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喜びの島2

 授業が終わり、チイナとアオネコは、学校を出た。

 アオネコがチイナの腕を引く。

 チイナは、それに反発しようと、腕を振るおうとした。


(力が入らない……)


 腕は弱々しくビクつくだけで、抵抗すら虚しい。チイナの体の中には、もうアオネコに逆らう力は残されていないようだった。


「私の家に行こう」


 アオネコは息せき切ってチイナを引っ張りながらずんずん進んでいく。

 やがて二人は、一棟のマンションに辿り着いた。

 エントランスの認証システムに自分の相貌そうぼうかざして、アオネコがロックを解除する。

 チイナの脚はもつれて、転びそうだ。アオネコの手が彼女の肩を抱き、無理矢理立ち上がらせた。遮二無二しゃにむに歩きながら、アオネコはチイナを抱きかかえるようにして、自分の家に引きずり込んだ。

 チイナを自分の部屋のベッドに放り投げるようにして寝かせ、アオネコは自分の部屋の扉に鍵をかけた。

 はやる気持ちが指先を震わせる。アオネコはベッドに上がりチイナにのしかかると、その制服のボタンに手を掛けた。

 チイナはもう抵抗しない。できなかった。

 アオネコがチイナの制服を乱暴に脱がせていく。ブラウスを取り払い、シャツと下着を剥ぐ。

 全裸になったチイナを愛おし気に見下ろしながら、アオネコも服を脱いだ。

 裸になって、アオネコはチイナに押し付けるようにキスをした。

 ベッドのシーツが皺を作り、スプリングがきしんで二つの体重を受け止める。

 アオネコは、チイナから唇を離すと、メルティ・イヤーをお互いの耳につけるとチイナの隣に横になった。

 スマートフォンから『喜びの島』が流れ始める。


 瞬間、二人は草深い密林にいた。

 二人は密林の開けた場所で、対峙しあっている。

 ピアノのアルペジオが、波のさざめきになって遠くから聞こえてく来る。

 オクターブを重ね合わせた響きが、二人の鼓動に重なった。

 拍をずらした、跳ねる様なリズムが響いて、アオネコはチイナに手をのばした。

 その手を制して、チイナがアオネコの頬に触れる。

 アオネコは驚いて尻込みした。チイナが、苦し気に眉根を寄せて微笑んだ。


「アオネコ」


 チイナがアオネコの名を呼ぶ。ワルツが速さを増していく。


「私、とても苦しかった。でも……」


 アオネコの頬を、チイナが愛おし気に撫ぜる。スタッカートの素早さが、生気と軽快さを奏でる。


「やっぱり貴女のこと、拒否できない。……ずっと……好きだよ。その想いは、変わらない」


 チイナは、瞼を閉じて目をつぶった。


「ずーっと、ずっと、一緒だよ、アオネコ」


 音楽は、甘美な陶酔と熱狂に向かって駆けあがって行く。


 チイナは目を開けた。チイナの目の前が光りで満たされる。

 とろける。形が無くなる。二つの流れが一つになる。

 チイナの意識は、そこで途切れた。



 アオネコは、ベッドの上で起き上がった。曲は、終わっていた。

 隣に手を伸ばす。

 まだぬくもりの残ったシーツだけが、そこにあった。


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