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09デートの約束

「へ~じゃあみんな小学校からずっと一緒なんだ」

 

 明後日から三学期が控えた1月6日の午後、僕とサラは、僕たちの憩いの場である、寡黙なマスターがいる喫茶店で談笑していた。

 初詣こそはデートをしっかり堪能したけど、ここ数日、サラとこの場所で今までのこと、これからのことを話していた。


「そうだね、僕とサラはもっと幼い頃からの付き合いだけど、翔真と詩織についてはその頃からだね」


「小学校前からなの? じゃあ私と市ノ瀬くんはどんな風に出会ったの?」


 サラの純粋な問いかけに僕は一瞬言葉に詰まったけど、それには笑って誤魔化した。


「まあ……それはまた今度の機会にね……」


 以前の彼女は知っているけど……今の彼女にはまだ話さないほうがいいだろう。優しい彼女を困らせるだけだから。


「……うん、わかった。それじゃあね……」


 何かを察したのか、サラはそれ以上深く質問することはなかった。その代わりに、テーブルの上で組んでおいた、自分の腕に頭を乗せて、下から僕の顔を覗き込むようにして見つめて、別の質問をしてきた。


「こうやって、人の目がある場所や会う時間を毎回短くしてるのは、私のことを考えてなのかな?」


 なんでも分かってしまうサラの問いかけに対して、降参の意味も込めて、肩をすくめながら答える。


「正解だよ。恋人同士とはいえ、いきなり長い時間拘束するのはストレスになるかなって。

 君は僕のことを覚えていないから、一度に長い時間よりも、会う頻度を増やしたいって思ったんだ」


 そう、だから初詣から帰った後もすぐ別れたのだ。サラが恋人になることを承諾してくれたとはいえ、やはり記憶では知らない男だ。

 積極的に会話やデートをしたいが、それが彼女の負担になるのは避けたかった。


 だけど、そんな僕の肯定に対して、彼女は伺うような視線を向けてから。


「そっか………でもね。こうして話していると楽しいし落ち着くから、もっと長く話していたいなって思うよ?」


 以前とは違うんだ、距離感をちゃんと考えなければといけないと、ほんの少しだけ落ち込んだ僕の心にその言葉の破壊力は凄まじかった。


「よし! 今からサラの部屋に行って、もっと話をしよう!」


 バッと立ち上がって力強く言った僕に、サラは両手を振りながら否定する。


「ま、まって! もっと話したいけど、いきなり部屋で二人っきりは緊張するから! も、もう少し待って!」


 以前は普通に部屋に入ることはあったけど、この反応は、また新鮮で可愛い………。

 語彙力が乏しいと感じはしたけど、それ以外に表現ができなかった。


「そうだね、嬉しくてつい興奮してしまったよ」


 落ち着きを取り戻してから、椅子に座ると。


「だからね? 明日一緒にお買い物行きたいなって思うんだけど……どうかな?

 お買い物ができるとこを知っておきたいし案内してほしいの」


 サラの方からデートの誘いをしてくれたのだ。

 僕はそのまま勢いで”よし! 今からいこう!”と言いたくなる気持ちを抑える。あくまでも落ち着いた余裕のある態度が大事だ。落ち着いた大人な態度、それが魅力的な男というものだ。


「それはとても魅力的な提案だね。うん、明日デートをしようか?」


「うん……ありがとう」


 デートいう言葉だけで頬を赤くしてしまう、その初々しい反応に僕も少しだけ照れてしまいそうになるが、しっかり気持ちを抑えて余裕のある態度を崩さない。


「じゃあ明日は、駅前のショッピングモールに行こう。家の前まで迎えに行くから待っていてくれるかな?

 ちなみに何か買ったりするのかい?」


「うん、カレンさ……ママとパパに心配かけているから何か買ってあげたいなって……」


 少し頬を赤らめてそう呟くサラの、どこか子どもっぽい素直さと、大人びた気遣いが同居していて、思わず見惚れてしまった。

 記憶をなくしている今、両親のことも最近知り合った人間とそう変わりはない筈なのに、なんて健気なんだ………


 くそう、サラをすぐにても連れて帰って24時間眺め続けていたいくらいだ……。


「そっか、カレンさんはもうすぐ誕生日だから喜ぶよ」


 そんなことを思いながらも、決してそれを表情に出さず微笑む。

 そして、サラにバレないように、こっそりガムシロップを大量に入れたブラックコーヒーを口にする。


「え、そうなの! 言ってくれたらよかったのに……

 あれ? そういえば私の誕生日いつなんだろう?」


 その問いかけには、ノータイムで答える。


「5月15日だよ。僕にとって世界で一番特別な日だ」


「なにそれ~でも、ありがとう」


 サラはホントに愉快そうに笑う。それにつられて僕もフフッと笑う。


「じゃあじゃあ、市ノ瀬くんやみんなは?」


「翔真が8月6日で詩織が10月2日、僕が1月4日だね」


 それを聞くとサラは”に~”と笑って、両手で頬をつきながら言葉を発する。


「なら、私が一番お姉さんだ」


「そうだね、だとしたら僕が末っ子なるね」


 僕がそう答えると、よく分からないけど、とても満足げに”うんうん”とうなずく。

 だけど、そのあとすぐ何かに引っ掛かったようで首をかしげる。


「ん、あれ1月4日? あー!」


 サラは目を見開いてビックリした表情になったかと思うと、テーブルを”バン!”と叩いて立ち上がった。

 こういう忙しい所は変わらないんだなと思っていると。


「過ぎてるじゃん! 1月4日!」


 なぜか、少しムッとした様子でそう言った。


「こら、サラ。そんな強くテーブル叩いたらだめだよ? 他にお客さんがいたら迷惑になるよ?」


「あ、ごめん……。じゃなくて! どうして言ってくれないの! 祝い損ねちゃったよ!」


 プリプリと頬を膨らませて怒るその表情も愛らしかった。某アニメーション映画のプリセンスのように愛らしい彼女の抗議は、正直迫力はなく可愛さを引き立てるアクセサリーしかならなかった。


「サラのその可愛らしい反応で十分だよ。君の笑顔、愛らしい仕草が一番のプレゼントだよ」


「な、何を言ってるの! 私は怒ってるんだよ!」


 顔を真っ赤にして、両手を突き上げてより強く抗議した後、なぜか両手で頭を抱えるようにうずくまる。


「……なんで、あんな歯の浮くようなくさいセリフでドキッとするのか意味分かんない……やっぱり心は覚えているのかな……」


 ボソボソと何かを呟いていたけど、よく聞き取れなかった。

 記憶喪失の影響はやっぱりあるみたいで、時々こうやって挙動不審になってしまう。


「まあ、とにかく過ぎてしまったことはしかたない」


「しかたなくないよ! 明日市ノ瀬くんのお祝いもしよ?」


 必死なサラの様子を見て、心が暖かくなる。本当に記憶をなくしても変わらない、優しい彼女が愛おしくてたまらなかった。


「わかったよ、なら明日買い物デートしてお祝いもしてもらおうかな?」


 僕の言葉にサラは満面の笑みで答えた。

 

「うん! そうしようね!」

 

 そうして明日の予定を二人で確認した。

 少し過ぎてしまったけど、明日は最高の誕生日のお祝いになるかもしれないと思った。

 

明日も更新!

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