彼の秘密~転校生は、嘘をつく〜
高校2年生の夏、私の学校に転校生がやってきた。
私は、前日徹夜して勉強したせいで今にも眠ってしまいそうな朝。
(今日、放課後部活があるんだった。行くのめんどくさいなー)
授業のチャイムがなっても机に突っ伏して瞼を閉じた時、先生がまだ騒がしい教室に入ってきた。
「皆んな静かに席ついてください。」
クラスメイトが、席に着く。
「今日から新しいクラスメイトを紹介します。入ってきなさい」
ドアが開いて皆んなが注目する中で、私は机に突っ伏したまま顔だけ上げてドアに目を遣った。
転校生は、男の子だった。すらっと背がたくて、髪が栗色、肌が白くて、初めて見た時、ハーフだと勘違いするぐらい綺麗な顔だった。
「東京からきました。斉藤裕です。よろしくお願いします」
くしゃっと笑った笑顔に目が離せなかった。
「今日からクラスメイトになる 斎藤佑くんだ。最近引っ越して来たばっかで分からないことが多いと思うから皆んな優しく教えてあげて下さい」
「「はーい」」
先生に指定された席に転校生の斎藤佑は、歩いてくる。
私の隣の席に。
「よろしく」私は、いつの間にか背筋が伸ばして彼に挨拶をしていた。
「よろしくね」彼は笑った。
それから、彼との楽しい学校生活が始まった。
彼は東京から家族3人で引っ越してきたばかりで、まだこの街のことをよく知らないらしい。
「じゃ放課後校内案内してあげるよ」
「いいの?ありがとう!」
「東京に住んでたの?」
「うん」
「へー東京ってどんなところ」
「僕の住んでたところは、人が多くて賑やかなところだったよ。」
「私も東京に行った事ないから行ってみたいなー」
彼は、建物に囲まれた生活をしてきたから田舎の学校が珍しくていろんなことにと興味を示してきた。
「じゃどうしてここに転校してきたの?」
彼は口籠もりながら言った。
「家庭の事情でね」あまり触れてはいけないと思い、その話は切った。
休み時間、彼は、クラスメイトに囲まれていた。彼は、人気者だった。
放課後、彼は、仲良くなった男友達に放課後遊びに誘われていた
「ごめん放課後予定があるんだ。」
彼は友達との誘いを断って私と一緒に学校を回った。
私は嬉しかった。
「ここが図書室で、ここは、音楽室で2階には、実験室があるの」
「外は、花壇とか畑もあってね部活で、野菜とか花とか育てられるんだよ。」
「ここは体育館でボールは自由に使える。今日は、バスケ部がいないから自由にボールも体育館も使っていいの。」
私は、バスケットボールを持って彼にパスをした。
「相手のコートにボールをたくさん入れた方が勝ちね」
「バスケなんて久しぶりにやるよ!」
彼とは、今日会ったばっかのはずなのに不思議と打ち解けていた。
「やったー! 入った!」
「あと一点だったのに!」
汗を拭く。喉が渇いてた。
いつの間にか外は暗くなってて下校のチャイムがなってた。
「もう帰ろっか」
彼と一緒に教室まで戻りバッグを持って校門をでて一緒に帰った。
外は、夏の暖かい風が、心地よかった。
「家はどこなの?」
「ここから15分ぐらい」
「私八百屋の隣なの」
「僕もその近くだよ」
「途中まで一緒だね。私の家の近くにプールができたんだ」
「そうなんだ。僕の近くの家にプールなんかなかったなー」
「もうすぐ夏休みなんだ」
「転校してきたばっかりなのにもう夏休みか」
「何か予定ある?」
「今のところ何もないよ」
「良かったらさ プール一緒に行かない?」
「プール、、、」
「別に泳いだりしなくてもいいから良かったら。」
「考えてみるね」
(馴れ馴れしかったかな)
信号の前で止まる。 早く青になってほしかった。でもずっと赤のままでいて欲しかった。明日も会えるのに。
信号が青になって歩く。
「僕こっちだから」
「そっか。バイバイ!また明日ね!」
「うん!今日楽しかったよありがとう!」
笑って手をふった。
今日は、放課後部活があるのを忘れてしまった。
でも、思い出したのは、その日の夜だった。
私は寝る前に、日記を描いた。
今日の転校生、斎藤佑の事、隣の席になって彼の出身や転校してきた理由
