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*31* わたしにしかできないこと

「……だから人間は嫌なんだよ。じぶんたちの都合のいいように解釈して、こっちのことなんか考えもしない」


 すぐとなりにいるわたしにしか聞こえない、低くうなるようなつぶやきがあった。


「俺たちに家族がいたとか、どんな思いでどうやって生きてきたとか、知ろうともしないで……」


 フードの影で、サファイアの瞳が嫌悪感をにじませている。


「いつも殺せ殺せって無責任にわめくのは……じぶんじゃどうにもできない臆病者ばかりだ」


『悪魔』として虐げられてきた過去が、怒りにふるえる言葉を、ノアにつむがせたのかもしれない。


 そっか。そうだよね。


 わたしもノアの立場だったら、意味もなく嫌われて、酷いことをされて、つらいってレベルじゃないと思う。


「ありがとう、ノア」

「……リオ?」


 胸がモヤモヤしていたのは、『わからなかったから』だ。


 どうして怪我をしているのか。

 どうしてそうなったのか。


「エル!」


 わからないから、わたしは。


「考えがあります。わたしに任せてください!」


 ──知りたいんだ。ワイバーン(あの子)のことを。



  *  *  *



 ──リオの夢はなに?


 ふとしたとき、ノアの問いが頭をよぎる。


 わたしの夢は、傷ついていたひとをわたしが作った薬で助けて、みんなをしあわせにすること。


 でもね、いまは、ちょっと違う答えになるかな。


 わたしが助けたい『みんな』は、人間もモンスターも関係ない。


 傷ついて、苦しい思いをするのは、おんなじなんだからって。


「考えがあるとは、具体的にはどうするつもりですか? リオ」

「薬術師ができることなんて、決まってるでしょ?」


 にっと口角をあげて答える。


 ふり返ったエルは、知性のある蜂蜜色の瞳で、じっとわたしを見つめている。


「おいおい、お嬢ちゃん、まさかとは思うがワイバーンを治療する気か? 助けたところで襲われたらどうする!」

「そうなったらそのときです」

「あいつのために危険をおかす義理はねぇだろ、やめとけ!」

「しゃらくせぇ。義理はないけど理由ならあるんだよ」

「んなっ……」


 おっと、つい口調が荒くなってしまった。


 でも、ぎゃあぎゃあ反論してきたおじさんが面食らったようにおとなしくなったから、まぁいいや。


「わたしは薬術師。傷ついて苦しんでるだれかがいるなら、放っておけないの!」

「待ちなさいリオ、危険です……!」


 わぁっとまくし立てたら、案の定、エルに制止される。


 だけど、エルの伸ばした手が届くことはなかった。


「リオの邪魔をしないでくれる?」


 ノアがあいだに割り込んで、エルにとおせんぼうをしたんだ。


「きみは、彼女が危険な目に遭っても平気だっていうんですか?」

「あんたは、リオのことをよく知らないから、そんなことが言えるんだね」

「……なんですって?」

「平気なわけないでしょ。だけど、俺が止めてもリオは行くよ。リオはああ見えて、頑固なんだ。だれかを助けたいって必死になったリオは、だれにも止められない。それは、俺がよく知ってる」


 エルが押し黙る。


 ちょっとノア、それってどういう意味? わたしが猪突猛進ってこと? なんて可笑しくなっちゃう一方で、じんと胸が熱くなる。


「大勢で取り囲むと刺激しちゃうので、みなさんはそこで待っててください!」


 こころの中でノアに感謝しながら、わたしはテディブラウンのローブをひるがえした。



 ぶっちゃけさ、怖いよ。


 鋭い爪でザックリやられたり、頭からガブッと食べられたらどうしようって、内心ビビってる。


 でもさ、そうやって生まれたての子鹿みたく足がふるえてるのに、行かなきゃって思うの。


 助けたいって想いで頭がいっぱいになって、それ以外なんにも考えられなくなるの。


 いまのわたしを突き動かしている原動力。


 物好きだって笑いたいなら、好きにすればいい。


 わたしは、わたしにしかできないことをするだけ。

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