パスピエ4
(私だけのチイナでいてほしい)
中学に入ると、チイナはどんどん明るくなり、友達が増えていった。
アオネコは、そんな彼女を眩しく見つめながらも、胸の奥に渦巻くモヤモヤに気づき始めた。
チイナが他の子と笑い合うたびに、心がざわつく。チイナが誰かと仲良くするたびに、喉の奥が苦しくなる。
「……ねえ、アオネコってさ、私のこと好き?」
ある日、何気なくチイナがアオネコに聞いてきた。アオネコはドキッりとして戸惑った。
「な、なんで?」
「うーん、なんかアオネコ、たまに私のことすごくじっと見るから」
「……そんなこと、ない」
とっさに否定した。でも、心臓が早鐘のように鳴っていた。
それ以来、アオネコは自分の気持ちに気づいてしまった。
これは、友情じゃない。
私は、チイナを「友達」以上に、欲している。
でも、そんなことを言ってしまったら、チイナはきっと離れていく。だから、気づかれないように隠し続けた。
(チイナは、私のものじゃない)
でも、本当は——私だけのチイナでいてほしい。そう願ってしまう自分が、怖かった。
そして高校生になったとき、チイナが「メルティ・イヤー」を持ってきた。
「一緒に試してみようよ!」
イヤホンを半分ずつ分け合い、耳に装着した瞬間、アオネコの心の奥底に隠していた感情が、チイナに伝わってしまった。
チイナは驚いていた。怖がっていた。でも、アオネコはもう後戻りできなかった。
(このまま、溶け合ってしまえたらいいのに)
それが、アオネコの本音だった。
彼女の感情が、チイナの中に入り込んで来る。強い、アオネコの想い。それはチイナの中に沁み込んで、チイナを覆いつくし、しゃぶりつくそうとしていた。
一瞬、恐怖がチイナの脳裏によぎる。しかしそれは、一つになるという強烈な快楽に押し流されて、飲み込まれて消えてしまった。
(抵抗できない)
アオネコとチイナは、二つの輝きとなって、小学校から走り出し、街に出て疾走する。
儚い、幻想的な旋律が響き、音楽は再び流れ出す。一つになった二人は、狂ったように走って街の広場にやってくると、そこで踊りはじめた。光を受けて、青い植物たちの蕾から、花弁がほころび、次々に花が咲き始める。
遠ざかる夢の残響と共に、二人は踊りつづける。そして最後の光を散らし、曲は終わった。