塔6
「チイナ!」
「アオネコ!」
「チイナ、また会えた……私……!ごめん……私……!」
「アオネコ……いいの、謝らないで……私も嬉しい……!」
彼女が微笑みながら、そっとアオネコの背を撫でた。世界が崩壊する中、二人はしっかりと抱きしめ合った。
教室のチイナの体が、ぐらりと傾ぐ。顔から、殻がパラパラとはがれ始める。
それらは外皮だった。びしりと外皮に亀裂入る。パキバキと音を立てながら外皮が剥がれ、チイナだと思われていたその相貌の下から、違う者が顔を覗かせた。
アオネコはチイナにぎゅっと抱き着いたまま振り向いた。今や教室のチイナの殻は全て剥がれ落ち、足元に降り積もっている。
剥がれ落ちたチイナの顔の殻を踏みつけて、その者が地団駄を踏む。
「アオネコオォォォ!!」
銀色の髪、長い睫毛、チイナに似た、その顔付き。それは、フェアリーだった。
「フェアリー!?」
フェアリーが、崩壊する足場を飛び、アオネコとチイナに襲い掛かる。
「魂をよこせ!私は目覚めるんだ!」
「いやよ!」
アオネコの肩を抱きながら、チイナが叫ぶ。アオネコはしっかりと立ってチイナと手を握り合った。
二人の体が光りを放ち始める。光は強くなり、強固に反射した。フェアリーがはじき返されて、もんどりうって倒れる。
「私は思い出した!この子が本物のチイナだ!」
フェアリーがなおも起き上がる。アオネコは、目の前のフェアリーに向かってあらんかぎりの声で叫んだ。
「チイナの望みは、私が私として生きること!あんたの魂になることじゃない!」
一つになった魂が共鳴し、光が目を開けていられないほど強くなる。世界が、崩壊していく。
まばゆい光がフェアリーを浸食していく。耳をつんざく叫び声を上げて、フェアリーが手を振り乱す。
チイナとアオネコの光に包まれて、フェアリーは黒い影になる。影も存在できないほど、光が強くなり、フェアリーの存在が、掻き消えた。
世界は一面の白い空間へと生まれ変わった。
チイナとアオネコは白い空間に、二人だけで浮かんでいた。
「チイナ……」
「アオネコ……」
「やっと会えた……やっと話せた……!」
アオネコは涙を流しながら、チイナを見つめた。チイナも、泣いていた。
「私、ずっといたよ。アオネコの中で眠りながら、あなたとずっと一緒にいた」
「私、気が付かなくて……でも、今ならわかる……私とチイナ、一つになるんだね」
二人の中から大きな奔流が湧き上がり、チイナとアオネコの記憶が混ざり始める。
初めて、母と手を繋いで歩いた日。抱きしめてくれた父の微笑み。出会った様々な人々、そして。
千生那が寧仔に出会った記憶。
寧仔が千生那に出会った記憶。
二人が愛し合った記憶。
その全てが交じり合い、一つに収束していく。
————貴女はだあれ?
————私は貴女
————そうか
————ええ
————貴女は、私だったんだね