それから7
アオネコは、美術系の大学に合格していた。その大学で彼女は写真を本格的に学び始めた。
チイナと混ざっているからか、写真への興味は尽きなかった。
レンズを覗くと、世界はまるで違って見えた。
教室の窓に差し込む光。カフェの片隅でコーヒーを飲む学生。ベンチで本を広げる少女。
すべてがシャッターを切るべき瞬間に見えた。
彼女は、大学での学業が軌道に乗ると、すぐ教習所に行って大型二輪の免許の教習を受け始めた。
写真の勉強をするうちに、バイクで世界を旅してみたいと思っていたからだ。
アルバイトも始めた。コンビニのレジ打ちや品出し、飲食店のホールや皿洗い、ライブの設営や搬入スタッフ。
元々、アオネコは人付き合いが苦手だった。バイトなんてまっぴらごめんだと思っていた。
でもやってみたら、案外こなすことが出来た。勿論失敗は沢山した。沢山怒られた。
でも、不思議と気持ちはめげなかった。
「青生野さんって、いっつも安定してるね」
コンビニバイトの先輩が言った。
「どう言う所が、ですか?」
「叱られても、すぐに自分を取り戻せる所とか。なんていうか、安定してる」
「うーん、そうかも知れません」
「否定しないんだ……何か、コツとかあるの?」
「コツって言うか、二人一役だから乗り越えられるっていうか」
「二人一役?」
「はい、二人一役」
「ふ、ふーん」
先輩は、それ以上聞かなかった。アオネコも、それ以上何も言わなかった。
バイトの給料が入る度に、彼女は通帳とにらめっこして、手帳に細かく計画を書きこんで行った。
「あと何か月で、どこまで行けるかな」
世界地図を広げ、旅のルートをシュミュレーションする。
(南米から行こうか。ユーラシアを横断するか……)
心の中で、既に旅は始まっていた。
教習は滞りなく済んで行った。ハンドルを握る度にワクワクと胸が躍っている自分に気が付いて、可笑しかった。
筆記と実習試験に合格し、アオネコはついに大型二種の免許を取得した。
そして、溜まりに溜まったバイト代で、バイクを買った。
ハーレーダビットソンのスポーツスター1200。
足つきがよくて、取り回しがしやすい青いボディ。荷物も沢山乗る。海外ツーリングにはもってこいだ。
いつしか大学での暮らしも三年が経ち、アオネコは三回生になっていた。
成績は良かった。アルバイトと両立が出来るか不安だったが、写真が好きだったから。
時々、大学の友達に「そんなに動いて、疲れないの?」と聞かれることもあった。
「ううん。だってまだ、助走だもん」
アオネコは笑いながら答えた。
一年後、大学卒業と同時に、アオネコはカメラを片手に世界一周の旅に出た。
世界を回り、危険な目にも沢山あったけど、色々な人と交流した。外国語も沢山覚えた。
アオネコは心躍らせて、世界を駆け回っていった。