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記憶喪失の恋人を、もう一度僕に恋させる  作者: 久遠遼
第一章:残念イケメンと記憶喪失の少女
27/39

27藤堂美咲

「美咲ごめん、別れよう」


 いつも突然そう切り出される。


「ふーん、なんで?」


「なんというか……付き合っても彼女って感じじゃなくて、付き合う前と変わらないというか」


「それは、可愛げがないっていうの?」


 この人もやっぱりそうなのかと、失望した心を表に出さないように問い返す。


「いや、そういう訳じゃないんだけど、思てたのと違ったって感じで」


「あっそ、じゃあ今日で終わりね。じゃあね」


 私は自分の心を守るために淡々とそう告げて、足早にその場を後にする。


 私はモテた。自分のルックスの良さは客観的に見ても良いのはわかった。

 それに、男女関係なく関わるから友人も多いし、さばさばとした性格は、男子からも話しやすいともよく言われた。


 だから、告白もよくされたし彼氏も何人かできた。

 だけど、私はこういう性格だ。彼氏の前で可愛い子ぶるとか、甘えるとかはできない。


 いつもさばさばして、少しドライな反応を見せる私が、彼女になったときに見せる甘い様子を期待して付き合った男子たちからすると、期待はずれだったり、男の自尊心なのかな? そういったのを傷つけてしまうのだろう。

 いつも、歯切れの悪い別れ話を切り出させれる。


 ――「お姉ちゃんのよさを分からない人間なんて、ふってくれてありがとうぐらい思っときなよ!

 本当に、いい人にいつか出会えるって」――


 妹の美菜はそう言っていつも励ましてくれた。

 優しい子、受験の年で自分も大変なのに落ち込んだ私を慰めてくれる。

 来年同じ高校に通えること、そして美菜のその言葉にすがり、胸の痛みに耐えていた。


 そんな、日々を過ごしているときに市ノ瀬くんと白瀬に出会った。


 誰から見ても市ノ瀬くんは白瀬のことを大切にしていて、その恋愛的な好意に気づいていないのは白瀬だけだった。

 私の目から見ても美男美女、おまけに性格も良くて、お似合いの二人だった。

 これで白瀬の性格が裏表あって性悪女とかなら興味なんてなくて、市ノ瀬くんも悪い女に騙されてるななんて思ったりしたかもしれない。

 だけど、同じクラスで過ごしていてそんな子じゃないというのはわかった。


 私とは真逆で共通するとこなんてほとんどないけど、その私と同じで裏表を使い分けられない不器用さを自分に重ねていた。いつのまにか不思議なことに心から二人が上手くいくことを応援していた。


 あんたたちなら、ありのままの状態で上手くいく、幸せな恋人関係を築けるはずだから頑張れって。


 あの日、そんな私の勝手な期待と想いは崩れた。


 年明けのショッピングモールで二人が仲良さげに話しているのを見かけた。

 もしかして? と思って邪魔になるのは分かってても声をかけるの止めれなかった。


 予想通り二人は恋人になっていた。

 だけど、それは私の望んだ形ではなかった。白瀬は明らかに雰囲気は違って、市ノ瀬くんの後ろに隠れていじらしい様子を見せる。

 今ままで見せたことのないような、守ってあげたくなる可愛らしい女の子を演じているように見えた。


 その姿を見た瞬間、ありのままの自分でいられる恋人関係の様子を白瀬を通して見てみたいという、私が抱いていた期待は裏切られたと感じた。


 自分勝手な想いだと分かってはいた。それでも、学校がはじまってからの、今までとは別人のような彼女の様子に、日増しに負の感情が大きくなり抑えられなかった。


 自分にはできないことを、彼女は自然にやってのけている。それが羨ましくて、悔しくて……次の瞬間には嫌悪にすり替わっていた。


 体育の授業前だった。

 私は少し困らせてやろうと、白瀬が市ノ瀬くんとのペアだというネックレスを彼女の着替えの袋から抜き取った。

 数日したら落とし物の所にでも届けてやろうと思っていた。


 そして、体育の授業の時にある事実を知った。


「ねぇ、美咲ちゃん。知ってた?」


 体育館のコートの端で彩花が声を潜めながら聞いてきた。


「何をよ?」


 今度は佳奈が答えたけど、続く言葉は衝撃的なものだった。


「白瀬の記憶喪失のこと」


「はぁ!? 記憶――」


 二人が慌てて私の口を塞いできた。


「しー! 白瀬ちゃんと黒川ちゃんが話しているのをたまたま聞いちゃったのよ」


「なんでも、記憶喪失になって人見知りの性格がでてるって」


 訳が分からなかった。私は動揺する気持ちを抑えながら、小声で問い返す。


「どういうことよ? 記憶喪失なら、なんであの子あんな笑顔で普通に学校生活送ってんのよ?」


「私たちも知らないのよ、たまたま聞いただけだから」


 私はコート上で笑顔で走り回る白瀬の姿を見る。

 なんで、そんな笑顔で楽しそうにできるの? 記憶をなくしたら普通は不安じゃないの?


