ゴリウォーグのケークウォーク2
「宇宮千生那」
クラス担任の先生が、出席をとるために生徒の名前を読み上げて行く。
「はい」
チイナは、機械的に返事をした。声は高くも無く、低くもないはずだ。声音も大きくも無く、小さくもない。チイナはほっと胸を撫でおろした。昨日のことは、誰にもバレでいない。バレるはずはないのだが、チイナはなんだが、昨日の夜のことがみんなに知られてしまったような気がして、後ろ暗かった。だから、返事にも気を付けてコソコソしまう。
昨晩の何とも言えない、快楽の渦のような現象はいったい何だったのだろう。今まで感じたこともない、強い恍惚。耐えられないほど気持ちイイ、あのイヤホン。
チイナはちらりと自分のカバンを見た。カバンの底、巾着袋の中に、あのイヤホンが入っている。
『イヤホン、学校に持って来て』
そうメッセージアプリにポストが届いたのは、今朝のことだった。相手は勿論アオネコだ。
(アオネコ……)
アオネコのことを考えると、チイナは急にぼんやりしてしまう。視線が定まらなくなり、視界がぼやける。以前は、アオネコのことを考えてもこんなことはなかったのに、やっぱり自分はどこかおかしいのではないだろうか。十中八九、あのイヤホンを使ったせいだと思う。体の芯が熱くなる。
きゅっと、下腹のあたりが切なくなって、身体が火照ってくる。ゴリウォーグのケークウォークが、また頭の奥から響いて来て、幻想の道化師が教室の中を玉乗りしながら右往左往しはじめた。
「青生野寧仔」
「はい」
呼ばれて、隣の席のアオネコが先生に返事をする。はっとして、チイナはまばたきした。自分の熱くなった頬を叩き、口の端をぬぐう。手の甲に、薄く唾液がついた。
学校のチャイムが鳴り響き、授業が始まる。
一限目は、数学だ。数学の教師が、壇上で喋りはじめる。チイナは、教師の言うことに集中しようと耳をそばだてた。でも、まったく集中できない。
アオネコのことが脳裏をかすめて、たまらない。
アオネコと一緒にもう一度音楽を聴きたい。
イヤホンを分け合いたい。
一つになりたい。
「っ……!!」
チイナは、愕然として椅子から立ち上がった。ガタンと音がして、椅子が床に倒れる。
一つになりたい?今自分は何を思ったのだろうか。
生徒たちの視線が、チイナに集まる。教師が、チョークを持ったまま振り向いた。
「どした?」
「あ……あ……あの……」
「先生」
しどろもどろになったチイナに助け船を出したのは、アオネコだった。彼女は手を上げて先生に向かってしゃべり始めた。
「宇宮さん、調子が悪いみたいです。私、保健室に連れて行きます」
「ほんまか宇宮?うん、熱っぽそうな顔してるな……」
「わ、私は」
「はい、行ってきます。いこ、チイナ」
チイナのカバンを取って、アオネコが手を引く。チイナは、ふらつきながらその後に続いて教室を出た。
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