4話_下準備ときっかけ
読者の皆様、ついに待ちに待った殺人描写があと3話くらいで出てきますよ。
ワクワクして待っていて下さいね。
単独犯じゃないと完全犯罪になり得ないので、登場人物が少なすぎるのが悩みどころです。
継続して閲覧してくれている人がいたら我慢して読み進んで頂けると幸いです。
日曜日の朝 起床はいつも通りの7時。
どんな時間に寝ても、必ず遅刻はせぬという社畜魂が骨身に沁みているようだ。
ベッドから立ち上がると、体が重い。
睡眠時間が足りていないのと、かなり本気で漕いだから少し疲れているようだ。
だがその疲労に見合う収穫はあった。
顔を洗って歯を磨き、着替えて外に出る。
朝から日差しが全開のようだ。
徒歩3分のコンビニに行って、ブラックコーヒーと炭酸水とおにぎりを買いアパートに戻る。
さて、今後の事を考えるか。
買ってきた朝食を食べながら、例の如くA4の紙に書き出す。
【今日やること】
・車体番号と防犯登録番号の刻印を焼き消す
・壊す自動販売機を探す(深夜1〜3時まで人が来ない)
・目的地までのNシステムの場所を探す
まぁ、こんなところだろうな。
ロードバイクの置いてあったアパートまでの道のりには、事前にNシステムがない事は調査済み。
痕跡を残さないためには、事前準備が最も大事だ。
Nシステムとは走行中の自動車のナンバープレートを自動的に読み取るシステムの事。
警察庁と都道府県警察が管理していて警察が犯罪捜査や手配車両の追跡に利用する。
通過した車両ナンバー、車種や色、運転者はもちろん同乗者の顔も撮影することができるカメラだ。
つまり犯罪をするには、このカメラの設置場所を避けて移動するのが大前提。
では、カメラの設置場所はどこにあるのか?
なんと有志でGoogleマップに反映させているウェブサイトが転がってるので、目的地をそのGoogleマップで打ってNシステムの設置してある経路を避ければいいだけ。
さて、本命の自動販売機の場所だが、田舎にあって民家が近くになく、尚且つ道沿いに設置してない場所がいい。
いくら人通りがない深夜の田舎の小道でも車は通る。通過した車の運転手に自販機をぶち壊してる姿を見られたら終わりだ。
その条件を満たすため、思い当たるの場所は複数ある。
1 建物の中
2 大きい運動場
3 海岸沿い
まぁ現実的なのは2か3だろう。
そして来週の土曜日は台風が来る。
台風の夜に海辺を歩いて回っている人は存在しないはず、海辺の自販機で決定だ。
自動販売機を解体して紙幣読み取り機を取り出すとなったら、自転車のような短時間では行かない。
・・・でももし、これが
「お爺ちゃんお婆ちゃんがいつも飲んでいるドリンクが飲めなくなったとかで悲しんだらどうする…?」
やめろ、そういう事を考えるな。
「そもそも、自販機に思い入れがある人間なんかいるわけがないだろ…」
「ひょっとして、お前は無意識的に考えてるんじゃないか…?自分の責任で傷つけた人が老人でとても悲しんでしまっていたら…俺は多分今とは比較にならない罪悪感で押しつぶされてしまっているだろう。だからロードバイクなんて若い人が乗る物を選んだんだろ?まだ罪悪感が和らぐから。」
「ああ、そうかもしれない。だけど、やらないと俺に未来はない。」
ユニットバスの鏡に向かってひとしきり独り言を喋った後、気分は晴れた。
ホームセンターへガスバーナーを買いに行き、その足で昨日自転車を置きに行った場所へと向かった。
耕作放棄地の更に奥、昨日かき分けて進んだ草がまだ倒れているのを目印に進む。
蚊の音が耳元を騒ぐ度に、自分は休日に何をしているのだろうと心が折れそうになる。
現地へ到着したときには汗だくになっていた。
取り合えず蚊取り線香に火をつけ、虫よけスプレーを全身に吹きかけた。
手袋をつけて、さぁ作業開始だ。
自転車のサドルの下に防犯登録番号のシールが貼ってあるのをマイナスドライバーを使って剥がす。
これは貼りたてだったのかすぐに剥がれた。本当に新品だったんだな・・・
そして車体番号。ネットで調べた通り、ペダルの付け根あたりに刻印されていた。
クランクと呼ばれる場所らしく、ローマ字4文字と数字5文字の車体番号を確認した。
この自転車メーカではこれで間違いないようだ。
自転車をひっくり返し、近くの木に立てかけてさっき買ってきたガスバーナーとネールハンマーを取り出す。
ガスバーナーで車体番号に火を吹き付ける。
物凄い熱さ、そして塗装部分が剥げて変な匂いがしてきた。
この絶対に体に悪そうな匂いによって、本格的に自分はヤバイ事をしているんだと再確認した。
・・・もう何分間熱しているのだろうか・・・金属部分が真っ赤だ。
もういいか。
ネールハンマーで打刻されている部分をぶっ叩く。
この車体の細さだと折れてしまうのではないかと心配になってきた。
叩きまくる事5分。
全身が汗だくになっていた。こんなとんでもない筋トレ方法があったとはな。
ただハンマーで叩くだけなのに物凄く集中してしまっていたようだ。
マイナスドライバーを文字の溝に突っ込んだ状態でハンマをマイナスドライバーに打ち付ける方が文字は読めなくなる事にやってて気づいた。
これがすぐに思いつかない辺り無能さを感じる。
文字は完全にとまでは言わないがまず、原形の文字はわからない状態になっていた。
「これで完全な盗難車の出来上がりだな。」
後は買ってきた車体と同じ色の黒スプレーを、ガスバーナーで熱した部分に吹き付けてカモフラージュは完了した。
近くでクランク部分を凝視したら少し変だが、遠目で見たら違和感はない。
一応乗れるか確認してみたが、特に問題なく走行可能のようだ。
自転車をその場所に置いて帰路につく。
家に帰りシャワーを浴びて、今日やる事を再度確認する。
【今日やること】
・車体番号と防犯登録番号の刻印を焼き消す ⇒完了
・壊す自動販売機を探す(深夜1〜3時まで人が来ない)
・目的地までのNシステムの場所を探す
後は場所の選定だけだ。
PCで探すこと30分。
この家から約60km先に、海鳴り海浜公園がある。
公衆トイレの横に、赤色の某有名企業の自動販売機がポツンと1台設置してあることを確認した。
周囲を見ても海と、防災林。道路までは約100メートルほど離れている。
Nシステムで確認したが、高速道路が近くにない事から大きな交差点付近に2個しかない。
今日のタスクは終わった。
そしていつの間にか夜になっていた。
不思議な気持ちだ。
明日が仕事だというのに嫌ではなかった。
自分の人生を、自分で動かしている自覚があるからだ。
流されるまま生きる人生ではなくなった。
来週到来する台風に希望を持ったまま目を閉じる。
誰に言うでもなく、おやすみなさいと呟いて眠りについた。