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それから1


 消防車と救急車が、小道を駆けて来て、アオネコの側を通り過ぎていく。

 誰かが通報したのだろう。消防車から消防隊員たちがパラパラと走り出て来て、炎上する研究所の前で放水を始める。

 消防隊員の一人が、アオネコに走り寄り毛布を掛けた。


「大丈夫ですか?怪我は!?」

「大丈夫です」

「確認します。救急車へ行きましょう!煙を吸っているかもれません」


 アオネコは救急車に乗せられると、病院へと運ばれて行った。

 母親と父親が、アオネコの運び込まれた病院に駆け付けたのは、そのすぐ後だった。

 母は自分の娘を誘拐されたと信じ込んでいて、「良かった、本当に良かった」と泣いた。父も涙ぐんでいた。

 アオネコは、しばらくその病院に入院した。自分では気が付かなかったが、結構至る所に打ち身や切り傷があったのだ。


(体に気をつけなくっちゃ……)


 これからはもっと注意して生きねばと思った。だってもう、一人の体ではないのだから。

 アオネコは、自分の体を大切にしたいと、初めて思った。チイナがアオネコの中に混ざったから、チイナがアオネコの中にいるから、そう思えた。

 お昼だ。アオネコは、病院食を大きな口を開けて食べた。

 今日のメニューは白ご飯に、アジの磯辺焼きフライとほうれん草のおひたし、しいたけの中華スープだ。

 アオネコはご飯を食べながら、ふと、自分がほうれん草のおひたしを好きになっていることに気が付いた。

 以前から青い野菜が苦手で、度々チイナに食べてもらっていたのを思い出す。

 チイナは、青い野菜が好きだった。

 トレーの上に、嫌いだったはずのほうれん草が小鉢に入って置かれている。

 アオネコはそれをじっと見つめて、一口また、口に含んでみた。


(美味しい)


 ほうれん草は美味しかった。以前は青臭い匂いもべたべたした食感も好きではなかったのに。

 それが、今はこんなにも違って感じる。

 添えられたかつおぶしの旨みと、醤油のまろやかな塩気。ほうれん草の繊細な風味を引き立てながら、舌の上にほのかな余韻を残していく。

 冷たくても、温かくても美味しい。素朴だけど、噛みしめるほどにじんわりと心に染みる味。

 静かに微笑む、優しい家庭の味だ。

 多分これは、チイナの気持ちなんだと思う。

 チイナと混ざり合ったおかげで、アオネコの中にもほうれん草が美味しいという記憶が生まれたようだった。

 アオネコはほうれん草のおひたしを平らげると、他の品を食べに掛かった。






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