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記憶喪失の恋人を、もう一度僕に恋させる  作者: 久遠遼
第一章:残念イケメンと記憶喪失の少女
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14友人

 サラと手を繋いでファッションフロアに並んだ店を眺めていくけど、やっぱり彼女は優しく美しく可憐だ。


 金髪のロングヘアーに青い瞳という圧倒的な美しいビジュアルを持っているけど、明るくよく笑うサラは見ていて暖かい気持ちになる。


 単純な外見だけなら間違いなく美人という一言がぴったりで、高嶺の花という印象だ。その圧倒的な美貌ゆえに、周りも簡単には近づけないような存在に見えただろう。


 だけどサラは、その無邪気な性格と誰よりも人に寄り添う心が表情によく現れており、暖かさと儚さの両方の印象を与える。要するに外見と内面が揃うことで、全ての印象を周りに与える存在だ。


「えへへ……」


 そんな、全ての要素が揃ったサラが、隣ではとても幸せそうな笑顔を浮かべながら、時折首から下げたネックレスを触ってはより笑顔を増すといった様子を見せるのだから、正直悶え苦しくてのたうち回りそうだ。


「……どうしたの?」


 僕の視線に気づいたサラが首を傾げながら問いかけてきた。


「好きだ結婚してくれ」


「な、ななな、急になに言ってるの!」


 急なプロポーズにビックリしてサラは顔を真っ赤にしたけど、繋いだ手は離さず、少しのけぞってからこちらを目を見開いて見てくる。


「ごめん、間違えたよ。ネックレスを嬉しそうに笑って触ったりしてるから、ついこっちも嬉しくて見つめてたよ」


「どうしてそれが結婚してになるのかな……」


 サラは繋いだ手とは反対の手で顔を仰ぎつつ、呟いた。


「なんかね? 着けた瞬間から身体の内側から暖かい感情が沸き上がってきたの。その感情に素直になったら自然と笑顔になったり、ついついネックレスを触りたくなるの」


 サラは自分でも不思議そうにそう言った。


「そっか、覚えていなくても心はちゃんと感じ取ってくれているのかもしれないね」


「うん、そうだと思う」


 それだけ言うと、それ以上はなにも言わなくなった。

 きっとサラ自身、今の自分の状況が分からないのだろう。

 記憶としては僕との関係は始まったばかり。そんな相手に対して、心は僕のことが好きだと訴えかけてくるのかもしれない。

 そんなあべこべな感覚に彼女自身が振り回されているといった感じだろう。


 ふと思う。その感覚は一体どんなものなのか、僕には想像できない。

 感情と記憶を切り離された状態で生きるなんて、普通ならありえないことだ。


 サラが記憶喪失になったことを知ってから、色々調べてみた。脳には「記憶」と「感情」を別々に司る仕組みがあるらしい。

 思い出の場面そのものを記録するのは“海馬”という部分だけど、好きとか安心する、といった感情は“扁桃体”という部分に残る。

 だから、過去の出来事を忘れても「この人といると心地いい」という感覚は、身体の奥にしみついたまま消えないことがある――そう書かれていた。


 つまり、サラが僕を見て自然に微笑んだり、胸が熱くなったりするのは、理屈じゃなく心が覚えている証拠なんだ。


 ――記憶は消えても、感情は消えない。


 その事実が確かなものだと分かったとき、胸の奥がじんわりと熱くなった。

 僕は彼女に忘れられてしまった。でも同時に、忘れられていない部分がちゃんと残っている。

 サラの心が、僕を好きだと告げてくれているのだ。 


「どちらにしろ、僕のことを改めて知ってほしい。僕の方は君のこと全部知っているからね」


「え、全部ってなに! 凄く気になるし怖いんだけど!」


「ふふ、全部は全部だよ?」


 サラは落ち着かない様子で、「変なことじゃないよね?」など聞いてくるけど、僕はそれを笑って受け流す。そして、それにムキになってますます追求してくる、そんなことを繰り返す。

 端からみたらカップルがイチャつきながら歩いてるようにしか見えないだろうなと思いながらお店を眺めていく。


「サラ、このお店よさそうじゃないかな?」


 ふと、目にはいったお店を空いた手で指差す。

 

