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*80* イケメン許すまじ

 設問一。

 目を覚ましたら自室のベッド。そこで甘いマスクのイケメンに添い寝され、開口一番に「おねぼうさんですね」とおでこにちゅーされたリオさんの心境を述べよ。


「……イケメン許すまじ」


 結論から言うと、わたしは怒っていた。エルに好き放題されたからだ。


 ほんと、エルはオーラ出すの反則だと思う。あの甘い香りの魔力のせいで毎回流されちゃってる。


 わりと本気で、嗅覚だけ麻痺させる麻酔薬を開発しようと考えているところだ。


「決めた。安心したエルがヴァンさんのベッドのそばですすり泣いてる動画、ヴァンさんに横流ししてやる」

「え~? なぁに?」

「こっちの話だよ、ララ」


 んで、なんやかんやあってエルから逃げ出した(今回は満面の笑みで見逃された)わたしは、ルウェリンの部屋にやってきていた。弟のお世話をしていたララもいっしょだ。


(これは往診、れっきとしたお仕事。断じて避難などではない!)


 仕事終わりに、ヴァンさんへ例の動画(ブツ)を絶対にわたすと硬く心に決める。


 エルからプレゼントしてもらったロケットペンダントの記録機能で録画したものだ。墓穴を掘りましたね、エル。ヴァンさんに爆笑されるがいい。


 とかなんとか内心せせら笑いながら、顔には出さない。治療はポーカーフェイスで。


 何度でも言う。医療人は、患者さんの前で取り乱したりなどしないのだ!


「さて。今日もはじめますか。お注射が怖くて泣かないでねー?」

「失礼な。そんなことで泣いたりしません」


 こども扱いされたのが不服だったのか。ベッドで上体を起こしたルウェリンからすかさず反論され、思わず笑ってしまったわたしだった。



  *  *  *



 意識をなくしたルウェリンを治療する最善の方法。それは、血中に残留する毒を取り除くことだった。


 はじめに腕から採血をしたらそのまま針を留置して、やわらかいチューブでルートをつくる。それをベッドサイドに用意したガラス瓶とつないだ。


 ガラス瓶には、中央に青い石がはめ込まれた水車みたいな仕掛けがある。この青い石が水の魔法石(パワージェム)で、水魔法が得意じゃないわたしが冒険者ギルドスタッフの魔術師さんに手伝ってもらってつくり上げた、特製医療装置だ。


 その仕組みは、ルウェリンの腕につないだルートから、体内の血液をガラス瓶の中へいったん排出する。それにわたしの治癒魔法を照射して無毒化した後、ガラス瓶の中をカラカラと回る水車のはたらきで、ルウェリンの体内へ血液をもどすんだ。


 イメージとしては、汚いものを取り除いて、きれいな血液だけをもどしてるって感じ。ガラス瓶の中は二層に分かれているから、毒の含まれた血液と、きれいになった血液が混ざることもない。


 現代の感覚で言えば、血液透析ってところかな。ふつうだったら、手術をして透析用の回路(シャント)を腕に埋め込んどかないといけないんだけど、静脈にルートをつなぐだけで透析ができるのは、魔法の力があってこそだな。


 異世界での透析が上手くいくかどうか。治療を開始してから数時間後にルウェリンが意識を取り戻したことで、わたしの緊張は安堵に変わった。


「今日はここまで。大丈夫? 疲れてない?」

「僕は平気です。それより、僕につきっきりで、リオさんのほうが疲れてませんか」


 抜針し、止血後の包帯を腕に巻いたときのこと。


 ツンデレなルウェリンだけど、めずらしく眉を下げて心配してくれる。昨日は三時間、今日は二時間。この間ずっとルウェリンのベッドサイドで、血液に治癒魔法をかけ続けていたからかな。


 一度に大量の血液を体外に排出するのは危険だし、少しずつ浄化していくとなると、ひたすら根気強く、時間をかけるしかないからね。

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