01クリスマスイブの告白
高校一年のクリスマスイブ、雪が静かに舞い落ちる夜。
駅前の広場では、巨大なクリスマスツリーがイルミネーションに照らされ、金と青の電飾が枝先を彩り、星型のオーナメントがきらめいていた。
僕――市ノ瀬悠人は目の前の少女――白瀬サラと、ある目的のためにクリスマスのデートをしていた。
「見て、悠くん! すごくきれいだよ! 来てよかったね!」
サラが嬉しそうに声を弾ませる。夜空に視線を向け、きらめく光を両手で抱きしめるように眺めていた。
「そうだね。だけどサラの方が綺麗だよ」
「またそんな歯の浮くような台詞を言う……そんなのリアルで言うの悠くんくらいだよ」
サラは頬を染めながらも、すぐに笑みをこぼす。
「僕が言ったら……それなりに絵になるでしょ?」
「悠くん……イケメンだからって何言っても許されるわけじゃないんだよ? ホント残念イケメンだよね~」
そう言いながら、サラは肩を揺らして楽しそうに笑った。
彼女はイギリス人と日本人のハーフで、僕の幼馴染みだ。
金色の髪は冬の光を受けてやわらかく輝き、耳元から流れるサイドの編み込みが青いリボンでそっと結ばれている。頬をほんのり染めた顔は雪明かりの中で一層愛らしく、透き通るような白い肌と、星を閉じ込めたみたいにきらめく蒼い瞳が、行き交う人の視線を奪う。
白いコートの襟元には淡いピンクと水色が混じったマフラーがふんわりと巻かれ、その姿はまるで冬の物語から抜け出してきたヒロインのようだった。
そして性格は明るく元気で誰にでも優しく社交的、勉強もスポーツも学年トップ。
それでいて偉ぶらず、笑顔で毎日を楽しんでいる。だからいつも人に囲まれ、まるでお姫様のようだとウジ虫ども(男ども)からモテる。
でも、僕は知っている。本当のサラはお姫様なんかじゃない。
本当は人見知りだし、料理は壊滅的、テーブルマナーは皆無。思いつきで人を振り回し、休日は一日中パジャマ姿で髪もぼさぼさ。寝るときはよだれを垂らし、お腹まで出す。
そんなだらしない姿も含めて、僕はサラが好きだ。
それを見た上で「お姫様」だと言えるなら、そいつはウジ虫からコバエ程度には格上げしてやってもいい。だけど、彼女の幸せのために片腕を差し出せるやつなんていない。僕なら、両腕でも両目でも差し出せる。
「前から思うけど、残念イケメンってどこがだい? 僕は自分の容姿を客観的に評価したうえで、事実を言っているだけに過ぎないよ?」
「そういうとこだよ~。でも実際イケメンだからタチ悪いんだよ……私だから勘違いしないけど、他の女の子にそんなこと言っちゃダメだからね? 悠くんの顔と声で“綺麗”なんて言ったら、すぐ勘違いされちゃうんだから」
「君にしか言わないよ、そんなこと」
「え……?」
僕が真剣な表情でそう告げると、サラは目を瞬かせて戸惑った。
彼女は時が止まったかと思う程、動きを止め次の言葉を待っていた。
「サラ……伝えたいことがある。聞いてくれるかい?」
彼女は黙ってうなずき、こちらを向いた。
吐く息が白く溶ける夜の冷気の中、僕たちはツリーの前で向かい合った。冬の寒空の下、二人の間には張りつめた緊張と、どこか温かな空気が流れているように感じた。
そして僕は、胸の奥から言葉を紡ぐ。
「ずっと好きだった。僕と付き合ってほしい」
このデートの目的である告白――彼女への長年の想いを、ようやく口にした。
サラは告白を聞くまで指先をもてあそび、視線をそらしていたが、今はまっすぐ僕を見ている。
小さく息を吸い込んで、唇を震わせる。けれど、瞳を逸らさない。
凛とした声で、けれどどこか恥じらいをにじませながらも、僅かでも目をそらすことなく力強い眼差しで彼女は答えた。
「うん、私も好きだよ、悠くん。ずっと待ってた」
待ち望んだ言葉に、胸の奥から熱いものがこみ上げる。
達成感、喜び、愛おしさ――まるで人生のすべてがこの瞬間のためにあったみたいに。
「ありがとう、サラ。これからも君を大切にするよ」
「うん……よろしくね」
そのときのサラは、いつもの明るい笑顔ではなかった。
頬を赤らめ、少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに上目づかいで微笑む。ずるい、そんな顔、反則だ。
僕たちはしばらく見つめ合った。駅前の喧騒も、行き交う人の声も、この瞬間だけは届かない。やっと届いた想いが、世界を二人だけの空間に変えていた。
やがて、そっと手をつなぐ。指先がふれ、ぎゅっと握り合う。ツリーの灯りが、祝福するようにきらめいた。
昔から手をつなぐことなんて珍しくなかった。けれど今は違う。恋人としてのぬくもりは、こんなにも特別で、胸を熱くさせる。
これからは恋人として、もっと思い出を作っていく。彼女と、今まで以上に近くに。
この幸せが永遠に続くと、疑いもなく信じていた――そのわずか数日後。
サラは、僕にこう言った。
「……あなたは誰?」
明日も更新!