表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/91

*30* 傷だらけの翼竜

「ワイバーン? ドラゴンじゃないのか?」

「バカを言え! ドラゴンがこんな人里の近くにホイホイ現れてたまるか! あれはワイバーンだ!」


 翼竜ワイバーン──亜竜や、低級ドラゴンとも呼ばれる。


 モンスター全体でみると希少価値は中級クラスで、冒険者ギルドがさだめる討伐クエストの難易度はC以上。


 わたしも、目にするのははじめてのモンスターだ。


「グルルル……」


 ここで、鉄錆のにおいが鼻をついた。


 地面にうずくまり、低くうなるワイバーンの足もとに、じわりと血だまりがにじむ。


 翼だ。左の翼の付け根からの流血が酷い。


「翼がちぎれちゃいそう……いったいなにが……」

「大方、街のひとを襲おうとして冒険者に返り討ちにされたんでしょう。ここまでやられてんなら、あとは簡単ですよ」


 そういって前に出た商団ギルドメンバーのおじさんが、クロスボウをかまえる。


「脳天をぶち抜いてやる!」


 ギリリと限界まで引き絞られた矢が、うなだれるワイバーンの頭部めがけて放たれた。


「ギシャアアッ!」


 けれど、ワイバーンが跳ねるように起き上がり、雄叫びをとどろかせる。


 一直線に飛んでいった矢は、ワイバーンが吐き出した炎に焼かれ、消し炭となってしまった。


「なっ……ファイア・ブレスだと!? ワイバーンはドラゴンと違って、ブレス攻撃ができないはずじゃ……のわっ!」


 ヴン!


 トカゲのような尾が、空間を薙ぐ。


 間一髪よけたおじさんだけど、もしあの一撃をまともに受けていたら、岩壁に叩きつけられ、全身を骨折していたかもしれない。


「手負いのモンスターは、通常より気が立っていて凶暴です。おのれを過信して軽んじることのないように」

「も、申し訳ありません、エリオルさま……」


 口調こそやさしいけど、エルの言葉は、戦闘に臨む者のそれだ。


 緊迫の瞬間。ほとんどのギルドメンバーがどう出るべきか決めあぐねて、膠着状態に陥る。


 そんな中、エルは蜂蜜色の瞳でワイバーンを見据え、その動向を注視している。


 長い指先は腰に()いた白銀の剣に添えられ、いつでも応戦できる状態。


「エリオルさま、こんなところでモタモタしてられないですよ。こんな死にかけモンスター、さっさとやっつけちまいましょう」

「おい、死体はどうするんだ? そのまま放置したら、別のモンスターが死臭につられて集まってくるぞ」

「やつらの餌になる前に、解体して燃やしちまえばいいだけの話だろ」

「それがいい、殺せ、殺せ!」


 馬車酔いとか、そういうのとは別次元の頭痛がする。


(なんとまぁ過激な言い分ですこと……)


 いのちを『救う』ために日々奔走する薬術師(わたし)の前で、安易に『殺せ』だなんて。


「……グゥゥ……」


 そのとき、その光景を目にしたのは、まったくの偶然だったのかもしれない。


 でも、こっちがさわぎ立てるほど、ワイバーンがうなだれているのは、気のせいじゃない。


(……つらそうな顔、してる?)


 大きなからだを小さく丸めるそのすがたが、「聞きたくない」って耳をふさいでいるようにも見えて、目が離せない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