サッキュバスの嫁
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)
夜、アパートに帰ってくるとドアの前に女性が立っていた。身体の線がぴっちり出るセーターを着てレザーのミニスカート。
は? 僕は混乱した。こんな娘知り合いに居ないぞ。何の用だ。デリヘルの広告が郵便ポストに入っているのを思い出す。言っとくけど、プロの女性を呼ぶほどのお金も勇気も無いヘタレな僕だ。
「あ、誠さん、お帰りなさい!」
僕と目が合った途端に嬉しそうに話しかけてくる。
「どなたですか? どこでお会いしました?」
僕は不思議に思って聞いた。僕の名前を知っているのは謎。
「ああ、ごめんなさい。私、サッキュバスなの。毎朝、満員電車の痴漢からご飯食べていたんだけど、今朝の電車で一目惚れして匂い辿ってここにたどり着いたの」
「は? 朝から待ってたの? 名前まで知っているのは?」
「うん。名前は郵便物の宛先に載っていました」
「なるほど」
「部屋に入れて♡」
ふらふらと鍵をあけようとしてふと気づく。確かに彼女は可愛くて、妖絶で、良い匂いがして……待って、部屋に入れたら僕どうなるの?
「いやいやいや、サッキュバスってそれ目当てじゃん」
「ふふ、堅いのね。私堅い人好きよ♡」
彼女が顔近づけてきて、フェロモンなのか胸元から甘い匂いがムンムン出てくる。僕は意識が蒸発しそうになる。
蒸発しそうというか、蒸発した。僕の脳みそ揮発性。
「一緒に住も♡ それだけのことしてあげる」
結局僕は彼女を部屋に入れた。後の嫁である。仕事させる訳にもいかない専業主婦だったけど、僕の安い給料で我慢して家事とかこなしてくれて、下手に文句を言う人間の女性より遙かに良かった。
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