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記憶喪失の恋人を、もう一度僕に恋させる  作者: 久遠遼
第二章:悠人の過去ともう一人の幼馴染み
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03波乱の幕開け

「と、泊まるって僕のアパートにかい?」


「ええ、そうですわ。あ、もちろん正臣おじさまと、カレンおばさまにも許可をいただいておりますわ」


 内心頭を抱える。確かにあのアパートの契約は正臣さんであるため、決定権は彼にある。

 それでも一応一声かけてほしいものだ。


 昔はよくお泊まり会などといって、五人が布団を並べて寝てたことは多々あるが、皆高校生となりあの頃とは違うのだ。

 それにだ――


「綾音、いいかい? 昔とは違うんだ。子供じゃないし、独り暮らしの男子の家に女の子が泊まるというのは――」


 僕の話に、綾音が口を挟む。


「あら? でも、サラ姉さまは頻繁に悠ちゃんのアパートで寝泊まりされてますわよね?」


 その瞬間、教室から音が消えた。


「え、お泊まり?」

「まさか、二人は?」


 そしてヒソヒソと話し声が聞こえてくる。


「お二人は付き合いはじめたのですよね? 詩織お姉さまから聞きましたわ」


 詩織の方へと視線を向ける。


「な、なによ……別にいいじゃない。てか、伝えてると思ったのよ!」


 詩織が口を尖らせて抗議する。

 確かに付き合っていることを伝えるのは別に構わないが、僕とサラの関係性について事情を知らないクラスメイトたちからすると、僕のアパートでサラが寝泊まりしているという事実は色々と勘繰りをされてしまう。


 実際にはキスすらまだしてない、とてもピュアな関係なのだが、そんなことをいちいちアピールすることもない。


「いや、これはきちんと伝えてなかった僕の落ち度だ」


 額に手を当ててため息混じり呟く。


「申し訳ありません、内緒にされているとは露知らず……」


 綾音はうつむいて、両手を少し身体の前で握って小さく呟く。

 そんな彼女の頭にサラはそっと手をのせ、優しく語りかける。


「ううん、大丈夫だよ。別に内緒にしてたわけじゃないし。気にしなくてもいいよ」


 綾音は顔をあげると、ホッとした表情となりバッとサラに抱きつく。


「やっぱり、サラ姉さまは変わらずお優しいです。大好きです!」


「わっ! ビックリした……でも、なんだか嬉しいな」


 綾音をサラは抱き止めて、よしよしと頭を撫でる。

 こうしてみると、見た目は全く違うけど本当の姉妹のように二人の間からは、親しげで暖かい空気が広がっている。


 その様子から、記憶を失っていてもやはり、綾音との関係性を心は覚えているようで、初対面の相手との距離感には見えなかった。


「綾音、泊まる場所についてだけど。知っての通り、僕とサラは付き合っているんだ。それなのに幼馴染みとはいえ、他の女の子を一人で僕の所に泊まらすわけにはいかないから、別の方法を考えよう」


 せめてサラも一緒か、白瀬家に泊めてもらうように話をする必要がある。


「ですが……さすがのわたくしも、はじめては悠ちゃんのベッドで二人きりがよくて」


 ん? 今何を言った? これからなんだか、とてつもないことを言い出そうとしている気がした。


「それ、どういうことだ?」


 僕がどう話をしようかと一瞬悩んだ間に、翔真が問いかける。

 それに、綾音は両手を頬に当てながら、顔を赤らめつつ呟いた。 


「それはもちろん、悠ちゃんとの初夜ですわ。

 二股でも妾でもよろしくてよ? 悠ちゃんと付き合えるなら都合のいい女でいいですわ」


 次の瞬間、綾音を抱き止めていたサラが口を開けたまま固まる。

 そして、先程の比にはならないほどの静寂といたたまれない空気が教室中を支配した。


「ま、待つんだ綾音……」


 僕の制止むなしく、綾音は興奮した様子で言葉を発する。


「わたくし待っていましたの! サラ姉さまと悠ちゃんが恋人同士になり結ばれた暁には、わたくしめを妾にしてもらい、この身を悠ちゃんに捧げることを!」


 とてつもなく嫌な感じで、ザワザワと教室に音が戻ってくる。

 

 僕はちらっとサラを見ると、彼女は顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。

 これから起こる惨事を予想して、全てを諦めてゆっくりと椅子に座った。


「ぜ、絶対ダメ! わ、私たちまだキスすらしてないんだからーー!」


 サラの叫びが教室中に響いて、今日何度めか分からない静寂。そしてざわめきが起こる。


「え、二人ってまだそんな?」

「うそ、尊すぎる」

「て、ことは市ノ瀬くん童貞……」


 僕は机に肘をつき、手で顔を覆うように当てながらやれやれと首を振り呟く。


「ふぅー、僕をこんなに振り回せるのは、サラと綾音ぐらいだよ。本当に困った子たちだよ」


「足……震えてるぞお前」


 翔真の小さな呟きが、ざわめく教室の中でもしっかりと僕の耳に届いてきた。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


物語はこれからというところですが、今回の話をもって一度完結となります。


もし、評価やブックマーク、続きを希望してくださる方が多ければ、続きを書きたいと思っています。

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