表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/38

ゴリウォーグのケークウォーク4

二人して、並んで温室の中に座り、チイナはイヤホンのフックを耳に掛けた。

 心臓がどきどきして止まらない。アオネコも、髪をどけてイヤホンを耳に掛ける。

 アオネコがスマートフォンをタップして、サウンドボックスを再び浮上させた。

 イヤホンジャックを持って、チイナがスマートフォンの外部接続端子にそれをぎゅっと差し込んだ。

 二つのデバイスが結合していく。

 アオネコは接続を確認すると、サウンドボックスの画面に指先を伸ばした。


「始めるよ」

「う、うん」


 チイナは頷いた。アオネコが再生ボタンをタップする。

『ゴリウォーグのケークウォーク』が跳ねるように始まった。

 軽快なピアノのリズムが、耳に飛び込んで来る。心臓の鼓動が、それに合わせてドキン、ドキンと早鐘を打つ。

 スタッカートの律動は、遊び心に満ちてチイナとアオネコを誘った。

 あまりに旋律が跳ねるので、眼を開けていられない。チイナは瞼をぎゆっと閉じた。


 ふっと体が軽くなる。チイナが目を開けると、そこは銀色の森だった。


 チイナとアオネコは、白い裸馬に跨って疾走していた。


 二人とも、なにも身に着けていない。チイナとアオネコは、生まれたままの姿だった。

 白馬の額には、虹色に光る角がついていて、それが前足で地面を蹴るたびにキラキラと 光の粒を撒き散らしながら発光している。


「ユニコーンだよアオネコ!私達ユニコーンに乗ってる!」


 チイナは後に乗っているアオネコに向って叫んだ。アオネコがぎゅっとチイナの体を抱く。

 青灰色の髪が、視界の端にちらつく。まるでカーテンみたいで、綺麗だ。

 ピアニッシモの細やかなステップでユニコーンが駆ける。フォルテッシモの大胆さで、たてがみがなびいた。チイナはたてがみに手を伸ばして掴んだ。柔らかい毛並みが心地いい。

 銀の森をユニコーンが跳ねる。ひづめの音が、森に響き渡った。

 ユニコーンは、やがて白い丘に辿り着いた。そこで白い脚が止まる。チイナとアオネコは、馬から降りて手を繋ぎながら飛ぶように走った。走る度に、アオネコの青灰色の髪が、空気に煽られて揺れる。

 小走りに駆けて、二人は丘の上に立った。両手を繋いで、二人はワルツを踊る。

 くるくると回転する度に、世界が鳴動していく。肉体が熱くなり、肌と肌が知らず知らずの内に密着する。

 見つめあいながら、二人は二人だけの世界に没入していった。

 水のように体が溶けて、流れ出す。チイナとアオネコは、一つになって丘を転がる様に流れていった。

 ピチャン、ピチャンと川のせせらぎが、音を立てる。楽し気な旋律は、ふいに不協和音となって滝のように落ちて行く。

 スタッカートのタッチで、水しぶきが散る。弾ける。爆発する。

 豪快な和音が響き、曲は終わった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