夢想
チイナは、そのまま何処かへ行ってしまった。
制服とカバンは、すぐチイナのお母さんの所へ届けられた。彼女のお父さんも加わって、みんなでチイナを探したが、その夜、チイナは結局帰って来なかった。
三日探し続けたが、チイナは何処にも見つからなかった。チイナのお母さんとお父さんは、捜索願を出すことにしたらしい。
彼女のことを聞きに、警察がアオネコの所へもやって来た。
アオネコは、遊んでいたらいなくなってしまったと事情聴取にやって来た警察の人にうそぶいた。
本当のことだった。メルティ・イヤーのことは、話さなかった。
話せなかった。チイナが居なくなった今も、メルティ・イヤーのことは二人だけの秘密だった。
アオネコは、一旦学校を休んだ。
両親も心配してのことだった。家に閉じこもって、アオネコはこんこんとベッドで眠った。
でも、恐れていたメルティ・イヤーの禁断症状は、まったくと言っていいほど無かった。
だた、その代わり眠くて起きていられないのだ。アオネコは、眠り姫のように一日中眠り続けた。
アオネコは、夢を見た。
夢の中で、アオネコはチイナの影を探している。今立っているのは、いつもの通学路だった。
アオネコの目の前を、チイナの影がよぎる。その影は、スカートの裾だったり、後ろ手の一部だったり、亜麻色の髪だったり、時によって様々だ。
夢の中で、アオネコはその影を必死で追いかける。しかし、いつもアオネコはチイナを捕まえられないでいた。
一ヵ月が経った。チイナは未だに見つかっていない。
彼女のお母さんとお父さんは、町中に貼り紙をしてチイナを探している。
チイナは、アオネコの夢の中に出現し続けていた。ある日アオネコは両親に起こされて、病院へと連れて行かれた。
両親の運転する車の窓に、五月の空が映る。その窓から外をぼんやりと眺めながら、アオネコはチイナを探し続けた。
「あっ」
アオネコは、声を上げた。今、見知ったスカートの裾が、路地を曲がって行ったような気がした。
「父さん、止めて!」
アオネコは父親に向かって叫んだ。車が急停車し、アオネコはドアを開けて車外へ飛び出した。
路地を曲がり、その先を見る。
そこには誰もいなかった。
アオネコは、その場にへなへなと座り込んだ。
「寧仔!」
お母さんはアオネコを追いかけて来ると、ブランケットを掛けてその肩を抱いた。
「いきなり出て行ってどうしたの!危ないじゃない!」
アオネコは、座り込んだまま、誰もいない路地の先を見つめていた。