塔7
バチンと音がして、熱い火花が頬に散る。頭が熱い。アオネコは、ヘッドセットを急いで自分の頭から外した。
見ると、ヘッドセットは黒煙をあげてショートしていた。
勢いをつけて椅子から立ち上がる。周りと見ると、コードは絶縁不良をおこし火を噴いており、モニターは割れて、機器類は漏電し、バチバチと電流を流しながら燃えている。
研究所は、崩壊しようとしていた。
「フェアリー!フェアリー!」
声のする方を見ると、割れた培養槽の前に、神楽耶が蹲っていた。彼女の腕の中には、フェアリーが抱きかかえられている。ぐったりとした顔には生気はなく、瞼は重く閉じていた。
フェアリーは、死んでいた。
「私の研究が……私の"理想"が……」
神楽耶の絶望に染まった声がする。
アオネコはぐっと息を飲んだ。神楽耶の研究所をここまで壊したのは、アオネコとチイナの二人だ。
二人で放ったあの光が、フェアリーとの接続に負荷を与えて、急激な電流の放出が起こったのだと予想された。
フェアリーを殺したのは、私達だ。
グラグラと天井がたわみ、バルブが落ちてくる。建物自体が崩れかけていた。
「神楽耶博士!逃げないと……!」
アオネコが神楽耶に駆け寄ろうと足を踏み出した瞬間、天井が崩落し、目の前に落下する。砂埃が舞い、アオネコが手を自身の口に翳す。行く手を阻まれた。
「神楽耶博士!」
アオネコが叫んだ。神楽耶の背が、瓦礫の向こうに見えている。
「神楽耶博士!貴女はただ、フェアリーを目覚めさせたかっただけなの!?」
ゆっくりと神楽耶が振り向く。彼女は静かに微笑んでいた。
「私も……心から愛する存在を見つけたかったのかも知れないな……」
次の瞬間、神楽耶とフェアリーの上に、崩落した瓦礫が落ちる。神楽耶とフェアリーは、瓦礫の中に消えて行った。
アオネコは、踵を返して走り出した。
建物の奥から出口に向けてひた走る。至る所で火の手が上がり、壁や天井が落ちかかって来る。
階段を駆け下り、廊下を飛び越えて、アオネコは走る。出口が見えて、アオネコは扉を開けて、外へ走り出た。
それと同時に、轟音を上げて研究所が崩れていく。
遠くで消防車のサイレンの音がする。アオネコは、振り返らずに歩きながらポケットを弄ると、メルティ・イヤーを取り出した。
手に持ったメルティ・イヤーを一瞥する。
「さよなら、メルティ・イヤー」
そして、アオネコはそれを強く握りしめ、破壊した。