それから5
放課後の教室は、5月の気持ちのいい夕焼けが窓から差し込み、机の上に長い影を落としている。
テスト勉強の合間に、誰かがふと口を開いた。
「ねえ、みんなって将来のこと、もう決めてる?」
隣の席のクラスメイトが、ペンをくるくる回しながら言う。
「私は商学部ある大学志望なの。実家が小さな店やってるから、いつか継ぐのもアリかなって」
「へえ、いいね! 私は専門学校行くんだ。髪の毛いじるの好きだし」
それぞれが自分の未来を話す。アオネコはみんなの話を静かに聞いていた。
「青生野さんは?」
そう聞かれ、アオネコは一瞬、打ち明けるかどうか、迷った。
(素直に答えればいいよ)
心の底から、そんな言葉が湧き起こる。アオネコは、素直に答えた。
「……美術系の大学に行って、写真を学びたいんだ」
その言葉を口にした瞬間、心の奥がふつふつと熱くなるのを感じた。
「写真?」
クラスメイトの視線が集まる。
「うん。まだはっきりとは決めてないけど……写真をもっと知りたい。いろんな景色を撮って、何かを伝えられるようになりたいんだ」
言葉にしながら、自分の中で想いが確信に変わっていく。
写真への憧れ。将来の夢。全てチイナのものだったはずの感情と記憶がアオネコの中に浮上する。
チイナの写真への想いが、アオネコの中に花開いて行く。チイナの写真への情熱は今や、アオネコの夢になっていた。
「かっこいいじゃん!」
「青生野さんの写真、見てみたいな」
「きっとチイナみたいに、いい写真撮れるよ」
「そうそう、チイナは、写真が好きだったよね」
「青生野さんばっかり撮ってたよね!青生野さんもカメラ好きだったんだねえ」
「青生野さん、今度写真見せてよ!」
(これがチイナの望み、チイナの願い)
アオネコは、少しだけ笑った。
窓の外で、蝶々が飛んだ。夕陽がゆっくりと沈んでいく。
アオネコの心にも、新しい光が差し込んでいた。