6話_道具揃え
朝5時、俺は亜妻市のサンライズマンションに来ていた。
自分の住む産土市から見て西にあるのが雛守市で、亜妻市は東に位置している。
オートロックマンションで、セキュリティバッチリだと思われがちだが果たしてどうか。
深夜まで作業していたからとても眠い。
朝とはいえ、不審者装備(帽子、マスク)で歩いていると夏なので大変蒸し暑く、汗が滴ってきた。
駐車場の入り口から、監視カメラが設置してある電灯のポールを発見した。
後は、マンションのオートロックの入り口にカメラがあるくらいだ。
よく目を凝らすと、目的のバイクが駐車してある事を確認した。
大きな木の木陰になっていて、見えずらいが間違いなくあの場所だ。
ここまではgooglemapの情報通りだ。
駐車場には直接入らずに道路をそのまま歩いて、さっきの監視カメラが設置してあった場所に着く。
手袋を装着して周囲を確認し、人が居ない事を確認しフェンスを乗り越える。
地面から1.5mほどの高さに電源ボックスらしきものがある。
中を開けてみると、1個空きコンセントを発見した。
バッグから電源とその8m程のMicroUSBアダプター取り出し接続し、アダプタを電源ボックスの配線穴から出した。
アダプタを口に咥えて、ポールと道路の間に生えていた木によじ登る。
駐車場全体が見渡せるほどの高さである事を確認し、ラズベリーパイと、USBカメラを監視カメラの真下に灰色の雑テープで巻きつける。
SIMドングルをラズベリーパイのUSBポートに差し込み、咥えていたアダプタを電源に差し込む。
ポケットからスマートフォンを出して、USBカメラの映像が映っている事を確認して木を降りた。
電源ボックスを閉じて、再びフェンスをよじ登って脱出成功。
一旦家に帰り、PCで設置したカメラの映像を確認する。
2時間ほどすると、2Fの角部屋から若い金髪の男性が出てきて駐輪場に行くと共に、お目当てのバイクに乗りどこかへ行った。
早速準備を整え、サンライズマンションへ向かう。
このマンションは横は5部屋あり、2Fの男性が出て行った部屋は205号室だ。
その真下の105号室を遠目から確認したところ、人は住んでいるようだがベランダのガラス窓にはシャッターがかかっていた。
不審者装備になり、1Fのベランダの手すりを足場に、2Fのベランダによじ登る。
2分ほど部屋の中から物音がしない事を確認した後、リュックの中からL字に曲がった針金を取り出し、窓と窓の隙間に差し込んで鍵を開ける。
息と、物音を殺しても心臓の音がかなり頭に響いてくる。
もし中に人が居たら?いや、逃げる算段はある。大丈夫。そう思い込んで行動に移す。
靴を抜いて部屋の中に入り、電気が点いていない事を確認した。
玄関を見ると、恐らく同一人物のサンダルと、革靴の2足だけ出ていた。
そして玄関の棚が鍵置き場であることを確認した。
1人暮らしであることは間違いない。
間取りを確認する。玄関から扉を挟んで10畳ほどのLDK、自分が入ったのはこのLDKのベランダだ。
その隣に扉を挟んで6畳ほどの寝室があり、ここもベランダに繋がっていた。
1人暮らしにしては贅沢だがやはり、下調べの通りの好都合な部屋。
写真を何枚か撮影して鍵をかけずにベランダに出る。
バイクの音が鳴ったので、スマホでカメラを確認すると、さっきの男性が駐輪場に戻ってきていた。
「(やばいやばいやばいやばい)」
「(駐輪場から205号室まで来るのに約2分。飛び降りて問題ない高さではあるが、着地の音でバレる可能性がある。)」
「(であれば、1Fの階段を上っている時に飛び降りるしかない)」
「(でももし、ベランダを他の住民が見ていたら当然飛び降りれない。これは運とタイミングの勝負になる)」
「(でも、やるしかねぇ!)」
スマホでカメラをチェックする。
男性が買い物袋を提げて建物の階段に上り、恐らく5秒ほど経って踊場まで上がった頃合い、ベランダから辺りを見渡す。
200mほど離れた道路に老人が歩いている姿が見えたが、205号室のベランダから芝生へ飛び降りた。
「ドスッ」
明らかにボーリングの玉より重いものが落ちた音がした。