「ん? あ!この服かわいい……」


 サラは僕が指差したお店の前に並べられたマネキンの一つを見て声を漏らした。 


 そのマネキンには、淡いラベンダー色のニットカーディガンが羽織られていた。胸元からのぞく白いインナーと、水色のプリーツスカートが組み合わさり、春風に揺れるような軽やかさを感じさせる。


 肩には白のデニムジャケットが無造作にかけられていて、きれいめなカジュアル感を演出していた。足元にはベージュのローファーと白ソックス。学生らしい清楚さの中に、柔らかな親しみやすさが漂っていた。


「これ、試着してみるね!」


 サラはそう言うと、いいものを見つけて嬉しさいっぱいで、今にもスキップしそうな様子だ。そのまま、マネキンの側にかけられた同じ服を手にとってお店の奥、試着室へと吸い込まれていった。


 その背中を微笑ましく見送った後、腕を組み壁にもたれかかってサラを待つ。


 その間、お店の店員や周囲の客が、僕の方をチラチラ見てくるのが気に触った。

 中学卒業辺りからだろう、僕は身長が伸び、顔つきも整ったものになった。

 ハッキリいって、かなり外面はいい。だからこうして外に出ると周囲からの視線にさらされる。


 それだけならまだいい。中には下心を持って声をかけてくる者もいれば、ほとんど録に会話もしたことないのに告白してくる者もいる。

 僕の内面を知らずに外面だけを見て近寄ってくる浅ましい者など不快でしかない。


 僕はその煩わしい視線を遮断するため、目を閉じうつむき、近づくなという雰囲気をかもし出す。


「ねぇ~お兄さん、一人?」


 それにも関わらず声をかけてくる者がいた。

 ため息をこらえて、その声の方を向くとそこにはデート中のカップルがこちらを見ていた。


「なんだ、二人だったのか」


 その二人を見て、僕は自然と柔らかな表情となる。


「なんだとはなんだよ、お前がなんか凄く邪悪なオーラ出してたから鎮めてやろうと声かけたのに」


「そうそう、今日デートだったわよね? サラは? もしかして服の試着?」


 そのカップル、翔真と詩織は軽口を言いながら笑いかけてくる。


「うん、いい服を見つけたみたいでね」


 そう言いながら、親指を立てて奥の更衣室を差したタイミングだった。


「市ノ瀬くん? 誰かと話してるの?」


 サラが試着室から顔だけ出して声をかけてきた。


「うぃーす、サラ」


「あれ、詩織ちゃんと翔真くん?」


 二人の姿を見て首をかしげる。


「ねぇねぇ、どんな服着てみたの見せて見せて!」


「え~なんか恥ずかしいな」


 少し照れた様子を見せながらも、サラはゆっくりとカーテンをあける。


 先ほどマネキンが着ていた服を見にまとったサラは、華やかさよりも自然体で爽やかな装いだった。

 その服装を身にまとい少しだけはにかんだ笑みを見せるサラは、春の光を纏った妖精のようだった。

 少し目を閉じると、草原で笑顔を向けてくるサラの姿が鮮明に浮かんだ。


「どう?」


 つい目を奪われてしまい黙ったままなのを不安に感じたようで、伺うような視線を向けながら問いかけてきた。


「うん。とっても似合ってるよ。春になったらピクニックに行こう」


「ピクニック? いいけど? でもそっか、似合ってるならこれ買っちゃお! また着替えるから待っててね!」


 パァと笑顔を見せたあと、カーテンを再び閉めた。

 その後、会計を済ませた後、少し休憩しようと詩織と翔真含めて自然と4人でフードコートへと向かった。

 道すがら翔真が訪ねる。


「よかったのか悠人、せっかくデート中だったのに、普通に一緒に行動する事になってるけどよ?」


「別に? サラが楽しそうならそれでいいし、お前たちとなら別に構わないよ」


 何を当たり前のことをいちいち確認するのだろうと不思議に思いつつ答えた。

 翔真たちと共に過ごすことにいいも悪いもないのに変な奴だな。


「そっか、ならいいや!」


 翔真はなんだか嬉しそうに僕の背中をバシッと叩いてきた。

 やっぱりよく分からないなと思いつつ、なぜか叩かれた背中が熱く心地よかった。

明日も更新!

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