなかったので、あきらめた。

 そうなると図書購入費で購入するのも、中古品だときれいかどうかあやしいし、新品より高い場合もあるし……。


 不勉強ながら、この作家さんのことは知らなかったが、十数年前はかなり人気があったらしく、この上・下巻も同時に刊行されていて、山口先生もよく知っていた。


 悲しいことに数年前に亡くなってて、ご存命だったら作家として大成していたんじゃないかと思うと残念だ。

 その後の書棚整理でも下巻は見つかることはなかったので、図書委員会で再び購入するかどうかが議題になったが、「新刊予算を回すのはもったいない派」と「下巻がないのは気持ち悪い派」に分かれて委員会は紛糾した(大げさかな)。


 なーのーで、委員会終了後に、犯人捜しをすることになった。

 ちなみに図書委員のほぼ全員が参加した(みんな暇だな~)。

図書室の知識については、調べて書きましたが。

時代や地域によって違いがあるので、ここは違うかな?というところあったら、ご意見ください。


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