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*50* ちっちゃい怪獣、襲来

「なんだこれ。……トカゲのしっぽ?」


 警戒はゆるめないまま、じっとノアがのぞき込んだ直後。


「ンンン…………ガゥウッ!」


 ビュオウッ! と突風がふいて、地面に盛った土を一瞬で吹き飛ばした。


「えっ、えっ……なんか出てきたぁ!」


 土にまみれた謎の物体が、ぶるぶるぶるっとからだをふるわせて、土をはらい落とす。


 焼け焦げた草の残骸を引っかけた『それ』は、真っ赤なからだに、トカゲのようなしっぽをもっていて──


「…………ドラゴン?」


 二本足で立ち、一対の翼をもったトカゲのようなモンスターときたら、ふつうに考えればドラゴンだ。


「いやでも、ドラゴンがこんな街中にあらわれるわけがないし……そもそも、わたしよりちっちゃいし」


 ぶつぶつとつぶやいていたら、きょろきょろしていたドラゴンもどきさんがびくりと反応して、わたしをふり返る。


「ガウ!」


 ぱああ、とつぶらな瞳を輝かせ、とてとてとてっと軽快に駆けてくるけど……



 こけっ。



 転んだ。……転んだ!?


「……ウ」


 のそのそと起き上がったドラゴンもどきさんは、またわたしのほうへ向かって駆け出す。だけど。



 とてとて、すってん、ころり。



 足をもつれさせて、こんどはしりもちをついてしまう。


「ウ……ウゥ、ウァアアア!」


 ぷるぷると小刻みにふるえ出したドラゴンもどきさん、ギャン泣きです。


「わぁっどうしたの? 痛いの? 大丈夫っ!?」

「ちょっとリオ!」


 困っているひととか、泣いているちいさい子を見ると、深く考えずに行動してしまうのが、わたしの悪いくせ。


 ノアに動かないようにと言われていたこともそっちのけで、ピーピー泣きじゃくるドラゴンもどきさんのそばへ駆け寄った。


 近づいてみたら、ドラゴンもどきさんになにやら絡まっていることに気づく。


「あ、これバッカ草だ。くっついたらなかなか取れないんだよね。これが絡まっちゃって、うまく歩けなかったのかなぁ? 取ってあげようね。よいしょっ」


 マジックテープのごとく全身にくっついているバッカ草を、べりべりと剥がす。


 焼け焦げてチリチリになっているからか、思ったより簡単に剥がすことができた。


 きれいに草の残骸を取りのぞいて、頭、背中、しっぽに残った土ぼこりも払ってあげる。


「もしかして、バッカ草を取ろうとして、燃やしてたの?」


 そう声をかけると、わたしを見上げたドラゴンもどきさんがぱたりと泣き止んで、まんまるな瞳をかがやかせた。


「ガウッ!」


 エメラルドみたいに、きらきらとした瞳だった。


 あれ? なんだろ、どこかで見覚えがあるような。


 真っ赤なからだに、澄んだ緑色の瞳の、ドラゴン系モンスター…………あ!


「ガウ、ガウッ!」


 とてとて、と二本足で近づいてきたドラゴンもどきさんが、ひざをついたわたしの胸に、ぽふりと飛び込んでくる。


 体長はおよそ四十~五十センチ。つやのあるエナメル質のうろこに覆われた、あざやかなクリムゾンレッドのからだをしている。


「クゥゥ……」

「はわぁ……!」


 ぎゅうぎゅうとわたしにしがみついて、トカゲみたいな長いしっぽをぶんぶんと左右にふっているすがたといったら、飼い主にじゃれついてはしゃぐ、わんちゃんみたいだった。


「なにこの子……めっっっちゃかぁわいい!」

「こら、簡単に絆されすぎ」


 きゅんきゅんさせられっぱなしなわたしの頭上に、ため息が落ちてくる。


 言わずもがな、呆れたように肩をすくめるノアだ。


「ねぇリオ、そのドラゴンもどきって」

「ブルームに来る途中で会ったワイバーンと、よく似てるよね」


 道理で見覚えがあるはずだよね。


 あのワイバーンと違うことといったら、ドラゴン系のモンスターにしてはころっとした、このキュートなサイズ感くらいだろう。


「あのワイバーンの家族? はぐれたのかな? だったらいまごろ、必死にさがしてるよね、かえしてあげなきゃ!」

「どこにいるかもわからないのに?」

「うっ……!」


 ノアの言いたいことはわかる。


 わたしたちはこの街に、唯一の治療要員としてやってきた。


 いつお呼びがかかるかもわからないのに、どこにいるかもわからないモンスターをさがすために、不用意に街を留守にはできない。


「でも、放っておけないでしょ? ここに置き去りにしたら、なにをされるかわからないよ」

「まぁ、そうだね。主に冒険者たちに」


 モンスター討伐にやってきている以上、冒険者たちはいつにもましてピリピリしている。


 たとえちっちゃなモンスターでも、討伐対象にされるかもしれない。


「こんなに人なつっこいのに……乱暴なことされるのは、いやだよ」

「……うん、リオならそう言うと思ったよ」


 またひとつ息をついたノアが、ひざを折って、わたしたちの目線までかがみ込む。しょうがないなぁって顔で。


「じゃあ俺たちでお世話しよう。みんなには内緒でね」

「いいの?」

「ここでの仕事が終わって、そいつを家族のところに帰すまでだよ」

「ノア……ありがとうっ!」

「リオのためだもん。そういうことだから、おまえも俺たちの言うことをよくきいて、いい子にすること! わかった?」


 きょとんとしたように、エメラルドの瞳がノアを見上げてから、しばらく。


 くぅ~きゅるる。


 ぽてっとしたおなかの虫を鳴らしたドラゴンもどきさんが、うりゅっと瞳を潤ませたから、リオさんは悟りましたよ。


「ウゥ……」

「あー! おなかペコペコなんだねぇ! ひもじいのいやだねぇ! ほらおいで、大丈夫だからね、よしよーし!」

「クゥゥン……」


 からだを丸めたドラゴンもどきさんをだっこして、ローブのすそをひるがえす。そして。


「リオさん、この子をつれてちょっぱやでお部屋にもどるので、ノアくんは食堂でお昼ごはんをもらってきてください。なるはやで」

「なるはや……?」


 ここは回廊。いつだれが通るともしれない場所なんだ。


「可及的速やかによーろーしーくー!」

「あっ、もうリオってば!」


 そういうわけで、おなかを空かせて悲しそうにしているドラゴンもどきさんを一刻もはやく安全な場所へおつれすべく、猛ダッシュするリオさんなのであった。

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