彼と放課後バスケをしたり一緒に帰った事。描いていくうちにもう5ページも使っていた。
いつの間にか、12時をまわっていた。
部活の部長に「行くの忘れてごめんなさい」とLINEを打ってそのまま寝た。
明日が楽しみだった。
次の日、朝早く来ると彼がいた。
「おはよ!」
「おはよう」
彼は私に挨拶して読んでいた本を閉じた。 私は、小走りで彼の元に行く。
「昨日のドラマ見た?」
「何かやってたの?」
「恋愛ドラマ!昨日は、すごく良かった!もうすごくキュンキュンしたの!裕くんも見てみてよ!毎週水曜日にやってるから」
「わかった。題名なんていうの」
「勿忘草」
「今度見てみるよ」
ざわざわとクラスメイトが来た。 彼に挨拶する男子達。
私は、友達と一緒に昨日のドラマの話をした。
私は、ちらっと彼を見た。笑ってる顔は、眩しかった。
1時間目の数学の授業が終わって私は、数学のノートを集めて先生に渡した
「数学の問題で分からないところがあって教えてくれませんかー」
「いいよ。放課後職員室に来なさい」
「ありがとうございます!」
次の授業の準備のため、席に戻る。
机の上に紙が置いてあった。
「夏休み 一緒にプールに行こう」と描いてあった。
横を見ると隣の席の彼と目が合った。
彼が笑った。
私は、胸がドキドキした。
この気持ちのせいで私は、先生との約束を忘れてしまって
放課後は、彼と一緒に帰ってしまった。
でも、帰り道の途中で彼は言った。
「良かったら、LINE交換しない?」
「え、いいよ!」
私は、カバンからスマホを取り出して、彼とLINEを交換した。
正直、自分から言いたかったけど彼から言ってもらえると思っていなくて嬉しくて顔が赤くなっていた。
「顔真っ赤だね」笑いながらほっぺをつねってきた。
「やめてよー」彼の肘をこずく
「これで夏休みが始まっても話せるね」
「うん」私は下を向いた。もっと赤くなった顔を見られたくなくて。
夏休みに入った。
友達とは、夏祭りに行く約束をした。
でも今日は、彼とプールに行く日。今日のために奮発して水着を買った。
花柄のちょっと派手な水着。
この日のために、ダイエットもバイトも頑張った。
彼に「もう準備できたよー」とメッセージを送る。
すると、「自分も用意できたよ」と来た。
日焼け止めを塗って帽子を被り行ってきますと言って外に出た。
早く会いたくて小走りになる。
待ち合わせ時間の、10分前に着いたけど更衣室に入る。
水着にきがえてスマホを持ってプールサイドへ向かう。
デッキチェアに座って彼にLINEを送る。
「プールサイドで待ってる。」
太陽が水着を焦がしていく。
暑い日差しの下で、ジリジリ肌を焼けつけていく。
汗が流れてきて体が熱くなる。
これじゃ、日焼け止めの意味がない。
デッキチェアに寝そべって、スマホを見る。
既読はつかないまま待ち合わせ時間に、10分も過ぎていた。
私は瞼を閉じた。
目を開けたら、2時間も経っていて人がたくさん来ていた。
彼が来てるのかもと期待したけどいなかった。
LINEを見ても、未読のままだった。
肌が焼けていて痛い。
奮発して買った水着も彼に見せるためだったのにこれじゃ目立つだけ。
涙を必死に来られて彼をまだ待った。
大丈夫。きっと来る。多分訳があるんだ。
「何かあった?待ってるからね」 LINEを送って私は、プールに手や足を付けた。
乾いた肌も水着も、日に焼けた髪も水を浴びて息がえる。
水がひどく冷たい。
彼のことを忘れてひたすら泳いだ。
泳いで泳いで体が疲れてきてプールサイドに上がってデッキチェアに寝そべった。私は、彼を待った。
彼は来なかった。
閉店時間になってスマホを持って更衣室に入り服に着替えて、外に出た。
傷んだ髪も焼けた肌も、全部彼のせいにしたかった。
買った水着も彼が可愛いと言ってくれるのを期待してたのに
涙を堪えて家に帰った。
家についてから自分の部屋に入ってベットに突っ伏した。
LINEの通知が来た。
彼かと思ったら友達から「夏祭りで浴衣着る?」とLINEが来た。
夏祭りだったら彼もきてくれるかな?
