塔3
「……!?」
アオネコは、驚いてチイナを見た。チイナは、自分を追いかけていたのではなかったか。階段を上がって来る音がする。チイナだ。
時計塔のチイナは、悲しそうに微笑むと、自動ピアノの椅子から立ち上がって、アオネコの前へ歩み出た。
「アオネコ」
「アオネコ!」
大きな声で呼ばれて、アオネコは、後ろを振り向いた。そこには、チイナがいた。
時計塔の内部、二人のチイナがアオネコを挟んで対峙する。
アオネコはゾッとして二人のチイナを交互に見詰めた。チイナが二人で、睨み合っている。
いや、正確には、時計塔のチイナは悲しそうな顔で、教室のチイナは怒りの表情でお互いを見つめていた。
しばしの沈黙が流れ、じりじとした緊張感が走る。教室のチイナが、アオネコに視線を移して叫んだ。
「永久に一緒にいようって言ったじゃない!」
アオネコは何も言わずに立ちすくんだ。時計塔のチイナが、一歩前へ出て、アオネコに語り掛けた。
「約束、覚えてる?」
約束。約束とはなんだろう。アオネコは首を振った。
時計塔のチイナが、眉根を寄せて困った様に微笑んだ。
「思い出して。私が居なくなった時。肉体が消失した時。貴女は何を見たの?」
「何を……?」
「何を、読んだの」
パッとアオネコの脳内がスパークする。手紙。そうだ手紙だ。
チイナは手紙で、アオネコに想いを託してくれた。
アオネコは、その想いを守らなければならなかったのだ。