8話_後始末
時刻は深夜2:30
グレースハイムの404号室には、先ほど絞殺した小杉先輩の死体が転がっている。
とりあえず殺害に使用した手錠を外してリュックに入れる。
そして玄関に行き、棚に置いてある家の鍵を回収した。
「さてと」
机の上に散乱しているビール缶を片付け、ゴミ箱に捨てる。
事前にプリントアウトしておいた置き手紙を机の上に置く。
これで家出を装う。
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どうしても行きたい場所があるのでしばらく家を空ける事にします。
仕事先への連絡等もせずに、申し訳ありません。
探さないでください。
小杉晶
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棚の上にあったクリックルワイパーのシートを取り出して自分の汗が滴っていそうな場所を掃除し、そのシートをゴミ袋に入れてリュックの中に入れる。
「あとは、スマホと財布か」
スマホも財布も持たずに家出をするはずはない。
机の上に置いてあった財布を確認すると、Airタグが入っていたので電池を外してリュックの中に入れる。
iphoneを手に取ると、彼女とのツーショット写真の画面が表示された。
電源ボタンを押してoffにする。
その後、ポケットからSIMを抜き差しするピンを取り出してSIMカードを抜き取った。
でも俺は知っている。これだけだとまだ行方を追う事ができる。
最近のiphoneは、電源をOFFにしても最大24時間までは位置情報を追跡できる。
確か電源がOFFでも近くのapple端末と通信を行ってその近くのapple端末の位置情報を元に、位置情報を表示させるシステムだったはず。Airタグも似たような仕組みだ。
リュックからアルミホイルを取り出してiphoneに密着させて何重にも巻き付けてリュックの中に入れた。
とりあえずはこれで、位置情報は追跡されないはず。
スマホが外部の端末と通信できなくさせればいい。
小杉先輩の死体をベランダに引きずり出す。
鉤縄のロープの先に、小杉先輩の両腕を結びつける。
エアコンの室外機から屋上へ上り、鍵縄ロープを引っ張る。
「お、重い・・・」
恐らく体重が70kgほど。
70Kgなら普通に持てるが体制がかなり悪く、油断したら屋上から地面へ落ちて俺も死ぬ。
近くの受水槽の梯子の手すりにロープを回して、綱引きのようなやり方で何とか屋上に引っ張り上げる事が出来た。
後は死体を地面へ音を立てないように下すのだがここからが問題だ。
屋上から死体を落とした瞬間に死体の重さによる張力で、自分ごと落ちてしまう気がする。
要するに体重計に乗った瞬間は、自分の体重以上の力が体重計に発生するのと同じこと。
そのインパクトを移さないといけない。
考えた結果受水槽の梯子に鉤を引っかけて、鍵縄ロープを梯子に巻き付けた。
死体は、屋上の崖っぷちにある状態。
受水槽の梯子から死体までのロープの余長は30cmほど。丁度死体が宙にぶら下る長さ。
これで死体を下してる最中に急に落ちてしまっても、受水槽にそのインパクトが伝わる。
死体を足から下ろしていくが、腹部を下した瞬間一気に落下した。
「やべっ」
ロープを掴んで引っ張るが凄い重さだ。
だがロープの余長が30cmだったため何とか、落下を止めることができた。
ロープを手放して、受水槽の梯子で死体を支えられることを確認した。
梯子に巻き付けたロープを緩めて死体をゆっくりと地面に下した。
梯子に巻き付けたロープと鉤を外して、コンクリートの壁に引っかける。
そしてそのまま、壁を利用してロープ1本で地面まで降りた。
登るのは難しいが、降りるのなら簡単だ。
死体の両腕に結んだ鉤縄のロープを外して、先端の鉤を激しく揺らしてコンクリの壁から外して回収し、リュックの中に入れた。
死体をレンジャーロールと呼ばれる担ぎ方で肩に担ぎ上げ、そのままマキの生垣の人1人分通れる場所まで行く。
死体を生垣の前に置いて、自分が先に生垣を匍匐前進でくぐり抜ける。
道路を見渡して、車や人が居ない事を確認して死体の足を引っ張って道路に出す。
心臓がバクバクと、とんでもない鼓動を上げている。
人を1人担いで動き回っているのもそうだが、この現場を誰かに目撃されたら終わるという意味もある。
レンジャーロールをやって担げるほどの時間はないため、お姫様抱っこのままバイクを駐車してある路地裏まで全速力で走り抜ける。
もう手足の筋力が限界を迎えている。
まだ安心しちゃいけない。
死体を地面に置いてバイクの集配用大型キャリーボックスの蓋を開けた。
大きさ的にかなりギリギリだが入るか?
バイクスタンドが片側1本しかないサイドスタンドではなく、両サイドに2本突き出て車体を直立して駐車する事ができるセンタースタンドで本当によかった。
膝を曲げて先に入れ、腹部を押して下半身をキャリーボックスの中に押し込む。
上半身を丸めて膝を両腕で抱え込む形にし、体育座りのような体制で収納することができた。
重すぎる。意識のない状態の人間の重さを肌で実感した。
もう両腕がパンプアップして悲鳴を上げている。
ヘルメットを装着して、バイクスタンドを蹴って外した瞬間重すぎて倒れそうになったが最後の力を振り絞って安定させ、エンジンをかけて道路に出た。
もう両腕が震えている。
そのまま走る事2時間、盗難品を置いてある雑木林とは別の場所に到着した。
ここは隣の県のとある小さな山。
事前に死体を埋めるために、リサーチしてあった場所だ。
コンクリではない地面を走行する事約10分。
真夜中で鬱蒼とした森だ。
元々はキャンプ場だったらしいが、今では立ち寄る人は居ない。
急な斜面の場所にさしかかり、バイクでは進めないので死体をレンジャーロールの方法で担いで運ぶ。
そのまま10分ほど木々の間を移動して、人1人分が埋められるような穴を掘ってある場所へ到着した。
深さ1.5m、長さ1.8m、横幅1m
ここも以前から準備してある、死体を隠す場所として掘ってあった場所だ。
小杉先輩の死体を穴に入れて、茂みの中に隠してあるスコップを引き出した。
この穴を掘るまで3時間かかった事を思い出して限界を迎え切った腕で、弱弱しく土を被せ近くの葉っぱや木の枝を土の上に乗せてカモフラージュした。
「やり切った。」
死体処理が完了した。