浴衣着たら可愛いって言ってもらえるかもと思い、未読のままの彼のLINEに
「夏祭り一緒に行かない?」と送った。
数分後、彼からLINEが来た。
「今日、行けなくてごめんね。夏祭りは、一緒に行こう。」
胸がドキドキした。彼に会えるかもしれないから
そのせいで、友達にLINEを返信するのを忘れた。
夏祭り当日、お母さんのお下がりの浴衣を着た。
着付けしてもらいながら、彼が「可愛い」と言ってもらうところを想像する。
髪を結んでメイクをしていつもと違う自分になる。
荷物を持って友達に、「今から出る」と送る。
彼には、「もう準備できたよ」と送った。
私は、家を出て草履を履いたからうまく歩けないけど待ち合わせ時間に、
間に合うように走る。
友達と合流して最初に屋台に行った。
りんご飴や焼きそばとかベビーカステラを食べた。
彼からのLINEの返事はなかった。
いつの間にか、もう花火が打ち上がる時間になって友達と、高台に移動した。
「ここだとよく見れるんだよ」
友達が教えてくれた高台は、誰もいなくて静かに見るには十分な、場所だった。
「もうすぐだね」
その時、私のスマホが鳴った。
彼からだった。
「もしもし?」
「今どこにいる?」
「今高台にいるけど、、」
「そっちに行くから待ってて」
電話が切れた。 私は、友達に「ごめん。すぐ戻る」と言って走って高台を降りた。
草履だと転びそうで、でも彼がすぐ近くにいると思うと会いたくてどうしようもなかった。花火が打ち上がった。
彼が、目の前にいた。優しく微笑んでいた。
「久しぶり。浴衣着てきたんだ。似合ってる。可愛いよ」
「裕くん、、」
「ごめん。プール行けなくて。待たせちゃったよね」
「いいの。今日会えたし。」
私は、打ち上がってる花火を見つめた。
「こうして二人で見れたから」
「じゃこれ本当は、プールの時に渡したかったんだけど」
勿忘草のネックレスだった。綺麗な青い勿忘草のネックレス。
「勿忘草のドラマ見たんだ。そしたら、このネックレスをシーンがあって。」
「いいの?」
「もちろん。君にもらってほしい」
勿忘草の花言葉は、「真実の愛」「誠の愛」「私を忘れないで」
私は嫌な予感がした。
すると、彼が
「あのさ、、変な話してもいい?」
「どうしたの?」
なぜか、寂しそうな目だった。
「変な話になるけど僕には、消したい過去があってさ。でもその過去があっても成し遂げたい夢があるんだ。」
それから、彼の人生の成功と夢のためにこの街に来たと語っていた。
「裕くんなら、どんな夢もきっと叶うよ!私応援してる!」
「ありがとう。転校してきてすごく不安だったんだ。僕なんかを受け入れてくれるかなって思ってた。でも君に出会えて良かった。友達になってくれてありがとう。」
彼が、笑った。一緒に花火を見た。
そして、花火が最後の一つ打ち上がる。
「あっ!いけない!私、友達待たせてるの。もう行かなきゃ。」
「分かった。気おつけてね。」
「夏休み終わったら学校きてまたバスケしよう!」
「うん」
「またね。ネックレスありがとう」
「バイバイ」
そう言って彼は、去っていった。
なぜか、もう会えないと思った。
でも、彼と花火を見れて良かったと感じた。
友達のところへ戻った。一緒に見れなくてごめんねと謝り一緒に帰った。
私は、夏休みが早く終わってほしいと思った。
夏休みも終わって学校が始まった。 でも彼は来なかった。
先生は、体調不良と言っていた。
