亜麻色の髪の乙女2
「っ……チイナ!」
愕然として、アオネコは辺りを見渡した。薄暗い部屋にはアオネコ以外誰もいない。
彼女が、チイナが消えてしまった。何処かへ行ってしまった。
アオネコは、カバンを膝元に置いて急いでメルティ・イヤーをつけた。とにかく落ち着かなくては。
気を落ち着かせるために、アオネコはメルティ・イヤーを使うつもりだった。
自分のスマートフォンと接続し、曲を選ぶ。『亜麻色の髪の乙女』。
チイナみたいに、亜麻色をした髪の女の子の曲。チイナ。
チイナ。
ゆっくりとしたレガートの旋律が流れ始める。
しかし、いつまで待っても、別世界も陶酔もやって来ない。
アオネコは目に涙をためながら、メルティ・イヤーを外した。
メルティ・イヤーは二人で使わないと意味はないとチイナは言っていた。
一人になっては、もう、快楽は過去のものだ。一人になっては、こんなにも虚しい。
その時、チイナのカバンの中から、何か振動する音がして、アオネコは、ハッとした。
それは、チイナのスマートフォンだった。アオネコは、それを取り出して、画面を見た。
画面には、『お母さん』と表示されていた。
恐る恐る画面をスワイプし、電話に出る。
『もしもし、チイナ?』
「おばさん」
『あら?アオネコちゃんじゃない。うちの子に変わって……』
「チイナが」
『え……?』
「チイナが居ないんです」
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行方不明者届出書
雨庭警察署 受理番号 XXXXXX
取扱者 生活安全課 階級 巡査 氏名 葉鐘 渡
受理年月日時 20XX年4月2日 午前 11時45分
行方不明者
住所
雨庭市 XXX町 XXXX区 XX-XXX イヴリーヌマンションD101
職業 高校生
氏名 宇宮千生那
生年月日・性別 20XX年 3月25日 (17歳) 女
上記の行方不明者について届出をします。
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