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*61* もたもたしてる場合じゃなかった

 冒険者が手出しできないように、おちびちゃんと『契約』する?


「それって、調教師(テイマー)になれってことですか?」


 薬術師のなかにも、スライムをテイムして、調薬の廃棄物を処理してるひともいるって聞いたことがある。


 でもそういうのは、やっぱり低級モンスターに限ったお話だ。当然だよね。高ランクモンスターをテイムできるなら、調教師(そっち)のほうをメインにやってるって。


 それなのに、Dランク冒険者のわたしが、C級モンスターをどうしろって?


「調教師にしろ召喚士にしろ、冒険者と『契約』したモンスターや精霊に第三者が危害をくわえれば、冒険者ギルド規定で罰則が科せられます。家族のもとへ帰すまでの一時的な『契約』でも、効果的だと思いますよ」

「うーん……おちびちゃんは懐いてくれてますけど、わたしと『契約』したいと思ってくれてるかまでは、ちょっと……」


 つまるところ、自信がなかった。


 もにょもにょ……と言葉を濁していたわたしを衝撃が襲ったのは、その直後だ。


「アグッ!」

「っだぁああああ!」


 そう、まさに衝撃だった。物理的な。


 だっこしていたおちびちゃんが、のそのそとからだの向きを変えたと思ったら、右手に噛みついてきたんだ。


「え、怒ったの? なんで? わたし変なこと言った? ねぇなんでっ!? いたっ、あたたたっ!」


 ちっちゃくても、牙や爪がするどいワイバーンだ。


 痛みのあまり、ぶんぶん右手をふるけど、噛みついたおちびちゃんは頑として離そうとしない。


「こらおちび! なにやってるんだ!」


 これにはノアも声を張り上げて、おちびちゃんをわたしから引き離そうとする。


「おや……ちょっと待ってもらえますか? ノアくん」


 そんななか、エルがなにかに気づいたように、待ったをかけた。


「なに!? 指図しないでほしいんだけど!」

「まぁそう言わずに。リオも、手をよく見てみてください」

「へっ、手……?」


 わけもわからず、言われるがまま視線を落としたら、だよ。まさかの光景に絶句した。


 噛みつかれたときに流れ出した血が、なにか不思議な力に操られるかのように、絡み合いながら宙に巻き上がる。


 それはほのかに赤い光をまとって、わたしの右手めがけ一直線に急降下。


 ──ぱぁああっ。


「あつっ……!」


 目のくらむまばゆい光とともに、傷口がカッと焼けるような熱をもった。



『此れなるは、永久(とわ)の誓約なり』



 どこからか、声が聞こえる。


 脳内に直接ひびくような、不思議な声だ。



『以上をもって、血の盟約とする』



 光が消え去り、そうっとまぶたをひらくころ、おちびちゃんはわたしの右手から牙を抜いていた。


 噛み傷が、どこにもない。その代わり、右手の甲には、ハートにドラゴンの翼が生えたような、摩訶不思議な痣が刻まれていた。


「おちびちゃん? これって……あ」

「ガウッ!」


 元気よくお返事をしたおちびちゃんをよくよく見てみれば、そのひたいには、わたしの手にある痣とよく似たハート型の紋様が。


「どうやらその子は、リオのことが大好きみたいですね。『契約』したくて、たまらなかったようですよ?」

「うそやん……」


 そういえば、モンスターとの『契約』には、契約者の血が必要不可欠だって聞いたことがあるような気もするけど……


 もたもたしていたら、ワイバーンと『契約』しちゃってた……? 薬術師なのに!?

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