*84* ひさしぶりの
「リオ……んっ……ん」
戸惑っているノアのことはおかまいなし。なにかを言われる前に、唇で唇をふさいだ。
どれくらいそうしてたかな。ついばむようなふれあいを終えて顔をはなすと、ほほを紅潮させたノアが、ほぅ……とため息をついてわたしを見上げていた。
「リオから、キスしてくれるなんて……」
「ノア、さわるよ?」
「え……ひぁっ」
シーツをめくり、ばさりと放る。
そうしてベッドにひざを乗り上げたわたしは、右手を伸ばし、寝間着の上からノアの脚をなで上げた。
「ねぇリオ、どうしたの……あっ」
わたしがふれると、ノアはぴくんと反応する。感度は良好ね。よし。
「ノア……今日は、いつもよりいっぱいさわろうと思うの。いい?」
「リオが、さわってくれる……うん、いいよ」
期待のこもった表情で、ノアがうなずく。そうだよね、ノアはわたしを拒んだりしない。
「もっと、ちゃんとさわってくれなきゃ……いやだからね?」
今日もそう。この天使みたいな悪魔は、無自覚に、誘惑してくるんだ。
* * *
そういえば、『こういうこと』をするのは、何日ぶりなんだろう。
「んっ……ん……あっ」
ベッドに手足を投げ出したノアが、ぴくんぴくんとからだをはねさせている。
吐息をこぼす表情はとろけて、寝間着も盛大にはだけている。
となれば当然、色白の肩や胸もとがあらわになっていて、言ってしまえば……すごく、色っぽかった。
これがチラリズムってやつか。ある意味、全裸よりえっちなんじゃないか。……なにを言っているんだわたしは。
「ふふ……リオにさわられるの、きもちい、すき……しっぽも、さわってね」
しまいにはスペード型のしっぽをゆらしながら、上目遣いのおねだりをしてくるというね。
じぶんでおっ始めておいてなんだけど、こんなに無防備なノアを見ていると、心配になってくる。
「ねぇノア、大丈夫?」
「なにが……?」
「好き放題にからだを弄られるとか……いやだったら、ちゃんと言ってね?」
ふと冷静になってみると、これはわたしが、成人していない年下の男の子を襲っている構図だ。アウトだ。現代だったら犯罪だ。
要はわたしの中に残るアラサー女子のなけなしの倫理観が、土壇場で待ったをかけていた。
「えぇ……リオにさわられるの、いやじゃないよ……?」
「そうかもしれないけど、こう、イケナイことをしている気がしてならなくて……」
「んん……むずかしいこと、俺よくわかんない……」
「わぁあ、そうだよねぇ! ごめんね! 具合悪いのに、難しいこと考えさせて!」
かくして、こてんと首をかしげたノアくんを前に、アラサー女子撃沈。
「そうだよ、むずかしいことはどうでもいい……リオにさわられたら、俺はうれしいから……ね?」
「ノア……」
ぽっとほほを染めたノアに見惚れていたら、するっと、腰になにかが巻きついた。
うん……これはもしかしなくても、ノアのしっぽだ。
「はぁっ……ん、リオ……ぎゅってして……」
「わ……んむっ!」
のそりと起き上がったノアが、わたしに向き直り、しなやかな腕で首にすがりついてくる。
しっぽに腰をからめ取られているせいで、逃げられない。
そうしてわたしは、甘えたような声をもらして顔を近づけてきたノアに、まんまと唇をうばわれてしまった。
「んっ……ふ、あまい、リオのくちびる、あまいね……」
「ふぁあっ」
舌を絡められたかと思えば、じゅるるるっと唾液を啜り上げられる。
とたん、どっと力が抜けたのは、唾液といっしょに精気を吸われたからだろう。
「あっ……これだめ、きちゃう、リオっ……」
切迫した声をもらし、わたしにぎゅううっとノアがすがりついてきた直後。
「──ンッ」
白い背を反らして、ノアが絶頂した。
どうやら、わたしの精気を吸った快感で、達したらしかった。
「は、は……んっ、リオ……きもちい……」
ノアはちゅう、とわたしの唇に吸いつきながら、うっとりとした表情で、甘い余韻にひたっていた。
「はぁ……ふぅ……ちょっと楽になった。ありがとう、リオ」
しばらくして、呼吸をととのえたノアが、そう言ってはにかんだ。たしかに、顔に赤みが差しているけど。
「ノアは、それでいいの?」
「えっ?」
「まだ万全じゃないでしょ」
「そう、だけど……あんまりしたら、リオが」
「わたしのことは気にしないで」
上着を脱いでから、ブラウスのボタンに手をかける。
ぷつん、ぷつんとボタンを外すわたしの行動に、ノアが飛び上がった。
「リオっ、なにしてるの!?」
「いいから」
慌てるノアの肩を押して、ぽすんとベッドに沈める。
そして状況を理解できず硬直したノアに、またがった。
……ほんとはね、恥ずかしい。死にそうなくらい。
だけど、ノアのためだから。
「ノア、ひさしぶりに授業をしよっか。……女の子のからだのこと、教えてあげる」
大丈夫……わたしは、やれる。