ゴリウォーグのケークウォーク4
二人して、並んで温室の中に座り、チイナはイヤホンのフックを耳に掛けた。
心臓がどきどきして止まらない。アオネコも、髪をどけてイヤホンを耳に掛ける。
アオネコがスマートフォンをタップして、サウンドボックスを再び浮上させた。
イヤホンジャックを持って、チイナがスマートフォンの外部接続端子にそれをぎゅっと差し込んだ。
二つのデバイスが結合していく。
アオネコは接続を確認すると、サウンドボックスの画面に指先を伸ばした。
「始めるよ」
「う、うん」
チイナは頷いた。アオネコが再生ボタンをタップする。
『ゴリウォーグのケークウォーク』が跳ねるように始まった。
軽快なピアノのリズムが、耳に飛び込んで来る。心臓の鼓動が、それに合わせてドキン、ドキンと早鐘を打つ。
スタッカートの律動は、遊び心に満ちてチイナとアオネコを誘った。
あまりに旋律が跳ねるので、眼を開けていられない。チイナは瞼をぎゆっと閉じた。
ふっと体が軽くなる。チイナが目を開けると、そこは銀色の森だった。
チイナとアオネコは、白い裸馬に跨って疾走していた。
二人とも、なにも身に着けていない。チイナとアオネコは、生まれたままの姿だった。
白馬の額には、虹色に光る角がついていて、それが前足で地面を蹴るたびにキラキラと 光の粒を撒き散らしながら発光している。
「ユニコーンだよアオネコ!私達ユニコーンに乗ってる!」
チイナは後に乗っているアオネコに向って叫んだ。アオネコがぎゅっとチイナの体を抱く。
青灰色の髪が、視界の端にちらつく。まるでカーテンみたいで、綺麗だ。
ピアニッシモの細やかなステップでユニコーンが駆ける。フォルテッシモの大胆さで、たてがみが靡いた。チイナはたてがみに手を伸ばして掴んだ。柔らかい毛並みが心地いい。
銀の森をユニコーンが跳ねる。蹄の音が、森に響き渡った。
ユニコーンは、やがて白い丘に辿り着いた。そこで白い脚が止まる。チイナとアオネコは、馬から降りて手を繋ぎながら飛ぶように走った。走る度に、アオネコの青灰色の髪が、空気に煽られて揺れる。
小走りに駆けて、二人は丘の上に立った。両手を繋いで、二人はワルツを踊る。
くるくると回転する度に、世界が鳴動していく。肉体が熱くなり、肌と肌が知らず知らずの内に密着する。
見つめあいながら、二人は二人だけの世界に没入していった。
水のように体が溶けて、流れ出す。チイナとアオネコは、一つになって丘を転がる様に流れていった。
ピチャン、ピチャンと川のせせらぎが、音を立てる。楽し気な旋律は、ふいに不協和音となって滝のように落ちて行く。
スタッカートのタッチで、水しぶきが散る。弾ける。爆発する。
豪快な和音が響き、曲は終わった。