私は、お見舞いに行きたかったけど彼の家を知らないことに気づいて、彼と仲が良かった男友達に聞いたりしたけど、誰も知ってる人がいなかった。
先生にも、聞いたけれど教えられないと言われてしまった。
それから、テスト期間が始まり徐々に彼のことを忘れていった人も多かった。
でも、まだ彼のことが気がかりで朝早く学校に来て彼が来てないか思ってしまう。
一時期、転校生が、学校に来なくなった理由の話題が上がった。
私は、聞き流した。私は、一人で彼を待った。みんなが忘れても。
夏が終わっても、秋が来ても
冬が来ても、隣の席は、空っぽのままだった
ある日、いつものように、早く学校に着くため、早起きして朝食を食べていた。
朝のニュースを見ようとテレビをつけた。
そこには、東京が映し出されていた。
「あっ!ここ彼が住んでた場所だ!何かあったのかな?」
そう思った時だった。
「東京都の○○市で女子高生が殺害された事件で17歳の高校生
斉藤裕容疑者を殺人の疑いでで逮捕されました。」
映し出された犯人の写真は、彼だった。
「今年の、3月に同級生を、殺害させた疑いが持たれています。」
私は、コップを落とした。状況が呑み込めなかった。
裕くんは、人を殺めたのだ。私と同い年の女子高生を。
この東京から田舎へ来た理由は、人を殺したことから逃げるためで
私と仲良くなったのも、また女子高生を殺すため?
私は、走って洗面所に行き、食べたばかりの朝食を戻してしまった。
「大丈夫!」
親が駆けつけてきた。私は、耳鳴りがしてそのまま倒れて気を失った。
目が覚めたのは、自分のベットの上だった。
親からは、そのまま気絶していたけど泣いていたと言われた。
友達からは、たくさんLINEが来ていた。彼が逮捕されたことや学校でもその話題で持ちきりだということ。
私は、もう何も考えたくなかった。彼が本当は、犯罪者だったこと。
人を殺した。それを隠して高校生活を送っていたこと。
そして私は、彼に恋をしてること。
恋は盲目っていうのかもしれない
あの時の自分はそうだった。彼の一緒にいられるのなら、人との約束を破ってしまったりしていた。
彼が、人を殺めていなかったら出会わずに普通に過ごせていたのに
でも、彼に出会えて良かったと思えた日々が確かにあった。
それだと、彼が人を殺めたことを肯定はしてるみたいで自分も共犯者のような気持ちになっていく。
「こんな自分消えてしまいたい」
私は、涙を流して眠りについた。
最後に彼の顔を見たのは、その日の夢の中だった。
ー1年後ー
高校の卒業式。
私は、地元を離れるため東京の大学を受験した。自分でバイトも頑張って東京に住むためのお金も貯まった。
もうここには戻ってこないように。
ここにいたらきっと彼を思い出して苦しめられるから
勿忘草の花言葉は、「私を忘れないで」だった。
きっと彼は、今までの思い出を覚えておいて欲しくて私に、ネックレスをくれたんだ。
でも、私は、もうあなたを忘れたい。
だから、
私は、彼との思い出を消した。
可愛いと言われるために用意した花柄の水着
彼に似合ってると言われた浴衣
彼のことが書かれてる日記
彼との、LINEの履歴も
彼がくれたネックレスも
全て消した。
彼と二人っきりで会った高台にも近づかないようにした。
学校では、もう彼の話をする人がいなくなった。
彼の机は、いつの間にかなくなっていた。
私は過去を消した。あなたとの思い出も会話も
あの優しい瞳も彼が普通の高校生の時の過去も。
彼自身も。彼の夢も。彼の気持ちも。
そして私は、あなたへの想いをそっと消した。
fin