 彼女のことがよく分からなくなった。

 だけど、一つ確かなことは、勝手な幻想を白瀬に抱いていて、勘違いから自分勝手に憤って過ちを犯してしまったということ。


 体育の授業が終わってから、白瀬は見るからに落ち込んだ様子だった。

 当然だ。体育が終わった後にネックレスを返すタイミングはなく、彼女の元にそれはないのだから。


「美咲ちゃんごめんね。ちょっと荷物とかに私のネックレスがないか見てもらえないかな?」


 昼休み、白瀬に話しかけられた時にはドキッとした。

 まさか私が盗ったことがバレた? 動揺する心を抑えつつ問い返す。


「……ネックレス? なくしたの?」


 私の問いかけに白瀬は今にも泣き出しそうな顔になりながら頷く。


「……うん。それで、もしかしたら他の子の荷物に混じってないかと思って聞いて回ってるの」


 私が盗ったことがバレた訳じゃなく安心したと同時に、あの表情を見て胸がいたんだ。

 その場の感情に任せた自分の愚かな行動を悔いた。


 そして、放課後。教室には白瀬と黒川の鞄が二つ残されただけで、私と彩花、佳奈の三人以外には誰もいなかった。


「白瀬ちゃん元気なかったわね。結局みつからなかったみたいね」


 彩花にそう言われ、佳奈もそれに続いた。


「そうみたいだね。白瀬のあんな姿見てらんないよ。この世の終わりみたいな表情して。たぶん今も学校中探し回ってるんじゃないかな?」


 二人は白瀬のことを心配してそんなことを話していた。


「二人とも……実は……」


 そんな二人の会話に割ってはいるように、私は自分がネックレスを持っていることを告げる。


「あちゃ~それは……」


「美咲ちゃんそれはダメよ」


 二人は驚き、困った表情で呟いた。

 ただ、なんとなく私の心境を理解してくれたのかそれ以上に責めるようなことは言ってこなかった。

 いい友人を持ったと同時に、自己嫌悪が増してくる。


「はやく返してあげなよ?」


「そうね、それできちんと謝らないと」


「うん……わかってる。二人はここにいて、これは私の問題だから」


 二人の言うことは最もだ。直接返して、そして謝ろう。

 そう決めて白瀬を探しに出て、比較的すぐに見つかった。

 白瀬は泣いていた。いままで一度も見たことはなかった。私は思わず下級生の教室へと隠れる。

 そして、そんな白瀬に市ノ瀬くんが寄り添っていた。

 やがて、白瀬が泣き止んで少し落ち着いたタイミングで顔を出す。

 

「あのさ……」


「え、美咲ちゃん?」


 白瀬は私の突然の登場に戸惑う。


「あの、これ……」


 私はハンカチに包んだネックレスを差し出す。私のような自分勝手で卑怯な人間が、この汚れのない美しいネックレスをこれ以上直接触るのには抵抗があった。


「……これ、美咲ちゃんが見つけてくれたの?」


「う、うん。更衣室のドア近くに落ちてたわよ」


「え、そんなとこに……」


「ドアの影に隠れてわからなかったのかな?」


 白瀬と黒川が驚いたように声を漏らす。それはそうだろう。実際は私が持っていたのだから、当然そんなところにはない。

 もう少しましな答えはなかったものかと自分に呆れる。


「……それ、渡したから私行くね」


 私は逃げるようにその場を立ち去ろうとする。

 白瀬に謝ろうとしていたけど、彼女の涙を見たら

、罪悪感からそれを言い出せなくなってしまった。


「美咲ちゃん!!」


 白瀬が後ろから声をかけてくる。恐る恐る振り返って問い返す。


「……なに?」


「ありがとう……本当にありがとう」


 白瀬は目に涙を浮かべながら、そう言葉を発した。


「うん……いいのよ。それじゃあ」


 なんとかそう言ってその場を後にする。

 ほんと最低な女だ私は。

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