少なくとも105号室の人間には聞こえていたと思う。
一応周囲を見渡すも誰もいない事を確認してフェンスをよじ登り、無事脱出した。
とにかく目もくれず、家まで帰って仮眠をとった。
流石に少し今日は大胆な事をし過ぎている。
夕方頃目が覚め、カメラの録画を確認する。
あの後205号室の男性は外出しておらず、誰かが出入りした映像もなかった。
ただカメラで見れるのは部屋への出入り口側と、駐輪場のみ。
反対側のベランダは確認できず、こればっかりは足を使って見に行くしかない。
時刻は深夜2時、普通のサラリーマンは皆寝静まっている時刻。
自分も明日は仕事だというのに、本日3度目のサンライズマンションへ向かった。
車道側から見て205号室のシャッターは閉まっておらず明かりは消えている。
そして105号室は相変わらずシャッターが閉まっている。
そして閑静な住宅地なのか車の通りも少ない。
今しかねぇな。
不審者装備に着替えて、フェンスを乗り越える。
本日2回目、105号室のベランダの手すりを足場にして、205号室のベランダによじ登った。
物音はほぼない。
息を殺し、部屋の中の様子を探ろうと耳を立てる。
物音はしない。静かすぎる住宅街のため、小さな物音1つ立てたらバレる可能性がある。
窓の鍵がかかっていなければ行ける。
窓に力をほんの少しだけかけて、スライドしたのがわかった。
ベランダの窓を時間にして3分ほどかけて、ゆっくりと窓を自分の体分開けて侵入した。
LDKの隣の部屋は扉が閉まっており、完全に家主は眠りについているようだ。
LDKから玄関にかけての扉をゆっくり掴んで押した。
「キィ..」
と少しだけ音がする。
時間をかけて開けたいが、時間をかけられる状況でもない焦り。
とんでもない緊張感と焦りで呼吸が乱れる。
この息遣いを聞かれていたらと思うと、今すぐにでも逃げ出したかった。
でも俺にはやらないといけない事がある。
今この状況を乗り越えれば、人生が前進する。
ドアを開けて玄関に到着すると昼間にはなかった鍵が置いてあった。
すぐさま鍵をポケットに突っ込み、玄関の鍵を開ける。
カッ....チャ...という本当に少しだけの金属音
だけど焦ってはいけない。
正面から出たらオートロックの入り口の監視カメラと、駐車場のカメラに写ってしまう。
元来た順序と同じように玄関からLDKの扉を閉めて、ベランダまで忍び足で移動し窓を閉めた。
靴を履いて、ベランダから飛び降りる。
やはり、飛び降りた時のドスッという足音は出てしまうが、2Fまでは響いていないはず。
まだやることは残っている。
表の車道から、朝設置したラズベリーパイとカメラのフェンスまで来て敷地のフェンスを飛び越える。
木に登り、駐車場と部屋への出入り口全体を見渡しているカメラのレンズにガムテープをハサミで切って張り付ける。
手袋越しなので張りにくい。
雑テープをハサミで切断しラズベリーパイとカメラを外して、手袋の布が接触した部分のガムテープを切って雑テープと一緒にポケットに突っ込む。
木を降りて電源ボックスを開け、コンセントから電源とMicroUSBアダプターを引っこ抜いて閉じる。
駐輪場へ向かい、ポケットから取り出した鍵を差し込んでハンドルロックを解除する。
持ち主のヘルメットをシート下から取り出して装着。
そのまま、手押しの形でマンションの駐車場入り口から出る。
100mほど手押しで進んだ後、エンジンを起動して車道を突っ走った。
盗んだバイクで走り出す〜♪
こんな冗談みたいな歌の内容を自分がやる日が来るとは思わなかった。
危険地帯からバレずに無事脱出したその安心感と、とんでもない危険な窃盗をやり遂げた高揚感。
そして夜中にバイクを走らせる爽快感でもはや眠気は完全に吹っ飛んでいた。
そのままNシステムに引っ掛からないように走行し、自転車を窃盗して保管している場所へ到着した。
バイクを置いたあと、自宅へ戻った頃には時刻は4:00になっていた。
シャワーを浴びて気絶するように眠った。
ついに俺はほぼほぼ全ての準備を整える事ができた。
あとは、メインディッシュだな。
これから始まる。