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記憶喪失の恋人を、もう一度僕に恋させる  作者: 久遠遼
第一章:残念イケメンと記憶喪失の少女
16/39

16充実した一日の終わり

「よかったな、受け取ってもらえて」


 順番待ちの列で、翔真はそう言った。


「うん、ありがとう。話を聞いてくれて。踏み出す勇気が出たよ」


 翔真は肩をすくめ、やれやれと首を振る。


「大袈裟なんだって。ネックレス一つくらいで」


「そんなことはないよ。普通のネックレスでもプレゼントされると女性は重く感じるらしいからね。

 それがペアのネックレスとなれば、なおさら重いはずだよ?」


「それはあれか? 首輪的な感じでか?」


「それ、間違っても二人の前で言っちゃだめだよ?」


 お互い言葉を交わしながら、笑いあう。


「そういや、サラの飲み物聞いてなかったけど何にするんだ? 詩織はポテト食うときはコーラでいいけどよ。

 サラは気分でよく変わるだろ? 普段通りならピーチティーとか、いちごミルクのシェイクとかか?」


「いや、午前の紅茶の無糖がいいと思うから、自販機で買ってくるよ」


 僕の選択に翔真は意外そうな声を漏らす。


「はあ、そうなのか? サラ、甘いもんが好きだろ?」


「普段ならね。だけどさっき外に出たときに喉が乾燥したのかもしれないから、喉に良くて口当たりもスッキリするものがいいと思ってね」


「はー、よく見て考えてんな」


 翔真は感心したように声を出す。


「当然だよ。愛する恋人のためだから。逆に翔真が詩織に対して雑すぎるんだよ」


「いいんだよ、詩織にはこんなんで」


 ふと視界の端にサラがこちらを見ているのが分かり、振り返ると、彼女はばっと視線を逸らした。


「ん? どうした?」


「いや……今サラがこっちを見ていてね。詩織が何か変なことを吹き込んでないといいけど」


「あ~、なんか言ってそうだな」


 翔真がニヤニヤしながら呟く。僕はなんだか頭が痛くなった。


「翔真……変なこと言わないように釘を刺しておいてくれよ」


「あいよ~」


 翔真は軽く答えた。

 やれやれ、と思いつつも、まあそんなに悪い気がしないのは翔真と詩織だからだろう。


「てか、いよいよ明日から学校か……まじでだるいわ……」


 翔真が分かりやすくゲンナリした様子でぼやく。


「そうだね……サラのこともあるし、気をつけないといけないから大変だよ」


「そうだな。色んな意味で大変だろうな」


 意味深なその反応に首をかしげる。


「色んな意味で?」


「おう、男子人気トップと女子人気トップの二人が付き合ったんだ。それだけでも荒れるだろうけど、記憶喪失のことが周りに知られたりしたら、それこそヤバいだろうな」


 ああ、そのことかと思った。

 サラに改めて自分のことを好きになってもらうことばかり意識がいっていたからすっかり抜けていたが、僕もサラもかなりモテる。


 高校に入学してからの一年弱で、お互い片手では数えられないくらい、何らかのアプローチを受けている。


「それについてはむしろ楽しみだよ。ウジ虫どもの嘆く姿と、僕の外面だけで好意を寄せてすり寄ってくる哀れな女どもがいなくなると思うと清々する」


 清々しい気持ちが内側から溢れ出すのを我慢できず、ニヤける顔を片手で覆って隠す。


「うわ~、その発言と顔をさらしておけば、女子たちは早々に離れていってたぞ」


 翔真が引きつった顔で言う。


「そんなことできないよ。サラがこういうの嫌うの知ってるでしょ?

 それに、サラの隣にいる以上、優しくて爽やかな僕を演じて、周りにもそう認識させないとね」


 僕の言葉を聞いて、翔真は眉をひそめる。


「なあ、そういう自分を偽るのってしんどくねーか?」


 僕は特に悩むこともなく答える。


「別に? お前たちに対しては気兼ねなんかしてないし、サラの前ではそういう発言を控えてるだけで、嘘偽りなく共に過ごしているからね」


 そう言ったあと、少しだけ考えてから続けた。


「僕の他の人間に対するスタンスも、社会に出たら当たり前のことじゃないかな?

 社会に出れば気に入らない相手とも上手くやっていかないといけない。僕の場合はそれが少しだけ極端なだけだよ」


「うーん、まあそう言われればそうか」


 完全には納得していないが、理解はしたような様子で翔真は唸った。


「僕は、お前たちがいてくれたらそれでいいよ」


 僕は本心からそう口にして、翔真に笑いかけた。


「おいおい、そんな恥ずかしいことこんなとこで言うなよ。そんなこと言っても、ポテトぐらいしか奢らねーぞ!」


「奢ってくれるんだ」


 再びケラケラと笑っていると、店員さんに呼ばれたので注文を手早く済ませる。

 商品を受け取った後、フードコートすぐ側に設置された自販機で、午前の紅茶を買った後二人が待つテーブルに戻ると、詩織がジトーとした目を向けてきた。


「なんだよ、詩織そんな目で見てきて」


「男同士、ニヤニヤイチャついてキモい!」


「はあ?普通に話してただけだろ? もしかして嫉妬してたのか?」


「そんなんじゃないわよ!」


 いちゃ付き合う二人を横目に、僕は午前の紅茶をサラに手渡すが、それを受け取って彼女は目を真ん丸にしてそれを見つめ、僕の顔を見てなぜか頬を赤らめ呟いた。


「ホントに私のことなんでも分かるんだね……少しだけ恥ずかしい……」


 サラの可愛さは散々見てきたのに、この初々しい反応はかなりかなりくるものがある。

 こっちまで照れて顔が赤くなりそうだ。

 前なら満面な笑みで”ありがとう”と一言言うだけだった。それだけでも十分満たされていたけど、これはまた新鮮で心が揺さぶられる。


「そ、それでよかったよね? 今日はそれが飲みたいかと思ってね」


 少しだけ言葉に詰まりながらも、何とか言葉を返す。


「うん、これがよかった。ありがとう」


 頬を赤く染めながら笑顔で伝えられた言葉は、違った魅力があり、胸が高鳴った。

 なんだろうこの気持ち……こんなのははじめてだ。


 サラのことが好きだという気持ちに、前と今とで違いはないけど、彼女を見て抱く感情は異なるもので、自分でもなんと表現していいか分からなかった。


 しばらく手元のペットボトルを見ているサラを見つめていたけど、詩織の声で現実に引き戻される。


「悠人~サラのこと見すぎ、そんなに見てたらサラがいつまでも飲めないじゃない」


 僕はあわてて視線を外す。


「ご、ごめん」


 くそ、なにやってるんだ。こんなの僕じゃない。

 気持ちを少し落ち着かせてから、視線をサラに戻す。彼女は笑いながら、詩織たちと話をしていた。


 その笑顔を見て、今度は穏やかな気持ちになった。

 こんなにも僕の感情を振り回すのは世界で君だけだよ。彼女を僕に惚れさせるどころか、僕の方がどんどん君のことが好きになってしまう。


 こうして冬休み最終日が終わった。二人きりのデートのはずが、途中からグループデートになってしまったけど、充実した一日を過ごせた。

明日も更新!

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