それから6
一年が経ち、再びの春がやって来た。
その日は春一番の吹く、風の強い日だった。
校庭には、卒業を迎えた生徒たちが溢れていた。
制服のリボンを交換しあう女子たち、第二ボタンを求められて照れ笑いする男子たち。
そこかしこで、笑い声と涙まじりの別れの儀式が繰り広げられていた。
アオネコは、そんな風景の中佇んでいた。
「青生野さん!」
クラスメイトが駆け寄って来て、アオネコの袖を掴んだ。彼女は涙ぐんだ目を擦ると、アオネコに明るく話しかけた。
「写真撮ろうよ!」
アオネコは微笑んでカメラを構えた。学校の手洗い場にカメラを置いて、ファインダーから映りを確認し、タイマーをセットする。
「青生野さん!こっちこっち!」
「今行く」
アオネコが、クラスメイトたちの方へ駆けて行く。
「はい、チーズ!」
アオネコの掛け声と共に、シャッターの音が、春の空に響いた。
心の中で、チイナが笑っている。
嬉しいね、アオネコ。素敵だね、アオネコ。
(そうだね)
アオネコも心の中のチイナに笑み返した。
クラスメイトと写真を撮り終えたアオネコは、校門の方へと歩き出した。
「ばいばい、青生野さん!」
「またね!」
「元気でね!」
クラスメイトたちが、彼女の背中に声をかける。
アオネコは腕を上げて軽く手を振ると、新しい道に向かって歩き出した。