表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/38

デルフィの舞姫たち2

「……っ!」


 アオネコは、アンティークショップをじっと見つめた。

 そして、踵を返して走り出した。

 ビルの階段を降り走り続けて、通りを曲がり、路地を抜け、アンティークショップに辿り着く。

 はあはあと息を切らして、アオネコは電柱に手を突いた。

 アンティークショップには『close』と書かれた看板が下がっている。

 つま先立ちになって、店内を覗き込む。暗い店内に、黒い喪服を着た女性が立っていた。

 女性が、ゆっくりとこちらを振り向く。

 目が合った。

 美しい人だと思った。唇に引いた真っ赤なルージュが、闇の中で光っている。

 彼女は、真っ赤な唇を釣り上げ、アオネコに向かって微笑んだ。


(気づかれた……)


 アオネコが首を引っ込める。何故か、見つかってはいけない気がした。女性がつかつかとアオネコの方へやってくる気配がして、店のドアがカランと鈴の音をたてて開いた。


「待ってたよ」


 女性が、アオネコに向かって優しく言う。アオネコは、首をかしげて女性を見上げた。


「でも、悪いけどもう閉業なんだ。ちょうどここの店主が亡くなったばかりでね」

「え……それは……ご愁傷様です」

「はは……っ」


 女性は乾いた笑い声を立てると、少し屈みこんでアオネコの顔を覗き込んだ。


「アオネコって、礼儀ただしいね。チイナにはあんなに強引だったのに」

「!?」


 アオネコは、弾かれたように女性の顔を見た。チイナしか呼ばないそのあだ名を、どうしてこの女性が知っているのだろう。


「私は神楽耶かぐや。ついて来て」


 神楽耶かぐやと名乗った女性は、玄関から出てアオネコを手招きする。その手には、車のキーが握られていた。

 店の裏手に、神楽耶の姿が消えていく。アオネコは、慌てて神楽耶を追いかけた。


「ちょ、ちょっと待ってください!何で私とチイナの名前……」

「いやあ、アオネコはそろそろここに来ると思っていたよ。叔父さんが亡くなった直後で良かった」

「叔父さん!?あの、貴女……」

「私はここの店主の姪だよ。よろしくね」


 店の裏手には、一台の車が止めてあった。神楽耶が、指先でそのドアノブ部分に触れた。ピピッと電子音がして、キーロックが解除される。


「乗りなよ」


 神楽耶が助手席に回り、ドアを開けて言った。アオネコが一歩後ずさる。

 一緒に行ってはいけない!頭の何処かで、誰かが叫んでいる。逃げて!尻込みするアオネコを見て、神楽耶は、三日月のように細く唇を歪めて笑った。


「チイナに逢いたくないの?」

「……!」


 逢いたい。逢いたいに決まっている。突然、チイナの香りがふわりと鼻に香った。

 チイナに触れた感触、チイナの肌の温かさが、突然せり上がるように思い出される。


「……」


 アオネコは、うつむいて地面を見た。敷き詰められた砂利が、音を立てる。


「チイナに、逢わせてくれるの」

「ああ、いいとも」


 ばっと顔を上げて、アオネコが神楽耶を見た。神楽耶の目がぎらりと輝く。


「行きます。連れて行って」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