喜びの島1
私は、誰だろう。
私が、薄く透明になって行く。
「チイナ」
呼びかけられ、ハッとしてチイナは振り返った。
呼んだのは、プリントを配りに来たクラスメイトだった。クラスメイトは、チイナと、それからアオネコにプリントを渡す。
「どしたん?ぼーっとして」
クラスメイトがチイナに聞く。チイナは、自分の頬を叩いて、まばたきをした。
確かに、ぼおっとしていた。チイナは最近、こんなことが多い。ふと気が付いた時には、意識は何処か遠くに行ってしまっていて、自分が誰なのかも忘れてしまいそうになっている。
「最近、チイナ変だよ?」
そう言って、クラスメイトが心配そうにチイナを覗き込む。
突然、視界が黒く覆われた。アオネコがチイナの頭を抱いている。
「大丈夫だよ」
アオネコが言った。胸が当たって、あったかい。アオネコは何だか嬉しそうだ。
「チイナは私と一緒だから、ねえ」
「ふ、ふうん?」
クラスメイトは、首をかしげながら去って行った。チイナの頭の中で、アオネコの言葉が繰り返される。私と一緒だから。私と一緒。
言葉が、じわじわと苦い不吉を伴って広がって行く。
このままじゃあ、私は。
アオネコに飲み込まれてしまうのではないだろうか。
(メルティ・イヤーを捨てないと)
メルティ・イヤーからアオネコが目を離した時がチャンスだ。
アオネコが席を立った隙に、チイナは彼女のカバンにそっと手を入れた。
中を弄り、メルティ・イヤーを探す。
「……何してるの?」
チイナは、びくっとして手を止めた。
目の前に、アオネコが立っている。
アオネコは微笑んで、自分の手に持った巾着をチイナに見せた。
「探してるの、これだよね?」
休み時間の教室の中、アオネコのシルエットが揺れる。
もう逃げられない。
チイナは、力なくカバンから手を引き抜いた。
「そんなに私とシたかったんだね……」
アオネコの唇が吊り上がり、笑みを作る。彼女は、チイナの隣に座ると、そっと耳打ちした。
「今日もシようね……」
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