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物語かのように  作者: 千東風子


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エピローグ

 

「アン! 誕生日おめでとう!!」


 隣に座るレナトの頭を撫でながら、まだあまり膨らんでいないお腹を愛おしそうに撫でていたアンに、僕は花束を差し出した。

 今日はアンの二十三歳の誕生日だ。

 花束に微妙な顔をしたアンを僕は見逃さなかった。


「ごめん、匂いがダメそう?」


 幸いつわりも軽くて体調も良好なアンに、匂いの少ない花を選んできたんだけど、ダメだったか?


「いや、違うの。あ、あのね。話してなかったことが、あるなぁって、思い出して」


「え……、話してなかった、こと?」


 すれ違って圧倒的に言葉が足りなかった僕たちは、夫婦として歩み出す時に約束したことがある。


 言わなくても伝わるは、なし。

 言わなくてもいいかな、は、自分で判断せずにまず話すこと。


 そうやってお互いの話をたくさんしてきたけれど、まだ話していないこと……? 一体なんだ? アンのことは大抵のことを聞いて(いなくても)知っている。アンの様子から良い話でなさそうだ。


「あのね、私、二十三じゃなくて、二十五歳になったの」


「……え?」


 二十五歳。

 二十三歳じゃなくて、二十五歳。

 二つ年上……四つ年上!?

 僕が学園の一年生の時に三年生だったアン。落ち着いていてしっとりとした色気があって、学園で信徒(ファン)が多かった。

 そりゃそうだ。十六、七、八の()が当時二十歳のお姉様の色気に勝てるはずがない。そりゃあモテるわけだ。


「戸籍は二十三歳だけど、本当はお兄様と同じ歳なの。……嫌いになった?」


 目を潤ませて不安そうに見上げるアンに理性がぶち切れそうになる。

 医者から安定期に入るまで夫婦生活はしないように言われているというのに。


「なんか納得しただけ。……アン、学園時代にすごくモテていたの知ってた?」


 アンは「何それ」という顔をした。湧く()どもを潰しに潰しまくった義兄上には感謝しかない。


「アンこそ、僕が子どもに見えてない……?」


 急に不安になってしまった。


 アンはレナトの耳を塞いで、小さな小さな声で「……子どもと子どもは作りません」と言った。


 くっそ可愛いな。


 アンは課題を提出することで残りの単位を取得して、先日学園の卒業資格を得た。復学はしないで卒業だけはすることにしたのだ。


 学園を休学して領地で『静養』していたのは、結婚と出産、産後の体調不良と生まれた子の虚弱体質が理由だと、事情を知らない周囲には説明した。回復したので社交界に戻ってきた(てい)で、普通に受け入れられている。まあ、腹の中では色々思っていても、外には出さないだろう。それが貴族だし。


 僕たちは今もナトゥリ領で暮らしている。


 方方(ほうぼう)からの無理難題を(さば)く日々に変わりはないけれど、疲れきっても帰る家には愛する妻と子がいる。

 年明けには更に増える。幸せだ。

 その年上女房が、思っていたより年上だっただけで、この幸せが崩れるはずもない。


 けれど、僕がナトゥリ家の義父上、義母上、義兄上からアンの事情(話し)を聞いた時、アンの年齢については触れてなかった。思い返してみれば、アンの母がアンを身籠っていることを隠して伯爵家を(いとま)した時期をはっきりとは言わなかったのだ。

 まあ、アンはアンだから何歳でも大した問題ではないのは分かる。分かるが、あの三人はきっと、そういえばアンの年齢を僕に言っていないかもしれない、いつ気付くかな~どんな反応かな~、と、面白がっていたに違いない。


 ふむ。

 義父上は領地経営を義兄上にほぼ任せて(ヒマ)しているな。義兄上も僕にちょいちょい処理を寄越すし、余力があるだろう。なんせ毎日のようにアンとレナトと僕に会いに来るんだから。

 宰相閣下に次の(めちゃくちゃ複雑な)事業の責任者に二人を推薦しておくか。適任適任。


 義母上は義兄上の結婚について、「もう人間だったら何も文句は言わない」と(こぼ)していたな。あれ、違ったかな? 僕は記憶力がいいんだけどな。まあ、義母上だから、本当にどんなお嫁さんでも大事にしてくれるだろう。

 最低条件が人間だから、紹介も楽勝だな。


 フェンテの義父も知っていたに違いない。

 そういえば、旅行好きのフェンテの義母が今度は遥か南の島国に行ってみたいと言っていたな。年単位の行程になるし、国交もないからと義父が必死に止めていたっけ。義母の義父に対する塩対応はブレなくて、見ていて気持ちが良い。

 新規に国交を結ぶなんて、貿易も広がってやりがいがあるな~。途上の国々を巻き込んで、街道を通すか。川も使えるな。

 フェンテ家はお金があるから、諸々の融資も都合してくれるだろう(義母が)。


 では、幸せ(あふ)れるこの僕が、幸せのお裾分けに皆のために一肌脱ごう。


 文句言うなよ。覚悟して僕の愛を受け取ってほしい。


 こうして僕の周囲は今日も幸せ、だ。



読んでくださり、ありがとうございました。レナトのパパ、クリストバル視点のお話は、これにて完結です。


長い長いクリス君の言い訳とその後、いかがでしたでしょうか。


全方位に人タラシのクリス君は、いつも誰かのために自分の能力を発揮してきました。きっとこの先もそう。


男爵家から侯爵家に養子に入り、仕事の名声も得るなんて、妬み嫉みを一身に受けて潰されてしまいそうな境遇でも、クリス君は皆に背中を押してもらえる愛されっ子です。それはきっと、いつも誰かのために一生懸命だから。


本人は、うじうじして能力はあっても冴えない自分に自己肯定感低めで、ほどほどが自分には合っていると思っていましたが、妻子もろとも周囲に大切にされていることを自覚してからは無双していきます。


え、養子だったの? と言われるほど、フェンテに馴染み、本当はフェンテの隠し子なんじゃないの? 説が信じられていくほど。

もちろん、バランカの生家も弟たちの手に負えるくらいに繁栄させます。


生涯、しっかりと自分の足で歩くアンとクリスは、周囲から見たら物語かのような人生を、ただの現実として着実に生きていくことでしょう。

二度と離れないように、お互いを大切にしながら。


それでは、また別のお話でお会いできますことを願って。


ありがとうございました。

m(_ _)m


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