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*53* ブルーム・アカデミー

「んーっ! んんーっ!」

「あっはっは! 活きのいいぼうやだ! しばらくそれでがまんしてちょうだい!」


 朝起きたら、いっしょに寝ていたはずのノアが、みのむしになっていた。ロープでぐるぐる巻きにされて、ベッド脇に放られていたんだ。


 つまり、ここにはもう、わたしを助けてくれるひとがいないということ。


「さぁ、私と愛の逃避行の時間だよ、リオちゃん? エルがどんな顔して追っかけてくるか楽しみー!」

「ひぃい……!」


 約束をすっぽかした張本人であるわたしは、なすすべもなく。


 ハスキーボイスの笑い声がひびくなか、お姫さまだっこをされるデジャヴに、この世の終わりを覚悟した。



  *  *  *



 こんどはどんなパルクール選手権が開催されるのか。


 ガッチガチにからだを強ばらせていたけど、現実は、そんなわたしの予想のななめ上を行くものだった。


 城内を疾走して、階段を駆け上がる気配。


 それは体感でいうと、ほんの一分ほどの感覚だったと思うんだけど。


「はーい着きましたよ、お姫さま」

「えーっと…………え?」


 そっとおろされ、床に足がつく感触におそるおそる目をひらいたわたしは、ポカンと呆ける。


「まぁ、お姫さまですって! どちらの国からいらしたのかしら?」

「いや、どう見てもお姫さまって顔でも格好でもないでしょう、その人」


 ……どうもすみません。一国の顔になっても恥ずかしくないような、絶世の美女とかじゃなくて。


 それはさておき。


 ちょうどわたしの前を通りがかったのは、ブラウンのふんわりとしたロングヘアーの女の子と、サラサラなハニーブロンドの男の子。


 女の子のほうはわたしと同い年くらいで、男の子は、すこし年下に見える。そろってエプロンすがたで、食器の山をかかえていた。


 ぐるりとあたりを見回してみると、空きっ腹を刺激するスープのいいにおいが。


 真正面のふたりに視線をもどして、素朴な疑問を投げかけてみた。


「あの、ここは?」

「ちっ……どこからどう見ても厨房でしょうが。じぶんたちの食事を作っている人間の顔すら知らないんですか。大層なご身分ですね、冒険者サマは」

「こらルル、舌打ちはだめよ! お行儀が悪いでしょう?」

「僕の名前はルルではなくルウェリンだって何回言ったらわかるんですか。これ今朝も言いましたけどね、姉さん」

「あら、わたしの可愛いルルは、わたしの可愛いルルでしょう?」

「……はぁ、もういいです」


 ルルと呼ばれた男の子の辛辣な言葉が炸裂するけど、女の子のほうはノーダメージ。


 なんだろう……すごくおおらかというか、おっとりとした女の子だなぁ。


「はじめまして! わたしはララといいます。この子は弟のルル」

「ルウェリン、です」

「ルルがごめんなさい。この子ったら恥ずかしがりやで」


 恥ずかしがりやってレベルの物言いではない気がするのは、わたしだけでしょうか。


「わたしはリオです。薬術師をしてます。よろしく……?」


 よくわからないんだけど、とりあえず、自己紹介しておけばオッケー?


 とここで、満を持して、ヴァネッサさんの説明が入る。


「この子たちはアカデミー生。ここ『ブルーム・アカデミー』で教育を受けている子たちだよ」

「あ……そうか、そういえば!」


 ここ旧ブルーム城は、こどもたち向けの教育施設として開放されてるって、冒険者ギルドのお姉さんが言ってたじゃない。ようやく状況が飲み込めてきた。


「血の気が多くて気難しい冒険者(オジサン)たちの相手ばっかで、くたびれてるでしょ? たまには同年代の若者同士、おしゃべりでも楽しみなさいな」


 まぶかにかぶったフードの影から、ぱちんっとウインクをはじけさせるヴァネッサさん。


 サマになってるなぁって、感嘆しかなかった。

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