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*73* 鉄槌を下す少女

 わたしよりふたつ年下、なんならモンスターと闘ったことなんてないだろう一般市民の女の子が、獰猛なコカトリスをぶっ飛ばした。


 これで絶句しないほうが、おかしいと思うんですが。


「……ねえ、さん…………姉さん姉さん姉さんッ!」

「うわぁっと!?」


 そうこうしたら、地面に倒れ込んでいたルウェリンが、突然息を吹き返したみたいにはね起きたんですけど!?


 ビビッた……めっちゃビビった! 心臓が口から飛び出るかと思った!


「あぁもう手遅れだった! 冒険者にあこがれてて街のごみ捨て場でひろった使い古しの鉄槌(メイス)で毎日千回以上素振りしてた見かけによらず怪力な姉さんが、モンスターを実際に目にしてじっとしてるわけがなかったのに!」

「あらルル! さがしたわよ~」

「こっちのセリフだボケ! ったく人の気も知らずに能天気に! 今日の昼ごはん抜きにしてやりますからね……っぐぅ」

「きゃあ! ルルどうしたの!」


 ララ相手に、信じられないくらい早口でまくし立てるルウェリン。


 あれ、コカトリスの毒にやられてたはずなんだけどな……と呆気にとられていたら、顔を真っ青にしてまた倒れ込んだ。


 え、一時(いっとき)でも回復してたのすごいよ? ララに対する執念もすごいな、過激派(シスコン)なの?


 いろいろツッコミたいことはあるけど、とりあえず。


「えーっと……ララ、いままでどうしてたの?」

「そうだわ、聞いてちょうだい、リオ! レオンといっしょにお洗濯物を干し終えたら、なんだか城がさわがしくなって。気になって様子を見てみたら、このニワトリとヘビをくっつけたみたいなモンスターさんが飛んでくるのが見えたのよ!」


 おずおずと挙手をして問いかけたら、ララが興奮気味に声をあげる。


 ちょ、あと、はしゃぎながら鈍器を振り回さないで! 危ない危ない危ない!


「それでね、レオンをつれて物置きに隠れたんだけど、このモンスターさんのお仲間さんに見つかっちゃって。わたしびっくりして、手当たりしだいに物置きにあった物を投げつけてたら、なんか倒しちゃってたの!」

「えっ……コカトリスを『なんか倒しちゃってた』って……」


 ララ、強すぎか?


 わたしたちのこれまでの激闘はなんだったのってくらい信じられない話だけど、当のララがピンピンしてる。うそじゃない。


 まだ状況が理解できずにいるわたしをよそに、ハッとなにかに気づいたように、エルが口をひらく。


「もしかして……コカトリスの弱点をついたのかもしれません。ララさん、彼らを倒したときの状況を、教えていただけますか?」

「えぇ! いろんな物を投げたけれど、ランタンを投げつけたときだったわ。火が燃え移って、ものすごくのたうち回ってたの。それでわたし、きっと火に弱いんだってわかったわ!」


 だからララは、愛用の鉄槌(メイス)にアカデミーで習った火魔法を付与して、襲ってきたほかのコカトリスも撃退したんだそうだ。


「ほう……どうやら、抜群の戦闘センスを持つお嬢さんのようだ」

「お父さん……?」


 低い声でつぶやいたのは、お父さんだ。


 ララを賞賛する言葉ではあったけど、葡萄酒色の瞳をすっと細めたその表情はどこか険しく、不思議に思う。


 お父さんはそれ以上口をひらこうとはしないので、真意はわからないけど。


「狂ったように襲いかかってきて、倒しても倒しても、キリがない。けれど、火には圧倒的に弱い…………まさか!」


 一連の話を聞いて考え込んでいたエルが、蜂蜜色の瞳を極限まで見ひらいて、わたしをふり返った。


「わかりました、コカトリスを含め、この街を襲っていたモンスターの正体が! 彼らは、『デベディ』です!」

 

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